第44話 エピローグ インディオの王女はクリスの書類処理量の多さに固まりました

戦いは終わった。

殺されるかもしれない。奴隷にされるかもしれない。


と言う恐怖をもたらしたホワイテア帝国皇帝は最後はテレーゼ女王オリビアの逆鱗に触れて処断された。ホワイテア帝国は今は地下牢にいて命拾いした宰相のテイヨが中心となって生き残った、第二王子を中心に国を立て直しているところだ。


白人第一主義、人種差別政策、奴隷政策をそう簡単に捨てられるのかは疑問だが、乗り込んできたオリビア女王の剣幕に無理やり決めさせられたのだったが・・・・・


「チャンスは一度きり。失敗したら次は併合します」

そう言う、施政者としてのクリスはとても冷たかったとモニカは感じた。もっともホワイテアの白人共は多くのインディオを虐殺性奴隷に落としたのだ。今も恨んでいるインディオたちも多いだろう。今回はシャラザールやクリスによって15万ほどの兵士が処断されたが、殺されたインディオたちの数はその5倍は下らなかった。これで一度に皆が納得するはずもなかった。


夏が終わるとクリスらは慌てて旧大陸に帰っていった。

そして、モニカは戦いの後、のんびりと過ごして・・・・いられるわけはなかった。


「モニカ、送ってきた書類、3っつも計算ミスがあったぞ。何してるんだ」

モニカの前の魔導電話からオーウェンの冷たい声が響く。

「えっ、そうですか。すいません。やることが多くて」

モニカは疲れていた。


戦いの後、モニカはフロンティアの行政府に強引に所属させられて副総督に任じられたのだ。いずれは総督を任せられるらしい。でも、副総督なんて名前は立派だが、やることは大量の書類の決済だった。


「何が量が多いだ。お前ら甘やかされすぎているぞ。そもそも、お前はドグリブの皇太子だろうが。今まで何していた」

オーウェンが白い目で見る。


「えっ、今までは普通の王女だったし、王女ってそんなに書類仕事は無かったから」

「はぁぁぁ、何言っている。地位が上になればなるだけ書類決済は増えていくんだよ。それ以外に行政で決めていくこともあるし、お前ら王族は何してたんだ」

「いや、でも、あまり眠れていないし、この書類の量見て下さい」

モニカは自分の机の前の書類の山を見て呆れていった。


「お前、何やってるんだ。俺の机の上を見てみろ」

オーウエンが画面を動かす。


確かにオーウェンの机の上の山はモニカの10倍くらいの高さがあった。


「俺のはこれが1日分ただぞ。お前のは遅れているから増えているだけであって量は俺の20分の1以下だろうが」


「・・・・・・」

そう言われるとモニカは何も言えなかった。

そう、オーウェンの書類処理量の凄まじさは神業だった。


「本当にお前らは今まで遊びすぎだ。貴様の父親は本当に役に立たないし」

オーウェンがブツブツ言う。


ドグリブ国王らは、ホワイテアのカロン砦軍を落とすのに、その後方のフロンティアをクリスらに占拠されたにもかかわらず、10日もかかったのだ。当然ながらシャラザールの逆鱗に触れていた。


多くの貴族が領地を半減されて、それをフロンティアの元貴族に与えられていた。


シャラザールの宥和政策の一環で、人種によって差別をなくすために一緒に暮らすことが必要だという、シャラザールらしい超強引政策だ。


それによって領地を減らされた貴族も、フロンティアの地から強引に転地させられた貴族達も不満だったが、誰一人シャラザールに反論できるものはいなかった。


何しろ、今生きていられるのは全てシャラザールがホワイテア軍10万を殲滅してくれたからなのだ。それに王都から見えていた魔の山が無くなったことも大きかった。シャラザールにとって山一つ灰燼に化すことなど朝飯前なのだ。いわんや貴族の領地や館など小指で足りるだろう。


