第17話 実技試験 ~殺し合い~

「さぁ、次の試験は皆さんお楽しみの実技試験だ!」


 ゴーレムの肩にチョコンと乗った少年がそう言った。

 年はデビッドと同じくらいだ。

 無邪気な甲高いキンキン声が僕の耳朶を打つ。


「実技試験の試験官を担当するジョンだ。魔王軍のモンスターマスターさ」


 ジョンはシルクハットを取り、居並ぶ受験生に向かって一礼した。

 おかっぱの茶髪が前に垂れた。


「おい、ジョン。自己紹介はいいからさっさと始めろよ。僕たちずっと待たされてイライラしてんだ!」


 デビッドが口をとがらせる。

 まるで友達にじゃれつく様に文句を言う。


「分かった。分かったよ。デビッドは相変わらずせっかちだなあ。いいかい、まずは試験内容の説明をするよ」


 僕が到着するまで、皆、試験会場である魔王城の中庭で待たされていた。

 そう、僕が別室から解放されるまで。



 つい一時間前。

 別室と呼ばれる石造りの部屋で、僕は鎖につながれていた。

 目の前で不合格になった受験者が次々と消されて行く。

 消されて行くというマイルドな表現にしたいほど、殺され方が残酷だった。


「許してください! 魔王城のことは誰にも言いません!」


 懇願する冒険者たちをモンスターたちが八つ裂きにする。

 人間の元に戻す訳には行かない。

 魔王城の内部を漏洩させるわけにはいかないからだ。


「リアーナさん……」


 彼女は今頃、僕のことで試験委員会ともめているのだろうか。

 どちらにしても、僕の命は風前の灯火だ。


「コウイチロウ!」


 バン!

 と扉が開き、黒髪の少女が飛び込んで来た。


「リアーナさん!」


 え?

 彼女が僕の胸に顔をうずめていた。


「おおっと、すまん、すまん。ちょっとつまずいてな」


 彼女は身を離し、こほ、こほと咳をしながら恥ずかしそうに顔を背けた。

 そして、


「お主、どんな名前がいい!?」

「え?」


 意味が分からない。

 不思議がる僕に、リアーナはそれまでのことを話した。


「すいません。僕のミスで……だけど、名前なんて……すぐには……」

「よし。我輩がお主にふさわしい名前を試験終了までに考えておく!」


 リアーナはうんうんと、得意気に頷きながら腕を組んだ。

 僕の名前はタケシが付けてくれたものだ。

 それを変えることになるのか……。



「この中庭をステージとして、その中で受験者同士で殺し合いをしてもらうよ! 最後に残った一人が次に進めるからね!」


 ジョンは満面の笑顔でそう言った。

 実技試験と言う名称から、そう言った内容を皆、想像していたのだろう。

 驚いた顔をしている者は少ない。 

 辺りを見渡すと、僕を含め受験者は20人いる。

 この20人で命の取り合いをする。

 僕は自然とデビッドの横にたたずむ、黒装束の少女に目が行った。

 恐らくこの中で一番強い。

 僕の直感がそう伝えて来る。


ゾクッ!


 彼女の視線が僕の瞳に突き刺さった。

 その瞬間、全身に鳥肌が立つ。

 僕は目を背けてしまった。

 だめだ。

 リアーナには悪いが、黒装束の少女がいる以上、この先に進むことは不可能だ。

 

つづく

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