第29話 余談 ライザーの手紙

 

「不安か?」


 ライザーが心配そうに聞いてくる。


「不安はもうないよ。アーノルドを信じて待つって決めたから」


「そうか。なら良かった。今回の事件は俺たちも前から怪しい噂を聞いて、この街に来る前から調べていたんだ」


「そうだったの?」


 全然知らなかった。ライザーとアーノルドが情報を掴み、部隊で協力して調査している所に私が捕まってしまったのだそうだ。あの時部隊のみんなが誰も相手をしてくれなかったのはその調査をしていたからだったのか。


「あぁ。なのにメイが先に捕まるから焦ったぜ。まだアジトの場所も掴めてなかったからな」


「ごめんなさい」


「あぁ、でも調? お前にしてはよく考えたな。おかげで聖女の評判も鰻登りらしいぞ」


「うん。使えるものは使わないとと思って。私のせいでみんなに迷惑かけたくなかったから、聖女の権力を使ってみたの」


「あぁ、良い作戦だったと思うぞ。聖女様がそう言う限り調査の奴らは何も言うことができないからな。おかげで俺らもお咎めなしだ。感謝してる」


 ライザーに褒められるとは珍しい。ムズムズしてしまう。


「そういえばこれ、みゆちゃんからの返事だよ」


 そう言ってライザーに手紙を渡す。こっち来れないみゆちゃんにライザーは手紙を書いているのだ。それを私が郵便屋さんとなり繋いでいる。異世界との文通なんてロマンチックじゃないか。



「みゆちゃんなんて?」


「……元気だそうだ」


「あぁ、うん」



 ライザーからもらう手紙は毎回便箋何枚書いてあるのだろうと思うほど分厚いのだが、みゆちゃんからの返信はペラッペラなのだ。


「ライザーどんまい」


「……はぁ。俺の愛がまだ足りないのか」


 足りないどころか重すぎると思う。







 暫く進むと森の中で止まる。


「今日はここで野宿することにします。今回は急な変更だったので、まだ先に出発している部隊の調査が終わってないのでこれ以上進むことが出来ないのですみません」


 リドルは謝るが私は別に野宿でも構わない。


「ううん、安全を優先してくれてるのでしょ? 久しぶりの野宿も楽しみ。だってリドルの野営ご飯は美味しいんだもん」


「ありがとうございます。腕によりを奮いますね」


 そうして私は4日間移動を繰り返し、元の世界に帰っていった。次こちらに来た時には、浄化場所近くの街まで移動してくれている予定だ。



 帰る時に渡されたライザーからの手紙は、5cmは行くのではないかという分厚さだった。この世界の紙が分厚いことを考慮しても異常だと思う。



 ◇



「はい、これライザーからの手紙」


「うん、ありがとう」


 ライザーから預かった手紙を元の世界に戻ってくるとみゆちゃんに届ける。


「みゆちゃんこの手紙ちゃんと読んでるの?」


「うん? それでアーノルドと仲直りは出来たの?」


 良い笑顔で流されてしまった。みゆちゃんがこの手紙を受け取る時に嬉しそうにしている顔を見たことがない。強いて言えば一番最初に渡した時は少し嬉しそうだった……かな? 頑張れライザー。心の中で応援する。


 手紙を渡すと4日間の出来事を報告する。ライザーのことも伝えようかと思ったら全部手紙に書いてあるからいいと断られてしまった。



「なるほどね。アーノルドさんと暫く会えないのか。せっかく仲直りしたのにね。でもまぁそれくらい距離おいた方が良いんじゃないあなた達の場合」


「何でそんなこと言うの。ただでさえ週4日しか会えないのに。しかも会えていてもそんなに一緒にいれる訳じゃないし」


「だからそれがおかしいんだって。普通の恋人だって、そんなに会ってるのは同棲してるカップルくらいよ。普通社会人の恋人同士なら良くて週1、2回、予定が合わなければ1か月に数回とかよ」


 ……確かに。そう言われればそうだと思う。


「だからお互い依存してる部分があったのよきっと。少しはアーノルドさん離れして、精神的に自立しなさい」


 うん、否定出来ない。アーノルド離れ出来ないせいで今回こんなややこしいことになってしまった気もする。


「しっかり距離を置いて、大人の関係を築いていきなさい」


「うん、ありがとうみゆちゃん。やっぱりみゆちゃんが居ないと私はダメだなぁ」


 そう言うともうしょうがないなぁと苦笑して私の頭を撫でてくれる。結局みゆちゃんも私に甘いのだ。


 私はそんな人たちに囲まれて甘えて生きてきたのだろう。今後はみんなに頼らなくても大丈夫なように鍛えなければ。



「それで? ライザーからの手紙にはどんなことが書いてあるの?」


 みゆちゃんが手紙を開けたのを見てすかさず聞いてみる。


「見る?」


 そう言って一枚渡してくれる。みゆちゃん宛の手紙を見ていいのかと一瞬悩んだが、すぐに好奇心が勝って読んでしまう。



 --------



 ◯月◯日


 7時 起床 アーノルドのトレーニングに付き合う

 8時 朝食 アーノルドと旅路の確認、指示出しをする。

 9時 宿を立つ。東へ馬で移動

 12時 昼食 途中の村でもらったパンで済ます

 14時 街道沿いの宿に宿泊、巡回番で魔物を数体退治する。

 18時 宿に戻り夕食

 20時 風呂、ミーティングを済ませ自室にて魔法の研究

 23時 就寝


 ◇今日の研究成果


 やはりこちらの世界に留めようとするパワーが必要だと思われる。それを強くするには魔石が有効なんじゃないかと思い、実験中だ。



 --------



「これは何? 業務日誌か何か?」


 意味が分からない。意味が分からなすぎるよライザー。これが恋人に送る手紙? 王宮に送る業務報告書の間違いじゃなくて??


「これが1週間分、毎日何をしているか書いているわ」


「……。意味がわからない……」


「なんでも浮気してないか疑われないように、毎日の行動記録を書いてくれてるみたいなの。基本毎日同じような行動しかないし、面白くもないから書かなくて良いって言ってるんだけどね。書くんだったらちゃんと面白いネタを用意して欲しいわ。1枚目に目を通してあとは読まずに戻しているわよ」


 みゆちゃんの毒舌が炸裂している。少しライザーが不憫になる。


「私からも手紙の内容について言っておこうか?」


「本人が書きたいなら好きにさせたら良いわ。何度か言っているけど一向に変えないのよ。本当は私にもを書いて欲しいみたいだけど、それなら手紙を受け取らないと言ったら諦めたみたい」


 みゆちゃんの返事が短い訳だ。これだったらまだ恥ずかしいくらいの恋文の方がマシじゃないだろうか。ライザーって恋愛不器用なのかしら。私には偉そうなこと言ってたのに。そう思うとライザーのことを少し可愛く思い笑ってしまった。次あちらに帰った時にからかってみよう、いつものお返しだ。

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