第12話 魔王軍学の知識
受験番号99番。
つまり、コウイチロウのことだ。
コウイチロウの答案用紙を前にして、試験官たちが騒然となっていた。
「満点は初めてだ」
ダークマージがそう呟いた。
彼の出題した『暗黒量子論』の問題は、大半の受験生が回答出来ない。
コウイチロウは必須科目と4科目の選択科目全てで満点を取っていた。
「おい、ちょっと待て、もっとすごいぞ」
別の試験官の言葉に、全員が驚く。
◇
「時間が余って、暇だったから選択科目を全部解いたんだ」
「ほほぅ。さすが、我輩の見込んだ男」
軽く驚くリアーナに僕は小さく頷く。
ほんと、僕にとって知ってることばかり出題されたんだよ。
「採用試験の問題は、『魔導力学』や『モンスター発生学』など、魔王軍の知識を必要とするものばかりだ
「コウイチロウ、冒険者の頃から魔王軍に興味があったな」
「うん。まぁ、近くに教えてくれる人がいたから」
そう。
あの人。
僕が所属していたギルドの先代のギルドマスターであるタケシに。
ただ、彼から教わった知識は人間側に属していた時はあまり役に立たなかった。
何故なら、それらの学問は人間である冒険者には使いこなせないからだ。
例えば、魔導の力なんて人間は持っていないし、モンスターを発生させることは人間では不可能だ。
タケシに何のためにそんなことを僕に教えているのか訊いたことがある。
『敵を知ることこそ、常勝の術となる』
なるほど。
敵の行動原理を知り、戦い方を自分で創造しろということだった。
僕はタケシの薫陶を受けた。
だが、それらの知識を伝え応用の段階に入ろうとした時、タケシは何者かによって殺された。
僕の知識はギルドでは実用化される前に行き場を無くした。
僕が無能扱いされた理由もそこにある。
それが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
皮肉な結果だった。
「そんな奴がお主の周りにいたんだな」
「うん」
「タケシ……か」
リアーナは顎に手を当て何か思案している様だ。
◇
「全ての選択科目を解いた上で、それも満点とは」
試験官の長であるエビルマージが目を見開いたまま、そう言った。
「採用試験問題は基礎的な問題が多い。だが、それでも人間である冒険者にとっては解くことが難しいはず」
人間の住む場所には魔王軍に関する書物は少ない。
試験対策がし辛いのだ。
そこを考慮して、筆記試験では合格点は全科目で40点以上を取ることという易し目の基準が設定されていた。
魔王軍は、まだ新人にそこまで知識を期待していない。
筆記試験は選択制だ。
魔王軍の知識がなくとも、基礎学力だけで解ける科目を混ぜ込ませていた。
受験者が、限られた時間で瞬時に自分の得意分野を見抜く力を試していたのだ。
「確かにこれは逸材かもしれん。どんな奴だった? ミノタウロス」
エビルマージが教室で試験監督をしていたミノタウロスに問い掛けた。
「自前の筆記用具を使おうとした受験生をかばっていました」
「なるほど、他者を思いやる気持ちがあるのか」
魔王軍とはいえ、味方を助ける行動が取れるというのは大事なことだった。
「だが、こいつは不合格だな」
残念そうにその場にいる全員が頷いた。
つづく
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