第7話 一方その頃、僕を捨てたギルドでは

 一方その頃、コウイチロウを捨てたギルド『スピードメタル』では……


「厄介者を追い払うことが出来て、今日は気分がいい」


 ギルドマスターのアキラは酒の入ったグラスを手に取り、上機嫌だった。

 ここはギルドホールの一室。

 幹部だけが入ることが出来る部屋だった。


「アキラ。コウイチロウはポンコツだ。強くなる見込みも無い。まさにギルドのお荷物だ。奴に払う給料があるくらいならギルドの運営費に回した方がいい」


 副ギルドマスターのケンイチは、アキラのグラスに酒を注ぎながらそう言った。

 仕事の出来ない者はリストラの対象となる。

 それがこのギルドの暗黙のルールだった。

 だが、そんなルールがまかり通っていること自体、このギルドの財政が苦しいことを表していた。


「……だが、親父は怒るだろうか。コウイチロウをクビにしたことを……」


 酔いが途切れたのか、フッとアキラは人間の表情を取り戻した。


「アキラ。お前さんの親父はもう死んだんだ。気にするな」


 ケンイチはアキラの背中をポンと叩いた。

 コウイチロウはアキラの死んだ父親タケシが拾って来た。

 どういうわけか、タケシはコウイチロウを可愛がっていた。

 アキラはコウイチロウのことを嫌いになった。

 アキラは父親の愛情が半分になったと思ったからだ。


「アキラ、見てみろ。占いの結果によるとコウイチロウはきっとこのギルドに災いをもたらす」


 ケンイチの手の平にある水晶玉にはコウイチロウのシルエットが映っていた。

 

(メンバーの中でコウイチロウはポンコツだ。だが、それはアキラの親父という教師がいなくなったからだ。奴は育て方次第で急成長する。奴は不器用で真面目な分、正義感が強い。このギルドのやり方に異を唱える様になるだろう。そうなってはまずい。そう、このギルドは俺がいずれ乗っ取るつもりだからだ)


 コウイチロウ追放は、ケンイチの陰謀だったのだ。

 占い師である彼は過去と未来を本当らしく捏造することが得意だった。

 まず、コウイチロウにとって不利な情報をギルドメンバーに垂れ流した。

 風評被害にあったコウイチロウは彼の思惑通り、ギルドを去った。


 だが、この彼の行いがギルド崩壊への第一歩だった。


「ギルマス」


 扉の向こうから声がする。

 次にノックする音が3回。


「マユか。何だ?」


 アキラは扉を開けた。

 そこには白いローブの少女が立っていた。


「マユ、どうした? 遠征で何かあったのか?」


 アキラは優しい声でマユを労った。

 だがマユは彼の手を払った。

 彼女の頬は紅潮し、唇は血が出る程噛み締められていた。

 まるで怒りをこらえるかの様に。

 突如、その怒りは煮えたぎった溶岩の様に噴出した。 


「兄さん! 私がいない間にコウイチロウをクビにするなんて、ひどいわ!」


つづく

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