シャラザール本人を前に誰一人文句は言えなかった。

しかし、その不満を持つ貴族達を治めていく父は大変に違いなかった。


「まあ、役立たずの国王は粛清してもよいが」

平然と言い切るシャラザールの前に国王はただただ震えるしか無かった。今頃は必死に統治しているはずだった。


でもそれ以上にモニカにとってオーウェンのスパルタ教育は大変だった。


「それよりも、お前の上司の総督はどうした」

オーウェンが白い目で見る。


「アメリア様はヘルマン様のお見舞いではないですか」

「彼奴等なあ。いつまでイチャイチャしているんだ」

「まあまあ、内務卿。ラブラブなのは良いことではないですか」

横からシュテファンが言う。


「はあ、何言っているんだ。それでなくてもヘルマンがいなくて仕事量が増えているのに、その分全部フロンティアに送ってやろうか」

「いや、ちょっとそれだけはやめてくださいよ」

慌ててモニカが言う。


「そもそも、お前の後ろでニヤニヤ笑っているダビッドにもやらせたら良いだろう」

「えっ」

他人事よろしく大変だなと笑っていたダビッドが固まる。


「いや、私はモニカ殿下の護衛騎士でして」

「何言っている。騎士が騎士の仕事だけしていて良い時はとっくに過ぎているんだよ」

「そ、そんな」

ダビッドは顔を青ざめさせた。


「お前だってモニカの護衛しているだけだろうが」

「いや、それが仕事だから」

「甘いぞ。俺の護衛のジェキンスを見てみろ。護衛以外に秘書的役割でいろんな書類決済をやっているぞ」

「そうだ。殿下は人使いが荒すぎるんです」

横からジェキンスが叫ぶ。


「そんなあ」

情けない顔でダビッドが言う。


「どうかしたんですか」

そのオーウェンの横からクリスが顔を出した。


「あっクリス様。お久しぶりです」

「クリス様。お助け下さい。オーウェン様がひどいんです」

モニカの挨拶の後にダビッドが泣き込む。


「モニカ様。お元気そうで」

「元気ではありません。書類山に埋もれているんです」

モニカもクリスに泣きこんだ。


「まあ、そうなのですか。内務卿も貴方様のことを見込んで多くの書類を送られているのだとは思いますが」

「すいません。私、まだ、書類仕事に慣れていないので」

「そうですか。まあ、モニカ様もまだ15歳ですものね。量が多すぎるとおっしゃっていらっしゃるなら。そうですね。では私が10歳で王宮に見習いで上がった時くらいの書類の量にしてあげればいかがですか」

クリスは横のオーウェンに言った。


「ありがとうございます。クリス様」

即座にモニカは食いついた。いくらクリスでも、10歳の頃の量ならば今より絶対に少なくなるはずだ。


「えっ良いのですか」

驚いてオーウェンがクリスに聞く。


「お願いします。内務卿」

モニカは拝み込んだ。


「判った。じゃあその量はその日のうちに必ずやるのだぞ。アメリアやヘルマン、後ろのダビッドに手伝ってもらっても良いから」

「はい。お任せ下さい」

複雑な顔をしたオーウェンの態度に少し違和感を感じたが、モニカは即座に食いついていた。10歳の子が処理出来た量だ。絶対に今より少ないはずだ。モニカは信じて疑わなかった。



「・・・・・・・・・・・・・」

翌朝、出勤してみてモニカは机の上の資料の山に呆然としていた。

昨日の10倍くらいある。オーウェンの机の半分くらいはあった。


「何ボーッとしているのよ。モニカ。あんたでしょ。クリスの10歳くらいの時の書類処理量なんて軽いって言った愚か者は」

後ろの席からアメリアが文句を言ってきた。

「おかげで私も手伝わされる羽目になったじゃない」


「だってアメリア様。昨日の私の書類の10倍以上あるんですけど」

「当たり前でしょ。あんた何言ってくれているのよ。あの二人は別格なの。それと同じだけやるなんて、神をも恐れぬ暴言よ」

「だってクリス様の10歳の時の量だって」


「舐められてはいけないと最初が肝心だって、エリザベスおばさまが、自分がやっている書類と同じ量を10歳のクリスに出したのよ」

「えっ、王妃様の書類量と同じだけの決済書類を」

「おばさまは内政にも噛んでいるから普通の王妃の何倍もの量があるのよ。当然簡単な書類が中心何だけど」


「・・・・・」


「クリスは嬉々としてその書類を持って自分の父親、マーマレードの内務卿の横に行って判らないことは全部聞いてやったそうよ。父様と同じ仕事ができて嬉しいって」


「・・・・」


「内務卿も流石に10歳の娘には難しいだろうと思って王妃に注意しようとしたら、クリスが嬉々としてやり終えたから何も言えなかったって」


「・・・・・・・」


「ちょっとモニカ。固まっていないでさっさと始めなさいよ」

アメリアがモニカの前で手を振った。


「そんな、こんなに出来るわけないじゃないですかーーーーーーーーーーーー」

モニカの悲鳴が総督府中に響き渡った。


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ここまで読んで頂いてありがとうございました。

これにて完結です。

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