第6話 聖女様への感謝
暫く歩いていると、様々な店で同じ人形やマスコットを売っているのに気付く。
「ねぇ、あの人形は何?」
「あぁ、あれはメイだよ。聖女様人形として1年前くらいから出始めたかな。子供達に人気があるし、大人もお守りとして家に飾る者が多いみたいだ。結構似てて可愛いよね」
そう言って手に取るアーノルド。その人形は黒髪黒眼で三つ編みしており、いつもの白いワンピースを着てデフォルメされた2頭身の可愛らしい人形だ。
恥ずかしいからやめて欲しい……。
そうアーノルドと話していると店主らしき男の人が話しかけてくる。
「お嬢さんも聖女様人形が気になるのかい? これはノイス領限定の三つ編みタイプだよ」
「他の地域も限定があるの?」
「あぁ当たり前じゃないか。地域によって髪型や装飾品が変わるよ。お嬢さんも1つどうだ? ご利益あるぞ」
ご利益とは本当にお守りのような扱いをされているみたいだ。
「とうとうこのノイス領にも聖女様が訪れているという噂だ。ありがたいねぇ。南の領土もすっかり元に戻ったというし、湖が邪気に侵されてから観光客も年々減ってしまって……。聖女様が来てくれて本当に助かったよ」
「観光客が減っているのですね。それは大変でしたね」
「あぁ。もう10年くらい経つが、ここ1年くらいが本当に厳しくて店を畳むことも考えたんだが、聖女様が来てくれたと聞いたら安心だ。なかなか俺たちの前に姿を見せないらしいが、国中の者がみんな感謝してるよ。お前達もそうだろう?」
そう言われて私が無言でいるとアーノルドが答えてくれる。
「はい、聖女様が頑張ってくれているおかげこの国は守られていますからね」
「だよなぁ。聖女様が来るまではこの国は終わったと誰もが思っていたが、今はみんな希望を持ててるもんな。兄ちゃんわかってるねぇ。よし! 今回は特別にこの聖女様人形をプレゼントするぜ」
そう言うと私に人形を渡してくれる。
「え、そんな大丈夫ですよ」
「俺が何故かあんたに渡したいと思ったんだ。これも何かの縁、受け取ってくれ」
「……では、ありがとうございます」
男性に強く言われ受け取ってしまった。アーノルドが服の入った紙袋に人形も一緒に入れてくれる。
あの後私は暫く心ここに在らずの状態で歩いていたら、アーノルドが手を引いて先導してくれる。気づいたら公園のベンチに座っており、彼がどこからかフレッシュジュースを持ってきてくれた。
「はい、冷たくて美味しいですよ。……あの男性の話に驚きましたか?」
「うん。今までほとんど部隊の人以外と話したことななかったから、あんなに感謝されてるなんて知らなかった」
あの人は私が本人だと気づかずにあれだけ感謝してくれていた。その言葉に嘘はないのだろう。
私は王様との契約を履行する為に今まで3年間淡々と浄化に励んできた。別に誰かを救おうだとか、これで救われる人が居るだとか考える余裕もなかったのだ。ただそれが私の契約であり、アーノルドの近くにいる為には浄化をすることが必須であったから、それで毎週こちらにやってきて浄化をしているに過ぎなかった。
あのおじさんの話を聞いて、私のしてきたことで国の人達が救われているのだと初めて実感出来た。そして私の頑張りがちゃんとみんなに伝わって、感謝されていると思うと感慨深い。
「メイは宿の人や地元の人と話す機会もなかなかなかったからね。メイの頑張りはこの国を救っている、そのことは国のみんなが分かっているよ」
「うん……」
感極まって涙が出てきてしまう。私の存在がこの世界で認められている、必要とされていると肌で感じることが出来た。誰かに必要とされることがこんなに嬉しいことなのだと知らなかった。
静かに涙を流す私にアーノルドはハンカチを渡し、そっと優しく見守ってくれていた。
「落ち着いた?」
「うん、ハンカチありがとう。洗って返すね」
「あぁ、捨ててもらっても構わないよ」
私が立ち上がったのをきっかけにまた2人で歩き始める。少ししんみりとしてしまったが、まだデートは終わっていない。もっと楽しまなくては!
「どこか気になる店はある?」
「うーーん、あっ! あの店に入ってみたい!」
そう向かったのは装飾品の店だ。せっかく可愛い服を着ているので、アクセサリーも付けてみたくなったのだ。
中には庶民向けのネックレスや指輪などの装飾品が置かれている。
「そういえば装飾品は持っていなかったね。もう少し先に宝石店もあるけどそっちへ行くかい?」
「宝石なんか私には勿体無いよ。浄化の時はつけられないし。こっちで十分!」
そう言って私はネックレスを見て行く。この服に合わせるとしたら、やっぱりリーフやフラワーのモチーフが良いかな。
「そういえばアーノルドも装飾品はつけないのね」
「あぁ、俺も仕事中は邪魔になるからね。休みの日もシンプルな服しか着ないし飾ることはほとんどないな」
「ふーーん、似合うと思うのに勿体ない。あっそうだ! 私がアーノルドに似合うのを選んでプレゼントしてあげる。今日のお礼に! 何か好きなモチーフはある?」
「……特にないけど、あんまり派手じゃないやつがいいかな」
シャツの隙間からのぞくネックレスのチェーンを想像するだけで、色気ダダ漏れであること間違いなしだ。
私は彼を飾るのに相応しいネックレスを選ぶのに夢中で結局自分の物を買うのは忘れていた。
「本当に良かったの? 俺がもらっちゃって」
「うん、今日一日付き合ってくれて本当に嬉しかったんだもん。いつものお礼だから受け取って」
「分かった、ありがとう」
そう言ってアーノルドに渡したのは、羽のモチーフのシンプルなネックレス。彼は風の魔法を剣に纏い戦うので、その風のイメージにあったものにしたのだ。本当はペアネックレスが欲しかったのだが、さすがに言うことが出来なくて彼に似合う物にした。
袋から出すとその場で着けてくれ、想像通り似合っていて満足する。よく考えたらこれはこの世界に来て初めて自分の稼いだお金で買ったものだ。それを彼にプレゼントすることが出来て嬉しい。
「お腹はどう? 食べれそうならカフェにでも入って甘い物を食べようと思うけど」
「うん、結構歩いてお腹減ってきたからそれがいい」
暫く歩くと可愛らしい外観のカフェがあったので、そこに入る。花畑がコンセプトらしくて、店内にはテーブル毎に花が飾られ、デザートの見た目もこっている。
「アーノルドは甘い物苦手なのに良かったの?」
「あぁ、今日はメイに付き合う日だからね」
「じゃあ今度休日が被ったら私がアーノルドの行きたい所に付き合うね!」
「それは良いね。何をしたいか考えておかないと」
そう言って優しく笑うアーノルド。次にこうして遊びに行けるのがいつかは分からないが、次の約束をする。それだけで私は嬉しいのだ。
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