第15話 別行動

 

 それから朝市を楽しんだ私たちは、王都のメイン通りを探索中である。人通りもまだ多い為、まだ2組とも手を繋いだまま歩いており、私は未だにドキドキが止まらない。本当にダブルデートしている気分だ。


「なぁ、ここから別行動にしないか?」


「えっ? どういうこと?」


「俺がみゆを連れて自然と離れるから、お前はアーノルドと一緒に過ごせ。夕方あいつの屋敷で落ち合おう」


「えっ、ちょっと待ってよ」


 そう耳元でこそこそと相談される。そして私が反対する前にライザーはみゆちゃんの手を掴むと、まさかの魔法を使って姿を消してしまう!


「みゆちゃん!!」


「はっ!? あいつっ! 何を考えているんだ」


 アーノルドがすぐさま捕まえようとしたが、その手をすり抜け2人は消えてしまった。




「……」


「……」



「ごめん、あいつがあんな暴走をするなんて思ってなかった。一度屋敷に戻ろうか」


「ライザーって女の人にだらしなかったっけ? 今まであんな姿見たことないんだけど……どうしたのかしら」


 口では軽い人に思えるのだけど、旅の最中はそんなことはなかった。休みの日にハメを外していたのかも知れないけど、仕事中はまじめにきっちりするタイプなのだ。


「俺も長く一緒にいるけど、あんな様子は初めてだよ。女遊びも派手なタイプじゃない。一応侯爵家の一員だからね。問題にならないようそこら辺はちゃんと心掛けてるんだ」



「屋敷に戻るのはやめよう……多分このまましばらく2人は戻ってこないと思う。待っててもしょうがないからこのまま2人で過ごしたいな」


「……そうだね。あいつならそうしそうだ。付き合うのが俺だけになって申し訳ないけど、約束通り王都を案内するよ」


 今日のアーノルドはこういう言い方が多い。私はアーノルドが良いのに。


「私はアーノルドと街歩き出来て嬉しいよ。前に約束した通り今日はアーノルドに私が一日付き合う日ね!」


 いつか2人で出掛けた時の約束を口にする。そうすると彼はやっと今日笑ってくれた。


「確かにそういう約束だったね。じゃあ俺の行きたいところに付き合ってもらおうかな。つまらないかも知れないけど良いかい?」


「うん! 普段アーノルドが行く店が知りたいの!」


 そうして歩いていくと、聖女様人形が売られているのを見つける。王都バージョンは髪を下して花冠をつけており、とても可愛らしかった。


「王都限定の聖女様人形は気に入った? 1つ買う?」


 そうアーノルドが冗談めかして笑う。


「要らないよ! 恥ずかしいもん。でもこの王都限定のやつは可愛くって嬉しい。本物の私はこんなに可愛くないから花冠も似合わないもの」


 そう自虐的に笑うと、アーノルドと繋いでいる手が強く握られる。


「メイは可愛いよ。本物の方が人形の何倍も可愛くて綺麗だ。浄化を真剣に取り組む姿は誰よりも美しい。メイはもっと自信を持って良いと思うよ」


 そう強い瞳で告げられ、ドキドキが止まらない。きっと彼は励ましてくれただけだと思うけど、彼がそういうなら私も少しは自信が持てそうだ。


「うん、ありがとう」


 そうしてアーノルドは笑顔で街を案内してくれた。普段の剣や盾を磨くための研磨剤を買いに行ったり、防具の店を見たりする。店に入るたびに店主らしき人が彼に話しかけていく。


「おい、久しぶりだな!! 聖女様にしっかり尽くしているのか?」


「はい、ちゃんとやってますよ」


「そうかいそうかい。いつもありがとうな! お礼におまけしておくから頑張れよ! 聖女様にもよろしくな」


「ありがとうございます。聖女様にもちゃんと伝えておきますね」


 そう私の方を見て笑うアーノルド。王都の人達からも慕われている彼を見ると私も嬉しくなる。こうやってみんなに慕われているのも彼の人徳だろう。そうやっていくつか店を回り終え、私たちはゆったりと王都を歩く。


「アーノルドったら休みなのに旅の時としていることは一緒なのね」


 そう私が笑うとアーノルドも笑う。


「確かに変わらないね。もうずっとこの生活が続いているから急な休みにどうしていいか分からないんだ」


「ふふ、私と一緒ね。そうだ! お昼はパンでも買って公園か丘で食べてピクニック気分にしない?」


「それは良いね。あっちに有名なパン屋があるから買っていこうか」


 そう言うとアーノルドとパンを買い、丘まで足を運ぶ。

 この丘はアーノルドのおすすめの場所で、街から少し離れている為か私たちの他に人が居ない静かな場所だった。丘からは王都の街並みが小さく見える。




 2人で買ってきたパンを分け合いながらこの静かな空間で過ごす。会話がなくても心地良い。


 ご飯を食べ終えるとアーノルドが昔話を聞かせてくれる。


「この丘は俺がよく1人で来ていた場所なんだよ。俺の家はあのように父親が宰相、兄も補佐官だろう。だから騎士になりたいって言われた時も最初は反対されたんだ。それで家を飛び出した時にこの丘を見つけて、一人でこの街の風景を眺めていた」


「そうだったの。何で騎士を目指したの?」


「父親や兄がこの国の政治は担ってくれるだろうって分かってたから、俺は俺の力で何を守れるのか試したかったんだ。そんな時に聖女様の居場所が分かりそうだとなって、浄化部隊の選抜試験が行われると聞き、俺は親父達を必死に説得してその部隊の試験に臨んだんだ」



 私の部隊は今までの経験を問わず、広く募集したと聞いている。数年間の自由への制約は受けるが高収入や名誉職とあり、かなりの応募があったそうだ。


「部隊の候補に残ってからも、聖女様が現れるまでは数年間ずっと訓練続きだった。そしてメイの召喚が成功した時、1番良い成績だった俺が部隊長に選ばれたんだ」


 実は私の召喚には何年もかかったらしい。それだけ聖女を召喚するのは大変なのだ。みゆちゃんとシェアハウスをするまでは、孤児院にいたり大学の寮に入ったり、一人暮らしをしたりと居場所が転々としていたからそのせいもあったと思う。


「すぐ召喚されなくてごめんね」


「メイのせいじゃないだろう。気にしないで」


 そう優しく笑ってくれる。



「正直に言うと俺に部隊長が務まるか不安だったんだ。俺には戦闘経験もそんなにある訳じゃない、ただ特訓での成績が良かっただけだ。部隊の中にはザッカリーみたく俺より経験がある年上の人だっている。それをまとめ上げる力が俺にはないと思っていた」


「そんなことない! アーノルドが居てくれたから、みんな頑張って来れたのよ!」


 今では部隊長はアーノルド以外に考えられない。部隊のみんなもアーノルドを信用しており、何かトラブルがあっても彼に一番に相談しに行っている。ザッカリー達年上の隊員もそれは同じだ。


「あぁ。今では自信を持って任務に着いているよ。それはメイ、あなたのおかげだ」


 そう話しながら私をじっと見つめる緑色の瞳に気づいて、目を逸らせなくなる。彼の瞳に私はどう映っているのだろうか。


「私のおかげ……?」



そう話していると2人の間に蝶が来て、踊るように2人の間を舞うと私の頭に着地する。


「ふふ、あの時を思い出すね」


「あぁもう3年も経つんだ」


3年前のあの時に思いを馳せる。

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