第30話 アルコ山の湖

 


「はいこれ、みゆちゃんからの返事」


「おぅ、ありがとうな」


 思わずライザーの顔をじっと見てしまう。


「何だ?」


「いや、なんでもない。ただ手紙の内容はもう少し変えた方が良いと思うよ」


「なっ! 見たのか!?」


「あっ! 来週はみゆちゃんも来れるってよ!」


 そう言って逃げる。ライザーが真っ赤になって何か言ってるが知らんぷりだ。





 今回はアルコの山の湖が浄化場所らしい。湖は浄化に時間が掛かるから苦手だ。しかもあそこは火山によって出来た火口湖だと聞いている。水深がかなり深く、手強そうだ。



「ねぇ、今回の浄化は多分時間かかるよね?」


「あぁ。2週間で済めばいいがそれ以上かかる可能性も考えている。そのことも踏まえて場所を選んだ。俺たちが浄化で滞在してる間にアーノルドも合流出来る様にな」


 まだ馬車での移動中。この後馬に乗り換えるそうなので今のうちにライザーに聞きたいことを尋ねる。


「アーノルドはどれくらいで戻って来れそうなの?」


「短期決戦と言ってたから調査も2週間くらいだろう。早ければ来週には合流出来ると思うぞ」


 2週間か……。確かにこの2日で浄化しきれなければ合流できそうだ。


「わざと遅らせるなよ」


「分かってるよ!」


 そう軽口を叩きながら山の入り口まで来る。

 ここから先は場所を降り、馬で行けるところまで行きその後は徒歩で山頂の湖を目指す。山頂までは2時間あれば着くそうだ。





 馬を降りて歩くこと30分程して湖のが見えるところまで来ると、先に行ってた調査隊からストップがかかる。


「魔物の数がかなり多いです。一回魔物を討伐してからじゃないととても近づけません」


「だそうだ。どうするリドル?」


 ライザーは魔道士の代表だが、部隊をまとめて指示出しをするのは騎士の仕事だ。今回はリドルの判断が隊の判断となる。


「魔物の数はどれくらいいるんだ?」


「ざっと100匹は居るかと思います。スライム系からウルフ系まで様々な種類がいます」


 100匹はきつい。騎士達は一対一の接近戦向きで私を守りながら戦うのだし、魔道士が5人居たとしてもかなり厳しい状況だ。しかもモンスターの種類が多いと対策や防御も難しくなってくる。動きが想定しにくいし、モンスターによって弱点の攻撃が異なるのだ。



「……先にメイ様に魔物を直接浄化してもらい数を減らしてもらいます。俺たち騎士がメイ様の周りを囲って守りますので、浄化をお願いします。メイ様の浄化から溢れた範囲の魔物を魔道士の者たちで討伐して、全滅したところすぐに湖に近づく」


「あぁ。俺もそれに賛成だ。メイの浄化の力を使ってしまう分、今日の浄化が多少進まないかも知れないが、その数相手にメイの力なしでは対抗出来ないだろう。少しでも浄化が進めば魔物の発生速度も落ちるしな。メイもそれで良いか?」


「もちろん!」


 私の浄化の力は邪気だけでなく直接魔物を浄化することが出来るのだ。でも邪気を浄化しない限り無限に魔物が出続けるので、普段は魔物退治は部隊のみんなに任せて邪気の浄化に集中させてもらっている。



胸元につけたブローチに触れる。こうして遠くに居てもアーノルドのことを感じることが出来る。怖い気持ちがないと言ったら嘘になるが、彼がきっと見守ってくれている。うん、きっと大丈夫!






「行くぞ!俺とネールが先頭を行く、他の騎士隊のメンバーはメイ様を囲って守りながら前進。その後方を魔道士隊で固めて浄化しきれなかった魔物を頼む。ネール行くぞ!」


 そうリドルが叫ぶとネールと魔物を倒し、私が進む道を開けてくれる。

 魔物が見渡せる場所に立ち、浄化の魔法を辺り一面に広げて魔物を一気に浄化させなければならない。


「浄化!!」


 そう叫ぶと私の体から発した浄化の魔力が辺り一面に広がり、魔物を一瞬で浄化させていく。想定より少し多めに魔力を消費してしまったが、根本を探る力はまだ残っている。今日は根本の場所を特定するだけで終わりそうだ。浄化を進められたとしてもほんの少しだろう。そう覚悟しつつ前へと進んでいく。


「半分は浄化出来たぞ! メイ様そのまま湖の手前まで行くので、湖の浄化をお願いします! みな、いつも通りの隊列でいくぞ! 油断するな!」



 みんなが守ってくれている中、湖の表面に触れる。邪気に侵され黒く濁った水は触れるだけで悪寒が走る。周りで戦闘の音が途切れない中、それらを遮断し根本を探ることに集中する。この浄化が進まないと永遠と魔物が湧き出てしまう。



 根本を探ろうとするのだが、大体の場所は分かったが、なかなか深い所にあるらしくなかなか辿り付けない。今日少しでも浄化を進めないとまた明日も同じ状況からのスタートになってしまうのに。



「焦るな! 俺たちなら大丈夫だから、焦らずしっかり進めろ! まだ力も持つだろう!」


 そうライザーが遠くから叫ぶ声が聞こえる。深呼吸をして、もう一度ゆっくりと根本の場所を探る……そうすると何やら大きな塊にぶつかる。これが根本……? 今までとの感覚が違うので不安になるが、他にそれらしきものはない。


「見つかりました! 浄化します!」


 周りの空気がより一層緊張が走る。浄化の魔力を流している間が、魔物が次々湧き上がり1番危険なのだ。



 少しずつ根本全体を覆うようにして浄化の魔力を流す。しかしなかなか浄化が進む気配がない。いつもなら少しずつ根本が小さくなる感覚があるのだが……。浄化しようとすると抵抗し、周りの邪気を吸い取って力を保とうとしているかのように感じる。しかもこの形は何? 卵のような形……? そうしている間に頭がくらくらしてくる。


「終わりだ! 一旦引くぞ! 俺がメイ様を運ぶからネールは前を頼む。ライザー達は後ろから援助してくれ!!」


 リドルの焦った声が飛ぶが、もう意識を保ってられなかった。






「気がつきましたか? もう宿に着いています。安心して下さい」


 気がつくとベットに寝かされマーサが付いていてくれた。


「みんなは……怪我はない?」


「何人か傷は負っていますが既に治癒魔法で治療済みです。安心してください」


「良かった……。リドルとライザーはいる? 確認したいことがあるの」


「はい、呼んできます」



 あの湖は何かが変だった。何だか嫌な予感がするので、リドルとライザーにも早く確認したい。ただの思い過ごしなら良いのだけど……。何かとても良くないことが起こりそうな予感がする。この世界に来てからこういった予感は外れたことがないのだ。

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