第13話 王様との面会
「アーノルド案内ご苦労だった。下がって良い」
王様がそう告げるとアーノルドがこちらを見て、心配しているのが伝わる。私はアーノルドを見て大丈夫と言う気持ちを込めて頷き、それを見たアーノルドは頭を下げて退出した。
「改めてお礼を言わせてもらう。3年間の浄化の旅で各地の浄化を進めてくれたこと、国を代表して感謝する」
「いえ、私は契約の通り働いて給金も頂いていますので当たり前のことをしているだけです」
「全くそなたは初めから変わらないのう」
この王様は私を小娘と馬鹿にすることもなく、1人の人として対等に扱ってくれる。この人だから私はこの契約を受け入れることが出来たのだろう。権力を振りかざすような人でなくて良かった。
「ライザーから話は聞いておる。こちらの世界に留まる時間が増えているそうだな。誠に申し訳ない」
「いえ、それは私も受け入れていますので問題ないです」
「だが向こうでの生活にも影響が出ているであろう。それは本当に申し訳なく思っているのじゃ。次回から4日分の手当を渡すことにしよう」
「いえ、そんなに頂けません。浄化の仕事は今までと同じく2日しかしてないのですから、今でも十分過ぎるくらい頂いています」
今は一度の派遣で25万、ひと月で大体100万程頂いている。最初はそんなに必要ないと言ったのだが、国を守ってくれているのに給金をケチる訳にはいかない、私の給金が低いと浄化部隊の賃金も上げられないと言われた為、この金額に落ち着いたのだ。
3年でかなりの額を貯めているのだが、こっちで使う機会もなかった為、ついこの前まではおもちゃの紙幣のように感じてしまい、大金を持っている自覚はなかった。しかも旅費にかかる費用は全て必要経費として、給金とは別に国が出してくれている。
「実はライザーには伝えてないが、今までもこうしてこちらの世界に留まる聖女はいたのじゃ。だがその聖女達もこんなに短時間でそうなった者は居ない。5年、10年という長い年月を経てそうなっていったそうだ。だから我々もまだ先だと思いそなたに話していなかった。それは申し訳ないと思っておる」
そういう話は最初にして欲しいと思ったが、この世界に留まる聖女の方が稀らしい。歴代の聖女の中にはなんと召喚を拒否した人、途中で辞めてしまった人も珍しくないらしい。
召喚に関しては結構簡単に拒否できる。元の世界で住んでいた所から引っ越せば良いのだ。浄化の時に根元を探すのと同じように、聖女の居場所を特定するのが1番大変らしい。2回目以降はそれが分かっているから比較的簡単に呼び出せるのだそうで、居場所を変えられてしまうとまた初めから探し始めなければならないので、困難を極めるそうだ。それに強い拒絶の気持ちを持っている人もこっちに引き寄せにくいらしい。
「だから其方のように召喚に応じてくれるだけで我々は感謝でいっぱいなのだよ」
そういう聖女に拒否された場合は、次の聖女が呼び出せるまでひたすら耐えるしかない。聖女が現れるタイミングは誰にも分からない為、毎日王宮の魔道士が聖女探しをしているそうだ。それだけ探しているのに、見つかるのは数十年に一度のみ。だから聖女様が少しでも浄化に取り組んでくれるだけで大喜びだそうで、私は3年も続けていてとても感謝されている。だから聖女に対する待遇もとても良いのだ。召喚されたのがこの国で本当に良かったと思う。
「そして其方のようにこちらに来て浄化を進めてくれる聖女様も、浄化を全て終えるには長い年月がかかる。その間に二重生活に疲れて、こちらで聖女として過ごしたいと思いが強くなると、この世界がその気持ちに応えて聖女を引き止めると考えられていた。もちろんライザーが言うように浄化の進み具合とも関係があるとはされている。だが1番は聖女の気持ちなのだ」
