第23話 志望動機ジェネレーター

 俺は仲間の鍛冶屋が丹精込めて作ってくれたロングソードを手にした。

 青白く美しい刀身。

 金色の鍔。

 黒い柄には竜の彫り物。


「勇者ショウ! 頑張ってこい! お前は俺たちの希望だ!」


 仲間たちに激励され、俺はこの試験に臨んだ。


「ショウ! きっと戻って来てね!」


 泣きながら俺を送り出してくれた恋人のためにも、俺は……

 こんなところで死ぬわけにはいかない。



 実技試験の制限時間は12時間。

 今、夜の7時だから明日の朝7時までの間に決着をつけなければならない。

 僕以外の冒険者を全員殺すか。

 冒険者全員でゴーレムを倒すか。

 そのゴーレムはというと眠っていた。

 僕は辺りを見渡した。

 まだ、誰も動かない。

 お互いをけん制しているのか。

 その時、一人の男が受験者19人の前に立った。


「俺の名はショウ! 職業は勇者だ!」


 ショウと名乗った男は、長身をミスリル銀で出来た鎧で包み、美しいロングソードを手にしていた。

 短く刈り込んだ黒髪、切れ長の目、細面で凛々しさがある。

 彼は全員に問い掛けた。


「このまま迷っていても時間切れだぜ。そろそろどうするか結論出して行動しようぜ!」


 彼の言うとおりだ。

 だが、分かっていても動けないでいるのは皆、人を殺すことに躊躇しているからだろう。


「ゴーレムを倒そう!」


 その男は声と共に、天高くロングソードを振り上げた。

 刀身が青白く光った。

 柄に描かれた竜が今にも動き出しそうだ。

 リアーナが言っていた。

 僕よりも強い奴が3人いる、と。

 その内の一人だ。


「人間同士で殺し合いなんて馬鹿げている。ここは全員で合格して次に進もうじゃないか!」


 彼の言葉は力強かった。

 きっとどこかのギルドマスターだったのだろう。

 リーダーの風格がある。

 だが、そんな人間がどうして魔王軍の採用試験に?


「確かにそうだ。俺たち全員が合格した方が、魔王軍も沢山の戦力を確保出来る。殺し合いなんて馬鹿げている!」

「そうだ! そうだ! 私たちは同僚になるんだ!」


 彼の言葉に呼応する者、多数。


「今の内だ。ゴーレムは眠っている。いくら強化されているといえど、一斉に襲い掛かれば勝てるはずだ!」


 彼の言葉に奮い立たされた皆は、あぐらをかいて眠っているゴーレムを取り囲んだ。

 僕もその集団の中にいた。



 一時はどうなることかと思ったが、ほとんどの冒険者が俺の言うことを聞いてくれた。

 皆、人間が嫌になったとはいえ、やはり本能的に同胞は殺したくないんだ。

 俺は人間になんて恨みは無い。

 むしろ、人間側の冒険者だ。


「魔王軍に入らないか?」


 狩り場で魔王軍のリクルーターと名乗る魔導士に声を掛けられた時、俺はバカにされたかと思い腹が立った。

 だが、よくよく考えて見るとこれはチャンスだと思った。

 近づくことすら、ましてやどこにあるかも分からない魔王の城に行くことが出来る。

 聞いたところによると、最終試験は魔王との個人面談らしい。

 魔王を狩るチャンスだ。

 俺は迷う振りをして時間をもらい、周到に準備をした。

 このロングソードで魔王を切り捨てる。

 いや、いや、その前にこのゴーレムで試し切りだ。


つづく

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