第22話 戸惑いながらの船出

 双頭狼ダブルヘッドウルフは、その名の通り一つの胴体に二つの頭を持つ狼。


「グルルルル……」


 腹を空かせている様だ。

 二頭とも綺麗に整列された牙を唾液で光らせている。

 ギルドにいた頃、パーティを組んで対戦したことがある。

 かなり苦戦した。

 だけど、勝てない相手では無い。

 そう、それはしっかりとパーティを組んでいればこそだ。

 今は、私とチヨの二人。


「マユ! 下がってて!」


 チヨは鞘からレイピアを引き抜き、私をかばう様に双頭狼ダブルヘッドウルフの前に立つ。

 小さな背中は震えていた。

 チヨ。

 無理しないで。


「マユ、今のうちに逃げて!」

「ダメ! チヨ。そんなこと出来ない!」

「ガルルルル!」


 そんな私達を無視して双頭狼ダブルヘッドウルフは飛び掛かって来た。


 ああ、神よ。

 お助け下さい!


 突如、目が眩んだ。

 何かが光った。

 一瞬、何も見えなくなる。

 何が起きたんだろう?

 光りが収まり、だんだん目が慣れてきた。

 双頭狼ダブルヘッドウルフが黒焦げで倒れていた。

 瀕死な様で、口から舌を出しヒクヒクしている。


「大丈夫?」


 私たちを心配そうに見つめる深緑色のローブに同色の尖がり帽子を被った女性。


「ジュアン!」

「良かった。マユ、チヨ。無事みたいね」


 双頭狼ダブルヘッドウルフに電撃の魔法を放った妖術師は無でを撫で下ろした。

 双頭狼ダブルヘッドウルフへ、とどめとばかりに火の玉をぶつけて灰にする。


「だめだよ! あなたたちだけで、こんなところまで出歩いちゃ。言っちゃ悪いけど、あなたたちはまだそこまでのレベルに達していないんだから」

「ごめんなさい」

「さ、街に戻りましょう」


 ジュアンに促され私は立ち上がった。

 彼女はスピードメタルでは古参で、私よりも10歳の年上の大人の女だ。

 彼女はギルドにとって有力な戦力の一人だった。

 そんな彼女を私のために派遣して来るということは……


「私、ギルドに戻る気はないわ」


 私は最初に釘を刺しておいた。


「分かってる。アキラがコウイチロウを追放したことは私も賛同出来なかった。だから、私もギルドを抜けたの」

「え?」


 意外だった。

 ジュアンはケンイチと仲がいい。

 そのケンイチはコウイチロウに対する悪い噂を流していた。

 そのせいでコウイチロウは追放させられたようなものだ。

 そのケンイチを置いてジュアンはギルドを抜けたのか?


「私ね、元々、ケンイチのこと嫌いだったんだ。だけど、言いなりにならないと嫌がらせされるし、仕方なく従ってたんだ。だけど、マユが辞めたのを見て、私も勇気を出して飛び出した」

「そうなんだ……」


 本当かな?


「だからさ、私も仲間に入れてよ」


 え?

 どうしようかな。

 嘘を付いているようには見えないけど。

 別に仲が良かったわけでもないし……


「いいじゃん、マユ。ジュアンも仲間にしてあげよーよ。これで3人になってギルドを作ることが出来るし! ジュアンも助かるし一石二鳥じゃん!」


 チヨがはしゃいでいる。


「そうよね。チヨ。賢くなったね」


 ジュアンがチヨの頭を撫でる。


「……分かったわ」


 こうして私達はギルドを設立した。


つづく

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