第20話 お主も悪よのう
「それでは、これが今月の分です」
ケンイチは目の前の太った男に500万キル手渡した。
「うむ」
太った男は頬肉を揺らしながら二重顎を上下させた。
「ヤスユキ様。例のクエストの件、我がギルドに優先的に依頼する様にお願いいたします」
「分かっておる」
ヤスユキと呼ばれた太った男は、大事そうに大金の入った袋をジャケットの胸ポケットにしまい込んだ。
「おお、そうだ。お前が紹介しろと言っていたソロの治癒魔法使いな。見つかったぞ」
「さすがは、ヤスユキ様」
「保護対象の遺跡で発掘行為を行っていたギルドがおってな。罰としてそのギルドを解体させてやったわ。例の治癒魔法使いとは、そのおこぼれという訳だな。後で連れて来てやる」
「さすがは、貴族の鏡。ヤスユキ様です」
褒められたヤスユキはカールした口髭をつまみ、ご機嫌そうだ。
二人は城下町の喫茶店で向かい合っていた。
ここはヤスユキが、自分と仲の良い冒険者と密談するために使う店だった。
店の者にも息がかかっているうえ、個室になっており密談は外に漏れない。
「ケンイチ、早くギルマスになれ。そうすれば、今までの裏金のお礼として、スピードメタルをアボガルドのお抱えギルドとして我が父上に提案してやる」
ヤスユキはアボガルド国の第3王子だった。
「ありがたき幸せ。私、ヤスユキ様が次期アボガルド王になれる様、尽力致します」
ケンイチは胸に手をやり頭を下げた。
(そのためにはまず、邪魔なアキラを消さなきゃな。あいつに何か弱みがあればいいんだが……)
「ヤスユキ様。我がギルド、着々と私に従う者が増えて来ています。ですが、私がギルマスになるためには少々厄介な者がおりまして……」
「何だ? 暗殺を手伝えというのか? そういう荒っぽいのは自分たちで上手くやれ」
「いえいえ、そういう物騒なことではございません。ただ、そいうった者を排除出来ればいいのです。例えば……」
ケンイチはアキラを失脚させるためのプランを、ヤスユキに話した。
「なるほど。要約すると次のクエストでその者にヘマをさせ、ギルドメンバーからの信頼を損なわせるという訳だな」
「はい」
ヤスユキは大きなお腹に組んだ両腕を乗せ、目をつぶって思案顔になった。
「王家からのクエストをそういうことに利用するというのは感心出来ぬが、仕方あるまい。ただし……」
ヤスユキは芋虫が5本生えた様な指が付いた手を、ケンイチに差し出した。
「分かりました」
ケンイチは更に100万キル手渡した。
(けっ、この無能な王子が。俺はお前を利用して貴族と太いパイプを作り成り上がってやるんだよ)
つづく
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