第21話 ホワイトギルドを起ち上げよう!

 コウイチロウ、あなたは一体どこにいってしまったの?

 私はあなたのことが……


「グルルル……」


 モンスターの唸り声で我に返る。

 どこから聞こえたのだろう。

 辺りを見渡したけど、その影は無い。

 周りは岩だらけの砂漠だった。

 コウイチロウが黒いワンピースの少女と二人で歩いて行った後を辿って行った。

 そしたらいつの間にか、こんなところまで来てしまっていた。

 治癒魔法使いである私が、パーティも組まずこんなところに居たらモンスターに殺されてしまう。

 

「待ってくださいよー。マユさん!」


 聞き覚えのある声がする。

 振り返ると同時に、声の主が私の胸に飛び込んで来た。


「チヨ!」

「マユお姉ちゃん!」

「もう! そんなに街から離れると、強いモンスターに襲われるよ!」


 ほんとだ。

 アボガルドの城下町が豆の様に小さく見える。


「ゴメン。チヨ」

「もう! 私に無断で勝手にギルドを抜けるなんて! ひどい!」

「うん。ほんと、ゴメン……」


 チヨは私の妹分だ。

 3つ年下の12歳で職業は剣士。

 身に着けた子供用の鉄の鎧がミニチュアみたいでカワイイ。

 孤児院で院長夫妻から虐待されていたのを、私が無理やり連れ出した。

 それ以来、なつかれている。


「けど、チヨ。ギルドはどうしたの? 今日は買い出しの係でしょ?」

「えへへ。私もギルド辞めて来ちゃいました!」

「あら」


 ここまで私になついているとは。

 可愛いけど、心配だなあ。

 だって、私は身寄りのないソロの治癒魔法使い。

 いつまでもこんなところに居たらモンスターに殺されてしまう。


「さ、街に戻りましょう。そして、チヨはギルドに戻りなさい」


 私はしゃがみ込んでチヨの形のいいおかっぱ頭を撫でた。

 だが、彼女は首をブンブンと横に振り、


「ヤダ! ケンイチがいるからヤダ! 私はマユと一緒に旅する!」


 困るなあ。

 私の足元に猫みたいに絡みついて来る。


「コウイチロウを探す旅を一緒にする!」

「え?」

「だって、マユ。コウイチロウのこと好きなんでしょ?」


 自分でも耳まで赤くなっているのが分かるくらい、身体が熱い。


「子供にはまだ早いの!」


 チヨのつむじにコツンとゲンコツを落とす。


「えへへ」


 舌を出して頭を撫でている。

 もう何を言ってもついて来るんだろう、この娘は。


「でもさ、もう一人仲間が欲しいよね」

「え?」

「マユは治癒魔法使いでしょ。私は剣士。あと一人はバランス的に妖術師あたりがいいね!」

「どういうこと?」

「ギルドだよ。ギルド! 3人いればギルドが作れるじゃん」


 なるほど。

 ギルドを構えて本格的にコウイチロウのことを探すというのか。

 ギルドは各国にある『ギルド会館』に行き、申請書を出して受理されれば、その国でギルド活動が出来るようになる。

 まぁ、色々と費用は掛かる。

 が、ソロの時よりは、ギルド同士の繋がりも出来て情報も集まり易いだろう。


「チヨ。偉くなったねぇ」

「えへ」


 孤児院から連れて来た時は、泣いてばかりの弱虫だったのになぁ。

 私とコウイチロウと一緒に戦うことで成長したんだな、きっと。

 私はチヨと手を繋ぎ、街に向かいながら心はポカポカと温かくなっていた。


 よし!

 ちゃんと9時から17時までの残業無し、土日祝日休みのホワイトなギルドを作ってやる!

 そして、コウイチロウと田舎でスローライフするんだ!


「グルルル……」


 え?

 さっきも耳にした忌まわしい唸り声。


「ひっ!」


 目の前には双頭狼ダブルヘッドウルフの姿があった。


つづく

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