第28話 約束

 

「……ということで、今回は聖女様が彼女達が囚われているという情報を耳にし、ということで宜しかったですか?」


「えぇ、そうです。私の勝手な判断で皆さんにご迷惑をお掛けしたことはお詫び致します。ですがこれは部隊のみんなには何も相談せずに決めてしまったのです。ですから部隊の者には何も責任を取らせないで下さい」



 私は今日は事情聴取というものを受けている。



 ◇



 あれからこちらの世界に戻ってくると、前回いた宿で目覚めた。前回の浄化場所は終えていたで別の場所へ移動していると思ったのに何で同じ宿にいるのだろうと考えていると、マーサが部屋にきて状況を説明してくれる。



 何でも前回捕まえたもの達の規模が大きすぎて、被害者である私にも詳しい話を聞きたいそうだ。彼らは人身売買だけでなく、違法薬物や他国からの危険生物の密輸など様々なことに手を染めていたらしい。王様も今回の事件を重く見ており、浄化よりも事件解決の方を優先させたとのことだった。



 そうして私はそのまま宿で、王宮からの調査隊の人と話していた。しかしそこで被害にあった女性達が、聖女様が自分達を助けにわざわざ捕まりにきてくれたと証言していると聞き、その話に乗っかったのだ。



 あのままでは私が囚われたのは部隊の警備の不備ということで、恐らくアーノルドにも責任が及んでしまうんじゃないかと、あっちの世界にいる間もずっと心配していたのだ。その女性達の話に乗っかればその責任問題を回避出来るのじゃないかと思った。




「そうは言っても何の責任も取らせないということは出来ません。責任者も必要があれば代わりの者を送ろうと話しております」


「私は今の部隊のメンバーにとても感謝し、信頼しています。ここまで3年間一緒に旅して来たのです。もしここで責任者を変えられたら浄化の仕事にも影響を及ぼすかも知れません」


 そう言うと調査官をじっと見つめる。浄化のことまで出して脅しも入っているが、身の振りなど構ってられない。アーノルドがいなきゃ本当に私はダメなのだから。





「……分かりました。聖女様の意向を大切にと王様からも言いつけられていますので、今回は聖女様に免じて部隊の責任は問いません。事件が明るみになったのは聖女様と彼らのおかげですから」


 そう言うと、男達はどんな会話をしてただとか、女性達が囚われていた時の状況、怪我の様子など基本的な取調べを受けて半日後には解放された。







「メイ様!! 本当に心配したんですよ!!」

「無事に帰って来てくれて良かった〜」

「この1週間心配で眠れなかったですよー!」


 取り調べを終え、みんながいる食堂に入ると声を掛けてくれる。


「メイ様、本当にすみませんでした。俺があの時ちゃんと着いて行っていたら……」


 あの時扉番をしていたリドルが声をかけてくる。


「いえ、あれは私がそうしてと言ったんだから気にしないで。私を気遣ってくれたんでしょう? それにそのおかげで潜入出来たんだから。これからもよろしくね」


 そう私が笑うとリドルも納得したようで下がって行った。

 私が調ということは隊のみんなにも伝わっている。みんなも私の意図を汲んでそれに関しては深くは聞いてこない。



 みんなと話していると、奥の部屋で会議をしていたアーノルドがやってきた。

 会うのは3日振りだが、もう長いこと話していないような気分になる。


「待たせたね。みんなに今後の予定を伝える。次行く予定だった浄化場所は今から出発しても着くのに4日かかる為後回しにすることにした。移動先についても浄化できずにただ待つことになるからね。先に少し遠いがアルコの山に行きそこの浄化を進める」


「アルコの山まではどれくらいかかるの?」


「あそこはこの街からだとちょうど1週間くらいですね。なので今週は移動だけで、浄化は来週になります。その分今回の報酬はないのですが、よろしいですか?」


「えぇ、浄化に対する報酬だもの。問題ないわ」


 週2日の浄化に対しての報酬であるのだから、ただこの世界に来ただけでは報酬は貰えない。今までの分が貯まっているので問題ない。



「あと、俺は今回の事件の調査でこちらに残ることになった。調査が終わり次第後から合流する予定だ。その間の指揮は、副隊長のリドルに任せる」


「はっ、今度はしっかりメイ様をお守りします!」


「あぁ。準備が出来次第……1時間後に出発する」


 うそ……やっとアーノルドと話せると思ったのに。まだちゃんと話せないまま離れ離れになってしまうの……?



