第23話 志望動機ジェネレーター
俺は仲間の鍛冶屋が丹精込めて作ってくれたロングソードを手にした。
青白く美しい刀身。
金色の鍔。
黒い柄には竜の彫り物。
「勇者ショウ! 頑張ってこい! お前は俺たちの希望だ!」
仲間たちに激励され、俺はこの試験に臨んだ。
「ショウ! きっと戻って来てね!」
泣きながら俺を送り出してくれた恋人のためにも、俺は……
こんなところで死ぬわけにはいかない。
◇
実技試験の制限時間は12時間。
今、夜の7時だから明日の朝7時までの間に決着をつけなければならない。
僕以外の冒険者を全員殺すか。
冒険者全員でゴーレムを倒すか。
そのゴーレムはというと眠っていた。
僕は辺りを見渡した。
まだ、誰も動かない。
お互いをけん制しているのか。
その時、一人の男が受験者19人の前に立った。
「俺の名はショウ! 職業は勇者だ!」
ショウと名乗った男は、長身をミスリル銀で出来た鎧で包み、美しいロングソードを手にしていた。
短く刈り込んだ黒髪、切れ長の目、細面で凛々しさがある。
彼は全員に問い掛けた。
「このまま迷っていても時間切れだぜ。そろそろどうするか結論出して行動しようぜ!」
彼の言うとおりだ。
だが、分かっていても動けないでいるのは皆、人を殺すことに躊躇しているからだろう。
「ゴーレムを倒そう!」
その男は声と共に、天高くロングソードを振り上げた。
刀身が青白く光った。
柄に描かれた竜が今にも動き出しそうだ。
リアーナが言っていた。
僕よりも強い奴が3人いる、と。
その内の一人だ。
「人間同士で殺し合いなんて馬鹿げている。ここは全員で合格して次に進もうじゃないか!」
彼の言葉は力強かった。
きっとどこかのギルドマスターだったのだろう。
リーダーの風格がある。
だが、そんな人間がどうして魔王軍の採用試験に?
「確かにそうだ。俺たち全員が合格した方が、魔王軍も沢山の戦力を確保出来る。殺し合いなんて馬鹿げている!」
「そうだ! そうだ! 私たちは同僚になるんだ!」
彼の言葉に呼応する者、多数。
「今の内だ。ゴーレムは眠っている。いくら強化されているといえど、一斉に襲い掛かれば勝てるはずだ!」
彼の言葉に奮い立たされた皆は、あぐらをかいて眠っているゴーレムを取り囲んだ。
僕もその集団の中にいた。
◇
一時はどうなることかと思ったが、ほとんどの冒険者が俺の言うことを聞いてくれた。
皆、人間が嫌になったとはいえ、やはり本能的に同胞は殺したくないんだ。
俺は人間になんて恨みは無い。
むしろ、人間側の冒険者だ。
「魔王軍に入らないか?」
狩り場で魔王軍のリクルーターと名乗る魔導士に声を掛けられた時、俺はバカにされたかと思い腹が立った。
だが、よくよく考えて見るとこれはチャンスだと思った。
近づくことすら、ましてやどこにあるかも分からない魔王の城に行くことが出来る。
聞いたところによると、最終試験は魔王との個人面談らしい。
魔王を狩るチャンスだ。
俺は迷う振りをして時間をもらい、周到に準備をした。
このロングソードで魔王を切り捨てる。
いや、いや、その前にこのゴーレムで試し切りだ。
つづく
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