第4話 魔王の娘の世界

「そんなことがっ、ある訳が無いっ!」


 気付いたら立ち上がっていた。


「何だ? ケンカか?」


 僕の大声に周囲の客が驚き振り返る。

 僕は取り乱したことを恥じた。

 そんな僕を、少女は上目遣いで見ている。

 クスっと悪戯っぽく笑うと、珈琲を一口飲んでからこう言った。


「果たして本当にそう言えるかな?」


 何だか心を覗かれている様で嫌な気分だ。

 何故、僕はこの少女の相手をしなければならないのだろう。

 もう後は気を付けて一人で帰ってくれ。


「じゃ」

「待て。お主、さっき路地で私の手を触れた時、何か感じただろう」

「え?」

「感じたんだな」


 しまった。

 僕は思わず自分の右手を見ていた。


「お主は魔王側の素質がある」

「いい加減にしてくれ!」

「我輩はお主の手を握る時、特殊な電波を発した。それを感じることが出来たということは、我輩と同じ魔王軍だ」


 一見するとただの12、13歳くらいの美少女だ。

 つまり、僕より3歳くらい年下だ。

 この人間そっくりの少女はモンスターだとでもいうのか?


「自己紹介が遅れた。我輩の名はリアーナ。魔王ロニーの娘。コウイチロウ。お前をリクルートする」

「なっ……」


 魔王の娘。

 それが何でこんなところに!?

 何で僕なんかを?

 そして……


「何で僕の名前を知っている?」

「コウイチロウ、年齢は16歳。職業は戦士。ギルドには所属していないな。両親はいない」


 うおっ……。

 何故、分かる?


「我輩の鑑定アプライサルスキルだ。」


 リアーナが魔王の娘であると嘘を付いてはないか?


「コウイチロウ。我輩は嘘はつかない。下を見て見ろ」

「あ!」


 僕らが座っている席、その下の床には魔法陣が描かれていた。

 珈琲の染みで描かれている。

 僕らはその魔法陣の中にいた。


「いつの間に……」

「我輩のスキル、真実トゥルース。我輩とお主、会話の中でどちらかが嘘を付けばサタンが現れる。その瞬間、我輩とお主の首が跳ね飛ばされる。会話を邪魔する者も然り」

「何ということだ……」

「ちと、魔力を使うがな。お互い、心で本当に思っていることを話そう」


 僕は心の中を、魔王の娘に向かって吐き出した。

 魔王の娘は不思議な魅力があった。

 悪にも魅力があるのを初めて知った。


「コウイチロウよ。お前はどんなモンスターよりも、人間と戦う動機を持っている。人間に対する復讐心を持っているからだ。そのためには自らの命を捧げてもいいとさえ思っている」


 魔王の娘の瞳は何処までも綺麗で澄んでいた。

 僕を捨てたギルドの連中の目は濁っていた。

 悪とは何なのか、善とは何なのか分からなくなる。


「コウイチロウよ。魔王軍へようこそ」


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る