第19話 冒険者なりたい職業ランキング
マユが去った後、彼女の兄であるアキラは頭を抱えていた。
「おい、ケンイチ。マユが出て行ってしまったぞ」
ケンイチはあご髭を撫で、ニヤリと笑った。
「マユ程度の治癒魔法使いなら、いつでも用意出来る」
「マユ……程度だと……」
アキラはケンイチを睨みつけた。
「おっと、これは失礼。マユは普通の治癒う魔法使いとは違う、兄譲りの強く優しき心を持った貴重な治癒魔法使いだ」
ケンイチは大きく頷いた。
(まったく、このシスコン野郎が。妹のことばっか気にしてるから、いつまでも彼女が出来ねーんだよ!)
ケンイチはギルマスのアキラが邪魔で仕方なかった。
アキラは悩みを吐露した。
「スピードメタルにはそれでも優秀なメンバーがいる。だが、治癒魔法使いはマユしかいなかった。そんなあいつが出て行ったとなると、今後の活動に影響が出るな。それに治癒魔法使い人口は不足している。代わりを見つけるのは容易ではないぞ」
冒険者が選べる職業は多岐に渡る。
職業選択の自由は、各国が制定した『法』によって保障されていた。
冒険者は5歳で自分の職業を決定し、『職業安定所』で宣誓し神に受け入れられて晴れてその職業になれる。
『冒険者なりたい職業ランキング』の中でも人気No1は、もちろん武器を使いこなし魔法もある程度使える『勇者』だ。
治癒魔法使いは、低位置だった。
何故なら、後衛で目立つことが無い、自分から攻撃する術を余り持たない、ソロで活動しづらい、などがあげられていた。
だが、人気が無いからと言って必要が無い職業と言う訳ではない。
むしろ、その逆で治癒魔法使いに助けられた者は数えきれない。
「そうだ。ケンイチ。お前さっき、治癒魔法使いならいつでも用意出来ると言っていたが、何かあてでもあるのか?」
「ある。任せておけ」
「まさか、他のギルドから引き抜こうってんじゃないだろうな? ごめんだぜ。揉め事は」
「安心しろ。ソロの治癒魔法使いを連れて来てやる」
「いるのか? そんなのが……」
(アキラの奴、ソロの治癒魔法使いなんて、そうそういないと思ってやがるな。それが、いるんだな。俺の太い人脈を使えば)
そう、人脈。
俺には心強い味方がいる。
俺は将来、権力を得るためにそいつを利用しているのだ。
「アキラ。悪い知らせばかりだが、良い知らせもある」
「何だ?」
アキラは眠そうに応えた。
色々あり過ぎて疲労困憊の様子だった。
「アボガルド家からクエストの依頼が来る」
アキラの手から酒の入ったグラスが滑り落ちた。
床に叩きつけられたグラスは、中身の酒をぶちまけこなごなになった。
「バカな……うちみたいな中小にか……」
貴族家から直接クエストの依頼を受けるのは、実績のある大ギルドだけだ。
普通はそうだが……
「それが本当なんだ」
「だとしても……」
「俺があれほど作れと言って、お前が渋々作った広報部隊が我がギルドの活躍ぶりを広めたお陰だよ」
(頭の良さは、ギルド運営費の使い方に出る。アキラはバカだから俺に任せときゃいいんだよ!)
「つまり、スピードメタルの名は貴族家でも有名になっているということ。これを受けずして何を受ける? 達成出来れば、我がギルドにも沢山の志望者が訪れることだろう。貴族家からの金銭的支援も受けることが出来る。大ギルドの仲間入りよ」
つづく
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