第12話 騎士の実力と贈り物
その後今後の予定が決まったところでアーノルドが王宮を案内してくれることになった。ライザーが上手く誘導してくれたのだ。
「ここは騎士団が使っている練習場所だよ。俺たち浄化部隊以外にも様々な隊があってそれぞれ鍛えているんだ」
そう案内してくれたのは、広い演習場のようなところ。普段は剣がぶつかり合う音や、走っている足音などで煩いそうだが、今日は聖女様が王宮にきているということで、別の場所での訓練に変更になったそうで、今は私達だけしかいない。とても静かだ。
「アーノルドもここで練習していたのね。なんか不思議。いつも早朝に青空の下で素振りしてるからそんなのばっかなのかと思ってた」
「見ていたのですか? 朝早いのに。ちゃんと休んで下さい」
「目が覚めちゃった時だけだよ。……ねぇ、今は2人だけなんだから前の時みたく口調を崩して欲しいな」
彼に少しだけ嘘をついた。本当はアーノルドが鍛えている様子を見たくて何度も無理して早起きしたことがある。私を守る為に早朝に鍛えている姿を見ると、どうしようもなく胸が熱くなるのだ。
「ねぇ、今ここでアーノルドの剣を見るのはダメ? 浄化の時はいつもみんなの戦いを見れてないし、素振りの時は魔法を纏っていないでしょう? 魔法を使って戦う姿を見てみたいの」
騎士と魔道士とで別れているが、この国では誰もが魔力を持っている。魔力量は人によって異なるが、魔力量が多く魔法の才能がある者が魔道士の道を選び、魔力量が低かったり運動が得意だったりする者が騎士を選ぶと聞く。騎士は接近戦が得意であり、魔道士は遠隔攻撃や守りが得意である為、一つの部隊を作る時は騎士団と魔道士団の両方から人を集めて組むそうだ。
しかし騎士の中にも魔法が得意な者がいて、その場合は彼のように剣に魔法を宿して戦ったり、盾に守りの魔法をかけたり、身体強化の魔法をかけたりして戦う。いつもは見ることが出来ない魔法を使ってる姿を見たいと思い、ダメ元でお願いしてしまった。
「俺の魔法は地味だし、ライザーの方が色々な魔法を見れるけど……それでも良いの?」
「うん! アーノルドが魔法を使ってる所を見たいの」
「それじゃあ簡単なものしか見せられないけど……久々にあれをやるのも良いかも知れないな。 少し準備してくるからここで待ってて」
そう言うと彼は建物の中に入り、小さめの段ボール位の大きさの四角い箱を持ってくる。思いがけない展開に期待で胸が高鳴る。どんな彼を見ることが出来るのだろうか。
「今から幻術で魔物を出すよ。騎士団でよく使う演習用の物で危険はないから安心して。メイはどこから見てようか……そうだな、守りの練習も兼ねて俺の後ろにいてくれる?」
「うん、分かった」
「じゃあ始めるよ。メイを守って魔物と戦う想定だから、メイは俺の後ろから出ないこと。ざっと50体連続で出てくると思うから終わったら声をかけるよ。メイには触れさせないから安心して、自分の騎士の強さをしっかり見ていて」
そういうと、アーノルドが剣に風を纏い箱に向かって風の刃を放つ。するとそれに反応したかのように箱が開き、中から50体もの魔物が飛び出してくる。
50体連続って言ってたけど、1匹ずつじゃなくて一気に50体出てくるのが続くの!? 私が1人で驚いていると、剣を持って魔物の群れにアーノルドが突っ込んでいく。魔法を纏わないただの剣で、踊るように軽いステップで次から次へと魔物を倒して行き、あっという間に50体倒し終えてしまう。
「す、すごい……」
「魔法を纏い忘れてました。次は魔法を使いながら戦いますね」
「……」
凄すぎて言葉も出ない。これ以上私に好きにさせて彼はどうしたいのか。
「はあぁーーーー!」
そう叫び剣を一振りすると、風の刃が魔物を真っ二つにして一瞬で倒してしまう。瞬きする間もないくらいだ。
それ以降も様々な剣捌きや魔法の使い方を見せてくれながら、50回倒し続けた。剣の捌き方によって、風が縦横無尽に走り、つむじ風から台風のような竜巻まで起こしてしまう。そして50回と言っても秒で倒してしまうので、時間としてはそこまで経っていないのだ。しかし終わった頃には、流石のアーノルドも汗をかいて少し疲れているよう。
「終わりました。どうでしたか? あなたを守る騎士に不足はありませんでしたか?」
「不足も何も充分過ぎるよ。せっかくの休みなのに身体を使わせてごめんね。けど騎士団は普段こんな練習をしてるんだね。これは強くなる訳だ」
「そうですね。浄化の部隊に入りたいものはこの訓練はとても重要なので。普段は10人でこの箱を使って演習しますね。1人だったら10体10回連続のボックスもあるのでそちらを使います」
うん? 今おかしなことを聞かなかったか……?
