第18話 もう一つの勝つ条件

「あのゴーレムと戦うって訳じゃあねぇのかよ……」


 僕の隣にいる男が呟いた。

 確かにそうだ。

 ジョンを肩に乗せているあのゴーレムには一体何の役割があるのか?


「おっと、そこの人。いい疑問だね。もちろんこのゴーレム君。彼にもこの試験で活躍してもらう」


 ジョンはゴーレムの肩からフワリと飛び降りた。


「もう一つの合格条件は、このゴーレムを倒すこと!」


 え?

 ということは?

 戸惑う僕に向かって、リアーナは人差し指と薬指を立てた。


「コウイチロウ、次に進む条件は2つ。受験生を全員殺すか、あのゴーレムを受験生全員で力を合わせて倒すかのどちらかだ」


 なるほど。


「ん? ということはゴーレム討伐ルートなら、上手く行けば皆、次に進めるってこと?」

「そういうことになるな」


 リアーナは小さな顎を上下させた。


「見たとこ……普通のゴーレムだけど」


 ゴーレムならギルドにいた頃、パーティを組んで戦ったことがある。

 確かに強かった。

 だが、ここにいるメンバー全員が力を合わせれば勝てそうな相手だ。

 皆、考えていることは同じらしい。

 皆、顔を見合わせ頷き合っている。

 少し希望が見えて来た。

 突然、ジョンが詠唱し始めた。


攻撃力強化オフェンシブアップ! 防御強化ディフェンシブアップ! 敏捷強化アジャイルアップ!」


 彼の持つ杖の先端に埋め込まれた宝石から黒い光がほとばしる。

 それらが怪しくゴーレムを照らした。


「まずいな。ジョンの魔法でゴーレムのステータスが強化されて行く!」


 リアーナがそう言った時にはもう遅かった。

 ゴーレムの全身が赤黒くなる。

 腕や足は一回り大きくなり、目つきが鋭くなっている。


「そりゃあ、魔王軍の採用試験だもの甘くはないさ!」


 ジョンは強化完了済みのゴーレムを指差し、そう言った。


「リアーナさん、どうすれば……」

「コウイチロウ。鑑定アプライサルでこのゴーレムのステータスを確認した。普通のゴーレムの10倍は強いぞ」

「まじ?」

「ああ」


 くっ……。

 どうする?


「ならば人間を殺すか? だが、冒険者の中でお前より強い者は3人ほどいる」


 皆、ゴーレムの変化を見て考え方を変えた様だ。

 疑心暗鬼にかられたのか、お互い目を合わさなくなる。


「コウイチロウ。この試験では人間を殺す勇気があるかどうかを試している。当たり前だろう。魔王軍に入るということは人間を狩るということだからだ」

「じゃ、ゴーレムを用意した意図は?」

「救済策といったところか。まだ人間を殺す勇気がないのであれば、一致団結してゴーレムを倒せということだろう。助け合い協力し合うのもまた重要なスキルだからな」


 ジョンは切り株に座り、両手に顎を乗せニタニタ笑っている。


「さぁて、開始まであと3分だ。リクルーターはそろそろ退散してくれ」


 リクルーターが冒険者である受験生に何かアドバイスをし、その場を離れて行く。


「どちらにしても、コウイチロウ。お主一人で戦っては勝ち目がない。まずは誰かと共闘体制を組み、様子を見たほうがいい」

「分かった」


 僕は頷いた。

 リアーナは僕の肩をポンと叩いた。


「大丈夫だ」


 リアーナは右の親指を差し出した。

 僕はそれに左の親指を押し当てた。


つづく

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