第32話 湖の真実

 

 王宮に着くと、すぐに王様との謁見室に案内される。


 部屋に入ると王様の隣にはアーノルドのお父様……宰相様もいらっしゃる。


「それでライザー、もう一度詳しく状況を話してくれないか」


「はい、今回の浄化先のアルコ山なんですが、今までの浄化とは異質なんです……」



 私の浄化が全く進んでいる気配がなく、浄化の根元がいつもと形が違うこと。魔物の強さや湧き上がるスピードが違ったこと。そして100年以上浄化されたことがないという噂のことなどを王様に説明する。


「ふむ……。根元の形に関しては、まだこちらでも調べている最中だ。今までの聖女様の手記にそういった記述がないか調査している。分かり次第いつもの手段で伝えよう」


「はい、分かりました。それで浄化がされていないことに関してはどうなのですか?」


「あぁ、恐らくその話は本当だ」


「なんだって!? ずっと浄化されてないで放置しているとはどういうことだ! 俺たちの旅の順路についてもちゃんと報告しているがそんな話はなかった! 優先順位も低かったんだぞ!」


 そう言って王様に詰め寄るライザー。私は知らなかったのだが、王宮から緊急度の優先順位をもらっており、それを踏まえた上で距離などを見てアーノルド達が旅路を決めていたらしい。



「すまん、優先順位は住民への被害を鑑みて決めていたんだ。その湖は山頂にあり、住民の住んでいる地域に魔物が出ることは滅多にない為優先順位が下がってしまっていた」


 そう宰相様が答える。


「だがそれにしても100年以上放置しているのはおかしいだろう!!」


「前の代の聖女様は最初から浄化を受け入れなかった。そしてその前の代の聖女は途中で逃げ出したのじゃ。あそこは地理的にも他の場所から遠い為、他の聖女達も後回しにしておったのじゃろう。そうしているうちに誰も浄化しないままになってしまっていたのじゃ」


 確かに私たちも時間に余裕が出来たから浄化に向かうことが出来たが、本来なら旅の終盤に割り当てる予定だったそうだ。山頂まで登るのにも2時間程かかる為、体力的にも余裕がある時にしか行けないだろう。



「他にもそういった場所がないか調べておいて下さい。これから回る北の地域は特に辺境な場所が多かったはずだから、そういう場所がある可能性がある」


 ライザーが強い口調で言うと、宰相様が頷いてくれる。


「あぁ、申し訳なかった。その魔物の数からだとアーノルドが居なくては浄化は厳しいだろう。あいつに任せた調査はもう終わるから、至急浄化場所まで向かうよう伝えておこう。浄化はあいつが着いてからにした方が良いだろうから1週間待ってくれ」



「あぁ。そうさせてもらいます。それでずっと浄化してなかった影響はどう予想されていますか」


「そういった記述も見つかっていないから憶測でしかないが、浄化の力が効かないのもそのせいだろう。恐らく長期戦になると思っている。魔物が多く発生しているのもそのせいだろう。今の部隊の人数では心許ないだろうから、次の浄化の日に合わせて王宮から別部隊の追加派遣と、あちらの領の騎士団にも協力するよう声をかけておく。」


「ありがとうございます。とりあえずアーノルドが到着するまでは待機しますが、もし状況が変われば彼を待たずに浄化を始めると思います。出来る限りに人を揃えて下さい」


「あぁ。聖女様もそれで良いかのう」


 そう王様に問いかけられ、不安な私は正直な思いを伝える。


「アーノルドを転移魔法を使って呼ぶことは出来ないんですか? すぐにでも浄化を始めないと嫌な予感がするんです」


「うむ……その気持ちは分かるが難しいのぉ。そもそも転移魔法は上級魔法で使える者も少ない上、ほとんどが自分1人の転移で精一杯なのだよ。そこのライザーが異例なだけだ」


