第31話 狙われたヒカリ

 余裕で空を飛ぶ修行を終えたヒカリは、エドと一緒に河原にいた。


「ふう。でも、すごい疲れた。魔力もほとんど残っていないよ」


 ヒカリは近くの岩に座りながら言う。


「すごい頑張ったからな。お疲れさま」


 エドは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「うん。ずっと見守ってくれてありがとう」


 ヒカリはエドに感謝の気持ちを伝える。


「当然だ!」


 エドは元気よく言う。


「今日はこれから――」

「――誰だ!」


 ヒカリが話を始めようとした途端、エドが警戒した様子で、ヒカリの前に背中を見せて立った。


「ほう? 気づかれるとは思わなかった」


 その声が聞こえると、突然ヒカリとエドは謎の四人組に囲まれた。


「えっ! 何?」


 ヒカリは急な出来事に動揺した。


「お前ら、魔法使いだな」


 エドは四人組を見渡し警戒している様子で言った。その四人組は、全員がフードで顔を隠してはいるが、暗い赤のローブに黒のフード付きのケープを身につけている。ヒカリもなんとなくだが、四人組を魔法使いだと察した。


「せっかくだから、自己紹介でもしてやろうか。私の名はグリード。ひと昔前に魔法界を少々騒がせた者だ」


 エドの正面に立っている魔法使いがフードを下ろし、顔を見せて話し始めた。銀色の少し長い髪、白いズボンに黒い長靴。その男がこちらにずっと話しかけている感じからすると、四人組のリーダーなのだろう。


「それで、何が目的だ」


 エドはグリードに問いかけた。


「俺が欲しいのは、その魔女玉だ」


 グリードはヒカリを指差して言った。ヒカリはローブの中にある魔女玉を見抜かれていることに驚いた。


「……ダメだ。お前らなんかに渡すような安いものじゃない」


 エドはこんな状況でも一歩も引かなかった。


「そうか。くれないか――」


 グリードはそう言った直後、一瞬でエドに攻撃してきた。ヒカリは何が起きたかわからなかったが、エドとグリードがお互いの拳を、片手で受けながら止まっていた。


「黙って渡せば、痛い目にあわないで済んだのにな」


 グリードが冷静な口調でそう言った。


「お前の方こそ、さっさと引き下がっていれば、ケガしなかったのにな」


 エドは負けじとグリードに挑発していた。ヒカリは初めて見る魔法使いの戦いに戸惑う。すると、他の魔法使い三人が、ヒカリに襲い掛かってきた。ヒカリはどうしたらいいのかわからず、両手を盾にして構えた。


「くそっ! 邪魔だー!」


 エドはヒカリを襲ってきた魔法使い三人の前に立ちはだかり、魔法で大きな火柱を立てた。すると、魔法使い三人は、その火柱を避けようと後ろに下がる。その時、エドの後ろに突如グリードが現れ、エドの背中に手を当てた。


