第3話 悪魔的な出会い!

 僕は失意を抱えたままハローワークを後にした。

 どの募集広告もブラックな内容で、今の僕が望んでいないものばかりだった。


「ソロでやっていくしかないか……」


 僕は諦めようとしていた。

 その時だった。


「キャー!」


 路地から女の悲鳴が聞こえる。

 僕のいる地点から少し先の曲がった路地からだ。


『女性には優しくしろ。コウイチロウ』


 スピードメタルの先代のギルドマスターはそう言った。

 彼は僕を拾ってくれた恩人だ。

 その人の顔が脳裏に浮かんだ。


「はい」


 地を蹴り、路地を曲がる。

 

「やめろ!」

「何だ!? てめぇはっ!」


 暴漢ですといった感じの筋肉男が、ツインテールの黒髪少女の腕を掴んでいた。


「嫌がってるだろ!」

「おいおい、ナイト気取りか? 他でやってろ」


 脳筋野郎は僕を無視した。


「やめろと言ってるだろ!」

「黙れ。この女の子は絶対いいとこの娘だ。着てる服が違う。俺はこいつを誘拐して身代金を親に要求してやるんだ。お前も仲間になるか?」


 このまま、こいつとコンビを組むのもいいか?

 何て、一瞬馬鹿なことを考えた自分を恥じた。

 男の陰から顔をのぞかせている女の子は黒い大きな瞳の美少女だった。

 レースやフリルの沢山ついた真っ黒な服を着ている。

 確かに、貴族の様な服装をしている。


「モンスターよりは楽勝かな」


 いつもの戦闘の要領で、突進する。


「うおっ……」


 脇腹を剣の柄で突いてやる。

 男は僕の攻撃で気絶した。

 筋肉は見掛け倒しらしい。


「大丈夫?」

「うん」


 僕は少女の手を取ろうとした時……


「んおっ……」


 何だか、ビリッとしたものを感じた。

 彼女の手から発する何かを僕は敏感に感じ取った。

 横で倒れている脳筋男もそれを感じ取ったのだろうか?



「どこかの貴族か知らないけど? 一人でこの街を歩くなんて危ないよ。ここは結構治安が悪いんだ」


 一息ついた喫茶店の窓際席で、僕は少女を注意した。


「我輩は、好奇心豊かなのだ」


 ケーキをパクつきながらそう言って来る。

 食いつきっぷりが貴族っぽくない。

 生クリームを鼻に付けたままこう続ける。


「こうやって人間の住む場所で、我輩は有能な人材を探しているのだ」

「え?」


 言ってる意味が分からないんですけど。


「お主はただの町民か? それとも魔王と戦う冒険者か?」

「僕は冒険者だ」

「冒険者か……ならば我輩たちの敵だな」


 え?

 敵?

 この少女の敵なのか僕は?

 暴漢から助けたのに。


「お主、何のために戦う」


 少女は口に付いたクリームを手の甲で拭いう取ると、問い掛けて来た。

 そして指に付いたクリームを美味しそうに舐めた。


「何のためって?」


 まともに考えたことも無かった。

 強いて言うなら、僕を拾ってくれたギルドのためだった。

 だけど、そのギルドに捨てられた。

 今はそのギルドに復讐したい気持ちでいっぱいだ。

 そして、そもそも僕を捨てた両親にも復讐したい。

 少女は僕の鼻先にフォークの先端を突きつけた。

 見透かしたように、こう言う。


「お主は、今、こう思っている。人間に復讐したいと」


つづく

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