 アーノルドだけでなく、ライザーも規格外な人間だったらしい。


「だったらライザーがアーノルドを迎えに行けば……」


「流石の俺もメイを宿に連れ戻した上にアーノルドを連れて往復したら魔力切れを起こすな。そこまで使ったら次の日も魔力不足で充分に戦えないだろうからそれは無理だ」


「そっか……」


 ライザーもアーノルドに次ぐ戦力だ。彼が居なければアーノルドが居ても戦力不足となるだろう。


「分かりました。アーノルドが着くまで待ちます」


「そう焦らなくても大丈夫じゃろう。今まで何も問題なかったのだから、1週間遅れたくらいで大きな変化はない」


 そう言う王様に頷くが、私は嫌な胸騒ぎがしていた。何か良くないことが起きる、そんな気がするのだ……。


 こんな時に彼が居てくれたら安心することが出来るのに。でも待つと約束したんだ。聖女として恥ずかしい姿を彼に見せたくないと思い、私は前を向く。何かあっても私がみんなを救って見せる!

 そう思うと少しだけ力が湧いてきた気がした。




 翌日も状況は変わることなく、私は元の世界に戻る。


「ライザー、来週はみゆちゃんに来てもらうのやめにする? 浄化でそれどころじゃなくなっちゃうと思うし」


「いや、みゆさえ良ければそのままこちらに来て欲しい」


「?? うん、分かった。事情説明してみゆちゃんが大丈夫なら一緒に来てもらうね」


 ライザーならみゆちゃんの安全を1番に考えると思ったのに意外な返答だった。確かにここ1ヶ月程会えていないし、一目でもみたいということなのかな。私もアーノルドに少し会えただけで嬉しくなるからその気持ちは分かる。



「あぁ。みゆなら安全なところに居れば2日で元の世界に引っ張られるからそんなに危険はないだろうしな。最後にみゆに会いたい」


「……最後ってどういうことよ」


「それだけ今回の浄化が危険な状況だと言うことだ。俺たちは万が一の可能性も考えている」


「そんなこと言わないでよ。そんなこと言ってたら本当にそうなっちゃう……」


「あぁ、悪かった。だが安心しろ、お前は何としても俺たちが守るから」


 そんなこと言わないで……。私はみんなが居ないとダメなのに。


「分かった! 何かあったら私がみんなを助けるから! 誰も死なせない」


「あぁ、その時はよろしく頼むぜ聖女様」


 そう言ってライザーは笑ってくれた。するとそこに1羽のフクロウが手紙を持ってやって来る。


「手紙……?」


「フクロウ便だな。魔石に込めた魔力を目印に手紙を運ぶことが出来るんだが。これはアーノルドの字だな。そうか、そのブローチにあいつの魔力が込められているのか……愛されているな。知っているか? 自分の魔力を込めた贈り物は、こいつは俺のだっていうのを表しているんだぜ」


 そうからかわれ赤くなってしまう。ライザーを人睨みにしてから手紙を開ける。



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 メイへ


 父親から湖の件について聞いたよ。こっちの調査はもうほとんど終えてるから、アルペンに乗ってすぐにそちらへ向かうよ。


 俺が着くまで、絶対に無事で居てくれ。俺がメイのことを必ず守るから、信じて待っていて欲しい。


 ……メイに早く会いたい。メイの顔を見ないと1週間が始まった気にならないよ。今までメイの顔を見ただけでどれだけ力を貰っていたのか身に染みて分かる。早くメイを抱きしめて力を充電したい。


 ※馬での移動時はリドルかザッカリーのみにすること。間違ってもネールの馬には乗らないようにな。



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 読んでるうちにまた顔が赤くなって来てしまう。私も早くアーノルドの顔を見たい。それにしても手紙の破壊力の大きさが凄い。生身じゃなくてもこんなにダメージを与えてくるとは思わなかった。その手紙は大事にいつものバックにしまう。


「どうだったアイツからの手紙は?」


「すぐこっちに向かってくれるって。あと……ライザーはアーノルドに手紙の書き方を教わった方が良いと思うよ」


「なっ! その手紙見せろ」


「やだよ〜!」


 先程までしんみりとした空気だったが、手紙のおかげでいつもの調子が戻る。彼は離れていても、私の心を守ってくれてると思ったら温かい気持ちになる。うん、きっと大丈夫! 来週また頑張ろう。

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