第14話 異世界ダブルデート!?

 

「それで、王様との面会は問題なく終わったのね」


 元の世界に戻ってきた私は、みゆちゃんに王様と話したことを報告する。


「うん、浄化し終えた後の生活も保証してくれるらしいから、今後の生活に問題は無さそう!」


「良かったわね。じゃあ少しずつこっちの仕事を減らして、向こうの生活に慣れる感じかしら」


「うん。とりあえずしばらくは仕事続けるけどね。多分1年以内には向こうに完全に留まることになると思う」


「1年かぁ。長いようで短いわね」


 そうなのだ。あと1年でみゆちゃんとお別れしないといけないと思うと時間があっという間に感じる。


「うん。あとみゆちゃんも今度の召喚の時に一緒に行けることになったの! どうかな?」


「本当!? 有給溜まってるから休みを取るわ!」


 みゆちゃんに詳しい話をする。浄化はないから安心して良いこと、アーノルドの家に泊まる予定なこと。そしてみゆちゃんがどのくらいの日数あちらの世界に留まれるか分からないこと。



「分かったわ。私はそれで構わない。念のため4日間は休みにしておくからいつ帰っても問題ないわ」


「ありがとう! アーノルドを見ても惚れちゃダメだよ! 惚れさせるのも禁止!」


「めいとは趣味が違うから大丈夫よ。私は優しい男より押しが強い方が好みだもの。それより魔法の世界に行けるのよね? とっても楽しみだわ!」



 そうして一緒に異世界に行く計画を立て、あっという間に前日になった。



「じゃあ私と手を繋いで。念のためくっついて寝よ」


 そう言って私のベットにみゆちゃんを入れる。一緒のベットで寝るのは小学生以来だ。昔は寂しくなるとよくこうやって2人で寝転んでいた。


 布団に入ると隣にみゆちゃんがいる安心感からか、すぐに眠くなる。


 ◇


 目が覚めた時にはちゃんとみゆちゃんが隣に居た。周りを見回すと私たちが普段生活する部屋の2倍はあるような大きな部屋に召喚してもらえたようだ。



 トントントン

「メイ様、いらっしゃいますか?」


 ドアの奥からアーノルドの声が聞こえる。私はドアに近づき返事をする。


「うん、いるわ。私の友人も無事に着いているの」


「分かりました。ここは俺の実家の客室です。今侍女を呼びますから準備が出来ましたら下に来て下さい」


 そう言われてしばらくすると、公爵家の侍女の方が来てくれて、私たちの衣服を用意してくれる。今日はみゆちゃんもいるので、公爵家が何種類か服を用意してくれていたらしい。みゆちゃんは私よりも背が高いからこの気遣いは助かった。私の服は入らないだろうから。


 みゆちゃんが紺色のシンプルなワンピースを着て、私は柔らかいブルーのワンピースを選んだ。



 部屋に着くとアーノルドとライザーが座っており、その奥には威厳のある男性と夫人が座っていた。


「メイ様、紹介します。こっちが俺の両親です」


「初めまして、めいと申します。アーノルド様にはいつもお世話になっております」


 緊張しながらも両親に挨拶する。


「そんなに緊張しないで宜しいですよ。むしろこちらが頭を下げなければならない。聖女様のおかげでこの国は助かっている。ありがとう」


 そう言われてお父様に頭を下げられてしまった。挨拶が済むと自分達がいたら気を遣ってしまうからと夫婦は応接間を出て行った。その気遣いに感謝する。大好きな人の両親と会って、緊張しない訳がない。しかもまだ恋人でもなく聖女と専属騎士という間柄だ。それで両親とご対面してもどう接していいか分からない。



 後から聞いたのだが、アーノルドのお父様はこの国の宰相だそうだ。確かに最初の召喚の時似たような人を王様の近くで見た気がする。さすが公爵様だ。そんな人を父に持つアーノルドを一瞬遠い存在に感じてしまう。いけない、私は公爵家とか関係なしに彼のことが好きなんだから。ここで遠慮なんかしてたら永遠に彼に近づかなくなってしまう。





