第6話 魔王軍の労働条件と福利厚生

 リアーナに連れられて、僕は採用試験会場である魔王の城に着いた。

 魔王の娘であるリアーナのお陰で、道中楽だった。

 彼女の発する瘴気は、モンスターをひれ伏せさせた。

 つまり、モンスターは襲ってこない。

 そして、途中の洞窟で、魔王の城がある大陸に直通している転移門を使った。

 これは、魔王族にしか使えない門らしい。

 リアーナはこの門を使うことで大陸間をショートカットし、街でリクルート活動を行っていたそうだ。


「でけえ……」


 僕は見上げた。

 魔王の城は左右に塔を備え、真ん中の塔は天を突く程、高い。

 この城は何階建てなのか。


「これ程、大きな建物は冒険者の住む街では見たこと無いだろう?」

「はい」


 僕の隣にいる少女、魔王の娘リアーナは驚く僕にそう言った。

 彼女は鼻を鳴らした。

 両手を腰に当て、胸を張り、まるで自慢するかの様にこう続けた。


「明らかに魔王軍の方が魔力も兵器も技術力も冒険者どもより上だ。冒険者どもは愚かだな。我々よりも仕事をしているのに、この程度の建物すら作ることが出来ない」


 街にある建物はせいぜい高くても3階建てだ。

 建築技術にも差がある。


「それに、ダイヤモンドより硬い鱗や大地を割く鋭い牙に対して、未だに鋼の剣に鋼の鎧で立ち向かってくるのだからな。我々に勝てる訳が無い」


 冒険者は、皆、この城を目指して血を流し犠牲を払いながら戦っていた。

 魔王を倒すために。

 冒険者はまだ、この魔王の城がある大陸にすら辿り着いたことが無い。

 冒険者は24時間休まず戦っているのに、だ。


「ブラックな戦い方では、この先、ホワイトな戦い方をしている我々、魔王軍には勝てぬ」


 リアーナは両手を組んだ。

 目をつぶりツインテールを揺らしながら、うんうんと頷く。

 それにしても……


「僕がはじめて……か……」


 魔王の城に着いたのは。

 ため息の様に言葉が漏れた。


「違うな」

「え?」

「お主の様に、人間に嫌気が差した冒険者は他にもいる。そいつらも魔王軍に転職を希望した」

「……そうなんだ」


 僕の様に、敵側についた者もいるのか。

 何故だか、彼らとは会いたくないと思った。


「今まで5000人ほどいたが、採用試験に合格出来たのは5人!」

「たったの!?」


 確率1%くらいじゃないか。

 それよりも、僕の様な人間が他にもそんなにいたとは驚きだ。


「皆、勤務条件が良いところで働きたいからな。ちなみに魔王軍はな……」


 週休二日!

 仕事は一日8時間で、交代制!

 各種手当あり!

 年一度の昇給あり!

 在宅ワーク可能!

 年一回の魔王軍旅行あり!


「すげえ!」

「だろう?」


 リアーナは僕の顔を覗き込んだ。


「コウイチロウよ。いい仕事はな、いい環境、いい休息が無ければ成し遂げられないのだよ。馬車馬のように働き、疲れた頭で戦略を練り、疲れた体で戦っても、我々には勝てない」


 確かにそうだ。

 僕らは疲れている。

 だから単純なミスもするし、ギルド内でケンカもする。

 魔王軍にはそんなことはないのだろう。


つづく

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