第10話 久しぶりの筆記試験
初めて入る魔王の城の中。
そこは予想よりも明るかった。
廊下の壁には魔石が埋め込まれていて、それが照明の役割をしていた。
魔王がいるというからには、暗くじめじめしているというイメージを勝手に持っていた。
ここはギルドホールより明るい。
長い廊下の突き当りには、男が立っていた。
「リアーナ様! お疲れ様です!」
リアーナに向かって敬礼した男は、よく見ると頭から角が生えていた。
蹄の様な手、豚の様な鼻をしていて、僕はこいつはオークだと判断した。
「受け付け頼む」
「はい」
ギルドにいた頃、オークとは狩り場でたまに遭遇した。
僕のレベルでは太刀打ち出来ないくらいの強さで、遭遇したら逃げていた。
そんなモンスターが僕に頭を下げている。
「頑張って下さい」
オークは僕から受験票を受け取った。
人の気配を感じて後ろを振り返ると、僕と同じ様に受験票を握りしめた冒険者がいた。
緊張した面持ちの彼らの隣には、それぞれ付き添いがいた。
リアーナの様なリクルーターだろうか。
「今回はざっと100人くらいが受験するみたいね」
リアーナが言う様に、僕の後ろの列は伸びていた。
教室に着いた。
机が並んでいて、受験番号が貼ってある。
僕は自分の受験番号が書かれた机を探した。
「試験なんて久しぶりだな」
去年卒業した
机に座らせたということは筆記試験なのだろう。
よく考えたら、昨日今日ここに連れて来られて試験の内容すら聞かされていない。
だから試験対策なんてしていない。
リアーナは僕を期待していると言ったが、果たして大丈夫なのか?
今更ながら、胃の中が痛くなる。
他の受験生が入ってくる。
僕と同じ年くらいの男の子や女の子が多い。
後は、大人が何人かいる。
やがて、人の入りが落ち着いた。
僕は後ろの方の席だったから、何人いるか数えることが出来た。
ざっと100人いた。
こんなに沢山の冒険者が人間に失望して魔王軍に志願しているかと思うと、人間の未来は暗いと思った。
「問題を配る」
教壇に立ったミノタウロスが告げる。
まるで先生の様だ。
僕はミノタウロス先生と呼ぶことにした。
試験問題の冊子を持ったゴブリンが、僕らの机にそれを置いて行く。
一緒に鉛筆と消しゴムも添えられていた。
「筆記用具はこちらで用意した物を使うこと。自前で用意した物を使ったことが分かった時点で退室願う」
なるほど。
この中には魔法使いもいるだろう。
彼らが魔石や素材を使って自分で作った鉛筆を使うのは不正の原因になる。
手に取った鉛筆はただの鉛筆だった。
これで皆、平等という訳か。
それにしても、退室させられたらどうなるのだろうか?
僕はリアーナが言っていた「死」という言葉が耳に響いた。
「始め!」
バサバサ!
紙を急いでめくる音がする。
斜め前の戦士風の男の子が慌てているのか、机から鉛筆を落とした。
それはコロコロと転がり、ミノタウロス先生の足に当たって止まった。
拾うのが無理だと判断したのだろう。
彼はポケットから自前のペンを取り出した。
「おい! 貴様!」
ミノタウロス先生は激高した。
つかつかと彼に向かって速足で歩いて行く。
つづく
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