「しまった!」


 エドは焦りながら言った。


「まだまだだな……」


 グリードがそう言った直後、エドの体が地面に勢いよく叩きつけられた。


「ぐはっ!」


 エドはその場にうつぶせで倒れる。


「エド!」


 ヒカリはエドに声をかけた。だが、エドの体はピクリとも動かなかった。


 そして、魔法使い三人がヒカリを囲み、魔女玉を奪おうとしてきたので、ヒカリはとっさに魔女玉を握りしめてうずくまる。


「絶対、あんたたちなんかに渡さないんだから!」


 ヒカリは大声で叫んだ。


「こいつらの仲間がくるかもしれない。そいつごと連れて帰るぞ」


 グリードがそう言うと、ヒカリは一番体の大きい魔法使いに抱えられ、連れ去られてしまった。






 ヒカリが連れ去られた後、エドは河原にうつぶせで倒れていた。


「…………はぁ。……はぁ。……はぁ。…………くそっ!」


 エドは気合いで立ち上がった。その後、エドはスマートフォンを取り出し、ROSEに電話をかけた。


「お待たせしました。ROSE株式会社のベルが担当致します」


 電話に出たのはベルのようだ。


「ベルか! マリーはいるか!」


 エドは焦りながら言った。


「この声は……。エドですか? マリーさんは外出していますが」


 ベルは落ち着いた様子で話していた。


「ヒカリがさらわれた!」


 エドは力強く言った。


「なんと!」


 ベルは驚いたように言う。


「最近、この辺に移ってきた魔法使いの奴らだ。この前の報告書通り、何かたくらんでいるとは思ってたが、あいつらは魔女玉を狙ってた。たぶん、報告書に書いている鉄の船のアジトにいると思う」


 エドはベルに説明をした。


「わかりました! こちらからもチームを編成して向かいますので――」

「――よろしく!」


 ベルが話している途中だったが、エドはこれ以上余計な時間をかけたくなかったので、電話を切った。エドはほうきにまたがり、錦江湾に浮かぶ鉄の船に向けて移動を始めた。






 ROSEの事務所では、ベルが受話器を持ちながらため息をついていた。


「まったく! まだ話の途中ですのに、なんで切るんでしょう! ……一人で行って何かあったらどうするんですか」


 ベルは少し怒った後、小さな声でぼやきながら言った。


 そして、すぐにベルは立ち上がった。


「ということで皆さん、聞こえましたか? マリーさんには私から連絡入れておきますので! すぐ出発しますよ!」


 ベルが大きな声で事務所内の社員に呼びかけると、皆慌てて準備を始めた。受付のシホだけが少し戸惑っている様子なのは、シホが魔法使いではないことが原因なのだろう。とにかく早くヒカリの救出に行かないといけないので、ベルも急いで準備を始めた。






 ヒカリが目を覚ますと、狭い部屋の中にいた。


「ここはどこだろう」


 ヒカリは起き上がり、扉のノブに手をかける。


「鍵がかかっている」


 部屋の扉には鍵がかかっていた。


「あっ!」


 ヒカリは魔女玉のことを思い出し魔女玉を確認するが、すでに取られた後だった。


「ない! くそ!」


 ヒカリは大声で言った。


「起きたか」


 どこからともなくグリードの声が聞こえてきた。グリードの姿は見えないので、これも魔法だと察した。


「あんた! 私の魔女玉返しなさいよ!」


 ヒカリは力強く言い放った。


「ふふ。それは無理に決まっている。我々にはあれが必要なんだ」


 グリードは落ち着いた口調で言う。


「どういうこと?」


 ヒカリはグリードに問いかける。


「だから、しばらく人質としてお前を預かる。あそこにはいるんだろう? 魔女玉を作れる魔女が。はっはっはっ!」


 グリードの声が途絶え、ヒカリはムカついて扉を蹴った。







 とある薄暗い部屋にグリードはいた。グリードは椅子に座って考え事をしていた。すると、その時、連絡係の魔法使いが現れる。


「侵入者を発見しました!」


 連絡係の魔法使いは、ひざまずいて伝える。


「そりゃ、来るよな」


 グリードは焦りもせずにつぶやいた。すると、部屋の隅に寝ていた魔法使いが起き上がる。


「俺が行く」


 その魔法使いは、グリードにそう伝えると歩いて部屋を出ていった。






 グリードの船に到着したエドは、甲板で暴れていた。


「情けねえ。大切な部下一人守れねえなんてよ」


 エドはそうつぶやきながら、襲いかかる敵の魔法使い達を蹴散らす。甲板はエドが放つ魔法の炎に包まれていた。


「情けねえよ!」


 エドは力強く言い放つと、敵の魔法使いを炎の拳で思いっきり殴り飛ばした。


 甲板にいた敵の魔法使いが残り少しになった時、船の中から一人の男が出てきた。

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