「メイ、そろそろそちらの美人さんを俺たちに紹介してくれないかな」

 そうライザーに促され、みゆちゃんを紹介する。


「こちらが私のお姉ちゃんのような存在のみゆちゃん。みゆちゃん、こっちの金髪の人が魔道士のライザーで、茶髪の人が騎士のアーノルドだよ」


 私はみゆちゃんにも2人を紹介する。


「めいからいつも話は聞いています。めいがいつもお世話になっています」


「いえ、助かっているのはこちらです」


「それにしてもメイの友人と聞いていたから同じタイプかと想像していたのに、全然違うタイプなんだな。こんな美人さんが来てくれるとは思ってなかった」


 みゆちゃんとアーノルドが和やかに挨拶していたのをライザーがぶち壊す。


「おい、その言い方は失礼だろう」


 アーノルドがライザーを嗜めるけど、なんだかいつもより不機嫌な気がする。いつもならもっと柔らかい言い方をすると思うのに。



「お前何で怒ってるんだ? それより今日はこれから街に案内するってことで良かったかな?」


「うん、私も王都を見学するのは初めてだし色々見て回りたい! 旅行みたいだねみゆちゃん!」


「えぇ、楽しみだわ。よろしくね」


 私たちが盛り上がってる時も、アーノルドは少し不満そうな表情をしていた。







「今日は朝市があるんだ。そこで朝食を取ろうと思ってるんだけどいいかな?」


「うん、朝市なんて楽しみ! 何が有名なの?」


「王都の朝市は、新鮮な魚がメインだな。その場で捌いた刺身が売られているから、それを食べるのが上手いぞ」


「魚は好きだわ。こっちの世界の魚も向こうと同じなのかしら」


 私たちは4人で会話を楽しみながら朝市に着く。市場は人でごった返していた。油断するとすぐはぐれてしまいそうだ。


 そう思っているとライザーがみゆちゃんの手を取る。


「はぐれたら行けないから手を繋いでおこう。こうしたらダブルデートみたいじゃないか?」


 そんなことを言っておどける。


「私はめいと手を繋げばいいから離して」


「いや、万が一の時を考えると俺かライザーと一緒にいた方が良いと思う。ライザーはふざけているが、俺らどちらかとは離れないでいて欲しい」


 そうアーノルドが告げるのでみゆちゃんは大人しく手を繋がれている。確かに私とみゆちゃんの2人きりになっても迷子になって困るだけだもんね。


 みゆちゃん達が手を繋ぐのを羨ましく見ていると、私の手にそっと温かい手が触れた。


「俺で申し訳ないけど繋いでくれる? はぐれたら大変だから」


「うん! ありがとう」


 私が嬉しそうにするのを、ライザーとみゆちゃんが生暖かい目でみてくる。前回のデートでは手を繋いで歩くことはなかったのだが、今日は幸先が良い。何か良いことが起こりそうだ。


「あっ見て、あれはめいが好きなホタテじゃない?」


「メイはホタテが好きなの?」


「うん! お寿司は必ずホタテを食べるよ! お刺身も焼いたのも好き!」


「知らなかった。今度行く北の領地はホタテが有名なところもあるからそこへ行ったら食べようか」


「やったー! 北に行くのが楽しみ!!」


 お寿司について詳しく聞きたいライザーにみゆちゃんが説明してくれる。いつか手料理をアーノルドに作ってあげたいな。元の世界に戻ったら料理をもっと練習しようと密かに誓う。料理はみゆちゃん担当だったから私は不得意というか、ほぼしてこなかったのだ。


 みんなでワイワイ話ながら、お刺身や焼き魚を買って近くの広場で食べる。どれも新鮮でとても美味しかった。私は怖くて挑戦できなかったが、みゆちゃんは紫色をしたこの世界特有の魚にも挑戦していた。やはりみゆちゃんは色んな意味で強い。

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