第31話 異常事態

 


「今回の湖メイはどう感じたんだ」


 やはりライザーも異変を感じていたのだろう。部屋に入ると向こうからそう切り出してくる。



「いつもなら浄化の魔力を流せば、根元がほんの少しでも小さくなるはずなの。だけど今回はそれを全く感じることが出来なかったの……」


「先に魔物の浄化をして魔力が足りなかったということはないんですか?」


 リドルがそう問いかけるが、魔物の浄化に使ったのは私の魔力総量の10%くらいに過ぎない。それなのに全力で浄化して全く手応えを感じることが出来なかったのだ。



「そんなことないわ。魔物には対して魔力を使ってないもの。それと邪気の根元も、いつもなら木の根のような形をしているのに、今回は卵のような丸い形をしていたの。それも初めてだよ」


「卵の形……。何かありそうだな。王宮にあの湖とその卵型の根元に関する情報がないか伝達魔法で飛ばそう」


「それに今までの根元って、その根元から邪気を全体に広げてる役割をしてたと思うの。根元から邪気が流れ出ているというか。だからその根元を断たないと浄化出来なかったんだけど、今回は根元に邪気が集まってる感じがした……」


「……嫌な感じがするな。それも合わせて報告しよう」



「ありがとう。それで私が浄化している間はどんな状況だったの?」


 そうするとリドルが詳しく話してくれた。


 いつもなら浄化が始まると最初は魔物が勢いよく襲ってくるのだが、浄化が進むにつれて湧き上がる勢いが減ってくる落ちてくる。しかし今回はその湧き上がるスピードが全く落ちなかったそうだ。しかもいつもより湧き上がってくるスピードが早かったそう。そして魔物も今までの倍の強さで、倒すのに苦戦したとのこと……。



「やっぱり浄化が進んでなかったと言うことね」


「そうだな。その卵の形というのは、大きさ的にはどれくらいなんだ。以前浄化したノーイ湖の根元と比べると」


「うーーん、ノーイ湖は横に広がってたからなんとも言えないけど……今回の方が深いし大きさ的には大きいかも知れない」


 根元はその邪気の場所により形も大きさもバラバラなので比べるのが難しいのだ。



「これは明日の浄化も延期すべきかも知れないですね」


「延期するの……?」


「あぁ。1週間くらい延期したからと言って状況が悪くなることはないだろう。一度ちゃんと調べて対策してから臨んだ方が良いだろう」


「確かにそうだけど」


 何だか嫌な予感がするのだ。確かに浄化を止めたところで被害は変わらない。魔物は倒せばその分また生まれてくるのだが、倒さない限りはその数を保つ。恐らく邪気の大きさに比例して、操れる魔物の数が決まっているのだと思われている。だから何もしなければ永遠に同じ状況が続くだけのはずなのだ。



「あの湖は山の頂上にある為、人里への被害は少ない。だから焦らずによく調べてから行こう。アーノルドがまだ帰ってきてない今はあまり危険なことはしたくないんだ」


 リドルがそう言うその気持ちも分かる。アーノルドは実力あっての部隊長なのだ。あんなに優しいのに、剣を一度握ると人が変わる。まるで一陣の風が吹いたかのように素早い動きで魔物を圧倒する。彼1人で十人力なのだ。


「……分かったわ。明日は私も街に出て話を聞いてみる! ライザーも王宮から何か情報が来たら教えて頂戴。もし明後日浄化出来そうなら浄化するわ」


 そうして作戦会議はお開きとなった。


 ◇


 翌日、私はライザーと街への調査に出る。王宮からの返事はまだ来ない。



「それで、話を聞くってどうやってするつもりだ?」


「うーーん、分からない。どうすれば良いの?」


 宿に残れというライザーを無理矢理説得し、彼を連れて街まで出てきたのだが、この後どうして良いか分からない。まさか聖女ですと名乗る訳には行かないし……。


「はぁ、ほら行くぞ」


 そう言ってライザーは近くの薬屋に入っていく。


「おじいさん、僕達は聖女様の浄化部隊の者です。少し話を聞きたいんですが宜しいですか?」


 そうライザーが話しかける。彼がこんなに丁寧に話しているのを見たことがない。王様にさえ態度をあまり変えないのに。



「あぁ!! 聖女様の!! とうとうこの地に聖女様が来てくれたんじゃの!!」


 そう言うとおじいさんは私たちを拝みだしたので慌てて止めて話を聞く。


「あの邪気に侵された湖の話を聞きたいのですけど、何か知ってることがあったら教えて欲しいのです」


「この街の者はあの湖はもう浄化されることはないと思っていたんじゃよ。わしのじいさんが産まれるよりも前、そんな前から一度も浄化されずに今日まで来たとこの辺りでは伝わっているよ」


 おじいさんのおじいさんが産まれる前……大体120年くらい前かな?


「……そうですか。その他には?」


「そもそもあの湖に近づいたことがないからのう。山に登るのもずっと禁止とされているし。魔物が街まで降りてくることは滅多にないから、普段はあまり関わりがないんじゃ」



「分かりました。ありがとうございます」


 そう伝えて私たちは薬屋を後にした。その後他の住民にも話を聞いたが、みんな大体同じように昔から邪気が溜まっているとの話だった。



「ねぇ、100年以上もの間浄化されたことがないなんてあり得るの?」


 あれから私達は広場に向かい、ベンチに座るとライザーに問いかける。



「あり得ないな……というかあってはならない」


 邪気は一度浄化すると数十年は再発しない。再発するタイミングはバラバラだが、すぐに王宮に報告が入り、その度に聖女がいれば浄化する事になっている。私が今全国を回っているのは、前の代の聖女が召喚後すぐに逃げ出した為、邪気が溜まっている場所が多いからだ。彼女がちゃんと浄化していればここまで溜まることはなかったのだが、残念ながら歴代の聖女は逃げ出した数の方が圧倒的に多いらしい……。



「これは王宮に直接確認をした方が良いかも知れないな……。一旦宿に戻るぞ」



 宿に帰りライザーが王宮へ伝達魔法を飛ばす。返事があり次第私とライザーとで王宮へ転移魔法で移動する予定だ。


「万が一明日浄化となるとあまり魔力は使いたくないから、俺とメイの2人の転移が精一杯だ。リドルは悪いが留守を頼む」


「はい、僕が留守を守っているので2人はあちらで話を聞いてきて下さい。よろしくお願いします」


 そうリドルとも話して1時間後、王様からの面会許可が届き、ライザーと2人で転移魔法で王宮に向かう。王様が何か情報を知ってれば良いのだけど……。

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