第11話 隠された才能の発露

「指定された筆記用具を使えと言っただろがっ!」


 教室中にミノタウロス先生の怒鳴り声が響いた。

 半人半牛で叫ぶその姿は、教室内にいる冒険者たちのほとんどを震え上がらせた。


「すいません! すいません! つい、うっかり……」


 僕の斜め前に座っている戦士の男の子が、額にいっぱいの汗を浮かべ頭を何度も下げている。

 ミノタウロス先生はその謝罪を無視し、彼の自前のペンを取り上げた。


「決まりを守れない者は、退室願う!」

「ひいいいいいい! 許して!」


 僕は戦士の子が可哀そうになって来た。

 僕はお節介かもしれないと思ったが、彼を助けることにした。

 もしかしたら、彼と僕は合格してお互い同僚になるかもしれないからだ。


「……あの、そのペンきっと何も細工されていませんよ」

「何だ? お前は?」

「彼は戦士の様ですから、魔法力を含んだ道具は作れないと思うんです。……だから」

「黙れ! 受験番号99番。お前も退室させるぞ!」


 僕はそこまでしか言えなかった。

 ごめん。

 彼はオークに羽交い絞めにされ、退室させられた。


「うわー! やめてくれー! 殺さないでぇっ!」


 扉の向こうから叫び声が聞こえる。

 やがてそれも聞こえなくなった。

 冒険者たちの中でも、特に子供たちは怯えていた。

 僕はリアーナと擦り合わせた親指を見て、何とか自分を保っていた。


「ライバルが一人減って良かった」


 え?

 僕の隣の少女がそう呟いていた。

 スラリとした全身を黒装束で固めたその姿は、忍者か暗殺者を思わせた。

 彼女はスラスラ用紙の上に鉛筆を走らせ始めた。

 やばい。

 こうしている間にも時間がっ!

 だが、それにしても……


 試験問題は僕にとって簡単だった。

 

 試験問題は12問。

 その内、1問は必須科目で、残りの11問は選択制だった。

 11問の中から4問選ぶ。

 選択制の科目で、どれが自分にとって得意か見つけ出すのが合格のカギだ。

 だが、その必要さえなかった。

 僕にとってどの科目も難しくなかった。

 早々に回答し終えた僕は、辺りを見渡した。

 頭を掻きながら問題を必死に解いている男の子。

 鉛筆を転がして運を天に任せている女の子。

 この試験の合格点は何点なのだろうか?

 隣の黒装束のクールな少女は机に突っ伏して眠っていた。

 彼女も僕と同じ様に回答を終えたのだろうか。

 不安になって来た。

 最高点を出した者しか先に進めないとしたら……

 僕は見なおすことにした。


 そして、試験終了のベルが鳴った。


 教室を出ると、受付にいたオークがいて受験生待機室に誘導される。


「よぉ、どうだった?」


 リアーナが待機室で僕を待っていた。


「うん、まあまあだった」

「そうか。その顔を見ると余裕だった様だな」


 僕と同じ様に他の受験生もリクルーターと話している。

 あの黒装束の少女は、銀髪の少年の様なリクルーターと話していた。


「採点結果は1時間後に告げられる。合格出来たら次に進めるが、不合格なら分かってるな。コウイチロウ」

「うん」


 死だ。



 その頃、試験管理委員会の部屋では、筆記試験の採点が行われた。


「この受験番号99番は一体、何者なんだ……!?」


つづく

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