第14話 Name Is NULL
「お姉ちゃん、残念だったね! 今度はちゃんとした人、連れて来るんだよ!」
デビッドが無邪気に笑いながら、リアーナの横を通り過ぎて行った。
もちろん彼の連れて来た黒装束の少女は合格していた。
僕はと言うと、ホブゴブリンに羽交い絞めにされ別室に連れて行かれるところだった。
「リアーナさん! 助けて!」
「我輩にもそれは無理だ」
「やっぱり!?」
16年の短い人生だった。
その時、ミノタウロス先生が入出して来た。
「リアーナさん、ちょっと……」
牛顔を彼女に近づけ、何か話した。
すると、ホブゴブリンが僕から手を離した。
「え……?」
どういうことだ?
「コウイチロウ、我輩、ちょっと行って来る」
そう言い残すと、彼女は部屋から出て行った。
僕は、しばらくお待ちください、と言われそこに留まることになった。
◇
それにしても何と言うことだ。
コウイチロウから我輩が感じた魔の才能は、勘違いだったのか?
否、そんなはずはない。
ミノタウロスのチャドに連れられて、我輩は試験官室に入った。
「どういうことか説明してもらおうか?」
我輩は居並ぶ試験官を前にして、詰め寄った。
コウイチロウが筆記試験程度で落ちるとは考えられない。
それは控室での奴の顔と声を聞けば分かる。
手ごたえはあったのだ。
「もしかして、コウイチロウを落としたい者がいるのか?」
コウイチロウが魔王軍にとって脅威と感じられたのだろうか。
味方に出来れば強力な戦力になるが、裏切って敵になれば強力な脅威となる。
無難なところで、不合格にしてこの世から消そうとしているのか……
「そうなのか? ならば魔王軍の未来は暗いものになるぞ」
人間たちだっていつまでも負け続けている訳が無い。
きっと自分たちの戦い方を見直して、巻き返しを図ってくるはずだ。
「リアーナお嬢様、これを」
試験官たちは顔を見合わせ、コウイチロウの答案用紙を我輩の前に置いた。
「む、全部、満点。文句なしの合格ではないか?」
「そう。文句なし。しかも全科目」
試験官長のエビルマージであるスミスが頷いた。
「ならば、何故……?」
「ここを見てください」
「うっ」
コウイチロウ、お主はやっぱりバカなのか!?
こういうところが抜けているからギルドから追放されるんだ。
「名前が無い」
我輩はため息とともに声が漏れた。
「規定なら彼はもうここで不合格です」
「そっ、それは……確かにそうだがっ……奴は、コウイチロウは魔王軍にとって、我輩にとってきっと……」
「お嬢様、採用試験は公平なのです。それはお嬢様が連れて来た者であっても。縁故やコネなどもっての他です」
スミスは低く重い声で、そう告げた。
「ですが、これほどの逸材を手放してしまうのは、我々も惜しいと考えています」
「だろう?」
我輩はホッと胸を撫で下ろした。
「そこで、魔王様にこの彼のことを相談したところ、お嬢様と直接お話をしたいと申しております」
あの恐ろしい父上が、我輩と……。
つづく
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