「10人でやる演習を今1人でやっていたの……?」
「はい。メイ様を守る騎士として、しっかり実力を見てもらいたいと思いましたので。それに部隊長を選ぶ試験では100体10連続を1人でやったのでそっちの方が流石にきつかったですね」
どうしよう、アーノルドは人間じゃなかったのかも知れない。こんな人間を目の前にしたら魔物も逃げていきそうだ。
「うん、私の騎士が人間の規格を超えているということは十分伝わったよ……」
「それは良かったです。すみませんが少し休憩しても良いですか?」
そうして少し歩くと庭園があり、そこのベンチに座る。ここは王族専用スペースなのだそうだが、聖女の私は立ち入りを許されている。一緒に着いてきていた侍女にお茶を持ってくるよう頼み、アーノルドも席に着く。
「……それで王様とどう話すかは決まったんですか?」
「えぇ。私はこっちの世界に残るつもりよ」
私は正直にアーノルドに告げる。
「前に話していた大切な人というのは良いんですか? その人と将来の約束はしていなかったんですか?」
「うん? 将来は特に約束してないけど。まぁ向こうが先に結婚したら今住んでいる家も出て行くんだろうなってのは考えてたけど」
「一緒に住んでいるんですか? なのに将来の約束をしていない?」
アーノルドが険しい表情で聞いてくる。何か悪いことをしたのだろうか。
「うん、お互いにどうなるかは分からないし。どっちが先に結婚して出て行っても文句なしねって話してたから。だから私がこっちの世界に住むことになっても問題はないよ」
「メイがそう考えているなら俺は何も言わないけど、本当に良いんだね?」
「うん、だからアーノルドもしばらくは私に付き合ってくれる?」
今はまだ告白する勇気はないけれど、私は精一杯の気持ちを込めてそう尋ねる。
「はい、もちろん。その大切な人に代わって、メイは俺が守ります」
例えそれが騎士としての誓いであろうと、私は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「そうだ、これ借りていたハンカチ。遅くなってごめんね」
そう言ってポケットに忍ばせていたラッピングしたハンカチを渡す。
「わざわざ良かったのに」
そう言ってラッピングを解いてハンカチを出すと、目を見開き刺繍をじっと見つめるアーノルド。あまりにも黙って見つめているので、不安になって声をかける。
「いつものお礼にどうかなって思って刺繍したんだけど、やっぱりダメだった? 新しい物を買い直すね」
「いや、嬉しすぎて声が出なかったんです。これをメイが刺繍してくれたのですか?」
「うん、刺繍は得意なの。アーノルドだから剣かなって思ってそのモチーフにしたんだけど、どうかな」
反応が気になってつい聞いてしまう。
「あぁすごく嬉しいよ。こんなに嬉しい贈り物は初めてです。ありがとうございます。肌身離さず大切にしますね」
そう嬉しそうに笑ってくれ一安心だ。
その後夜にはまたみんなが集まり、王様による晩餐会で豪華な食事に大満足してその日は眠りについた。
トントントン
「メイ様、準備は出来ていますか?」
そうアーノルドが確認しにやって来る。4日目に私がいるか早く確かめたいのだろう。
「うん、準備出来てるわ。入って」
そう言うとアーノルドがやって来る。今日は王様との面会までの付き添いをしてくれるのだ。彼も昨日と同じく正装をしており見惚れてしまう。
「じゃあ行こうか」
私はアーノルドに着いていき、王様との謁見室に入った。
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