第5話 故郷を捨てて、旅立った日

 コウイチロウを連れ、街から出る。

 街を出た我輩はそれまで抑えていた瘴気を解放した。

 瘴気を垂れ流したままで、人間が住む街を歩けば我輩をモンスターだとバレてしまう。

 人間をリクルートするのに、素性がバレては面倒だからな。

 それにしても騒がしい街だった。

 性に合わない。

 コウイチロウが住んでいた街は、アボガルドという城を中心とした城下町だ。


「リアーナさん、待ってくれ!」


 住んでいた家を引き払い、必要な道具だけを詰めた袋を背中に抱えたコウイチロウが我輩を追い掛けて来る。

 何も枕やフライパンまで持っていく必要も無いだろうに。

 石に躓きそうになるその姿を見て、不器用な奴だなとつくづく思う。


「ほらほら、置いてくぞ」


 きっとあの様子だとギルドでもお荷物だったのだろう。

 仕事が遅い、真面目だけが取り柄。

 だが、仕事が出来る様になれば、一気に伸びる。

 そんなタイプだと我輩は確信している。

 思えば、アボガルドの街に来たのも偶然だった。

 行こうとしていた別の街が祭りで騒がしかったから、急遽、行く先を変更したのだ。

 街に入った途端、暗い顔でギルドホールから出て来るコウイチロウを見た。

 その顔を見て、13年間生きて来て感じたことのない何かを感じた。

 だから彼の後をつけた。

 自然に彼から声を掛けられるために、わざと暴漢に襲われた。


 コウイチロウは助けてくれた。

 そして、期待通り、我輩の魅力に引き込まれて行った。

 迷うコウイチロウをこちら側に引き込んだ。

 コウイチロウは人間でありながら、人間に失望し、憎悪している。


「コウイチロウ!」


 人間の、女の声。

 我輩は咄嗟に瘴気を消した。


「マユ」


 コウイチロウを追って来た女。

 我輩と同じ年、職業は治癒魔法使い、コウイチロウと同じギルドだった、レベルは……


「ギルマスがあんなこと言ったけど、私は……コウイチロウはしっかり働いてると思っている。私、ギルマスに言ってあげるから、その……ギルドに戻って来て」


 白い髪の幼さの残る顔。

 純白なローブの下は純真無垢な姿なのだろう。

 ただ、疲れが表情にあらわれているのは、はブラックなギルドで働かされてるせいか。


「コウイチロウ。行くぞ」


 戸惑っているな、コウイチロウよ。

 我輩を見ろ。

 我輩を……


「マユ。ごめん。僕はあの人のところに行くんだ」

「……コウイチロウ」


 コウイチロウ。

 採用試験でその甘さを見せるなよ。


つづく

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