どの聖女もその結論に至るまでかなり悩むらしい。向こうの生活を完全に捨てて戻らない決意をするのだからそうなのだろう。だが何年、十数年とこちらの国にいると、皆こちらにも好きな人が出来たり、向こうでの生活が成り立たなくてこちらに来る選択をすることになるそう。
恐らく私みたく誰かに一目惚れする聖女は居なかったのだろう。確かに初めての召喚の大混乱の中一目惚れする私は結構図太いと思う。彼を見たその日から彼の側にいる生活の方を大事にしてたし、孤児だったから向こうの世界に未練はそれほどない。そう言った環境がこの世界に留めやすくしてしまってるみたいだ。
「だから我々はもし聖女様がこの世界に留まっても、十分な生活が出来るように補償しているのだ。聖女様の人生を変えてしまうのだから、それくらいでしか我々は償うことが出来ないからのう」
「そうだったのですね。ですが私は今までの給金と、浄化し終えた後の生活が確保出来ればそれ以上は要らないです」
「もちろん浄化が終わった暁にも其方には聖女としての給金を払い続ける。今ほどは渡せないかも知れないが、生活に困らないようにするのは約束する」
こうして私と王様の面会は終わった。
私は今まで通り週2日の浄化で良いそうだ。それ以上に力を使ったら私が倒れてしまうかも知らないとのことで、配慮してくれた。正直2日間浄化するだけでくたくたなのでこの配慮はありがたい。
浄化し終えた後もそのまま時々街の様子を見に行って、邪気が発生していないか確認し、その都度浄化していけばお給料ももらえるらしくて安心だ。邪気は一度浄化すれば数十年は再発しないらしい。邪気が発生する場所も大体決まっているので、巡回もそんなに大変ではないだろう。
それに私は一応浄化以外にも治癒魔法も得意なのだ。さすが聖女様と言ったところだが、その力を使えば聖女としてではなくても治癒士として生活していくのに問題はないと思うので、こちらに来た後の生活にも不安はないだろう。
謁見室を出るとアーノルドが待ってくれていた。
「何か嫌なことはありませんでしたか?」
「うん、王様とも無事話終えたよ。でもやっぱり気疲れしたかも知れない。ちょっと疲れちゃった」
「無事に終えたなら良かったです。それではあなたの部屋までエスコートさせて下さい、聖女様」
そう言うと跪き私に手を差し出してくれる彼はまるで王子様のようだ。その手に私の手をそっと乗せると優しく包まれる。彼の手の大きさに改めてドキドキしてしまう。
部屋までの短い道のりを彼にエスコートされながら歩いていく。私のことを見る彼は、くすっと笑って『お姫様気分はどう?』とでも言いそうな顔をしている。きっと慣れないことで疲れている私を気遣って、気分転換をさせてくれているのだろう。ちょっとしたお姫様気分を味わえ、気分も高揚する。
私の部屋に入ると既にライザーがいた。アーノルドは別件で呼ばれたみたいで、部屋には私とライザーの2人きりだ。ライザーに王様との話した結果を伝える。
「俺も浄化は2日だけにすることに賛成だ。それ以上負担をかけたら回復まで時間がかかり非効率になるだろうからな。それでアーノルドとのことは王様に言えたのか」
「バカ! 言える訳ないでしょう! そんなこと王様に相談してどうするのよ」
「王様がアーノルドとメイとの婚約を王命で出せば結婚出来るぞ」
「だからそれじゃあ意味がないんだって。アーノルドに惚れてもらえるよう私は頑張るつもり!」
「ふーーん。別にそんな必要ないと俺は思うけどね」
「分かんないもん! もしアーノルドと上手くいかなかったときはこの前の話通してもらうわよ!」
「うん? あの俺が嫁にもらうって話しか?」
「そうよ! その時は責任持ってライザーが私と結婚してよね!」
そう軽口を言い合っていた私達は気づかなかった。それをドアの隙間から聞いてる人がいたということを。
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