 私が不安そうにしているのを見かねたのか、アーノルドが私の方に来てくれる。


「メイ、支度があるだろう。部屋まで送るよ」


「はい……」






「何でアーノルドは一緒に来れないの? 調査は王宮の担当じゃないの?」


 部屋に入った途端アーノルドを問い詰めてしまう。


「ごめん。実は裏にいるのがかなり厄介な相手かも知れないんだ。俺の力を借りたいと言われ協力することにしたんだ。親父と王様からもそう言われていて断ることが出来ない」


「……私から離れたいとかじゃないよね? このまま辞めたりしないよね?」


 信じるって決めたのに、またこんな質問をしてしまう。自分のことが嫌になる。


「あぁ、違うよ。俺ももう逃げない。すぐに解決して後から追いかけるから、待っていて欲しいんだ。俺のことを信じて欲しい」


「うん……」


「出発まであと1時間ある。ちゃんと話そう。メイもこのまま離れるのは嫌だろう?」


「うん。私もちゃんと謝りたかったの。アーノルドの気持ちを疑ってごめんね。いつも私のことを考えてくれていたのに、聖女としか思われていないんじゃないかって不安になって勝手に暴走して」


「いや、謝らなきゃいけないのは俺の方だ。こんなことになるならちゃんと俺の気持ちを話せば良かった。メイ、メイはそう望んでいないのは知っているが、俺はメイのことと聖女のことを切って考えることは出来ない。メイはメイであるし、聖女でもある」


「うん、今なら分かるよ」


「俺が好きになったのは、聖女であるメイなんだ。聖女として悩みつつも真っすぐに取り組むメイの姿を見て守りたいと思った。聖女じゃなかったら出会いもしなかったし、こんな気持ちにならなかっただろう。だからメイを一人の女性として好きであると同時に聖女様としても好きなんだ」


「うん、私も騎士としてアーノルドと出会えたから好きになれたんだもん。騎士としてのアーノルドを含めて好き。それと同じよね。でももし私が聖女じゃなくなっても好き?」


「もちろん。もし仮に今後力がなくなって聖女ではなくなったとしても、聖女であった頃のメイが居なくなるわけじゃないだろう? 俺の好きな頑張り屋のメイが居なくなるわけじゃない。過去も未来も、聖女であることも含めてメイのことが好きなんだ」


「うん、ありがとう。あと一つだけ聞いていい? なぜ触れてくれなかったの? それは聖女だから? 私が普通の女の子なら触れてくれたの?」


「……うん、聖女だから触れるのを躊躇った。自分が汚してしまったらどうしようかと思ってしまった。後は……キスをするとその、……力が湧くんだ」


「うん? 嬉しくってってこと?」


「いや嬉しい気持ちはあるけど、物理的に力が湧くんだよ。ちょっと言いにくいんだけど……キスをするとメイの方から浄化の力が流れ込んで来たんだ。多分メイは無意識だったと思うけど、その力で体の疲れとか、ちょっとした怪我とかがなくなって体がとても軽くなったんだよ。でもそれはメイの力を利用しようとしているみたいで、メイとキスするのがその為にしているのじゃないかと思われるのも嫌で勝手に拒否してしまっていた」


 まさかそんな理由だったとは……。要するに人工呼吸のように浄化の力を彼に移してしまっていたということか。彼の話に思わず赤面してしまう。


「これをメイに」


 そうして渡されたのは以前私があげたネックレスと同じような羽のモチーフのブローチ。ただし羽にキラキラと輝く宝石のような物が埋め込まれている。


「これは……?」


「この石の部分は俺の魔力を込めた魔石を入れているんだ。これがあれば、君がどこにいるか辿ることが出来る。今回のようなことになった時の為につけておいて欲しい」


「ありがとう!」


 そう答えると彼が私を抱き寄せてくれ、そっと唇に触れてくれる。ようやく私たちは本物の恋人同士になれたのだろう。もう些細なことで不安になることはない、私は彼のことを信じている。


「私ちゃんと待ってるから。絶対にすぐに追いついてね」


「あぁ」


「お別れの前にもう一度抱きしめてくれる?」


 そう聞いた瞬間彼の腕の中にいた。ギュッと力強い腕に抱きしめられ、呼吸をするのも忘れてしまう。


「メイ……好きだよ」


「うん。信じてる」



 そうして私達はアーノルドと別れて次の浄化先へと旅立った。

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