第29話 クリスは魔の山を一閃で消滅させました・・・・

翌朝、目を覚ましたクリスは、巨大なテントの中のベッドの上で寝ているのに気付いた。

何故か気分爽快だった。


「あっ目を覚まされましたか」

おっかなびっくりで横にいたモニカが声をかけてくる。


「どうしたんですか。モニカ様。言葉が敬語になってますけど」

不思議そうにクリスが聞く。クリスはシャラザールになった自分がどんな事をしたか全く覚えていないのだ。


「良かった。シャラに戻ってる」

モニカはホッとした。このままシャラザールのままだったらどうしようと、モニカは途方に暮れていたのだ。


あれからモニカとギャオースを連れて城中歩き回ったシャラザールは隠れていた貴族と兵士たちを見つけると問答無用で出陣させた。


あまりにやる気のない兵士は問答無用でカロン砦の真ん前に転移させられていた。

それをそばで見ていた貴族たちは慌てて駆け出した。


そして、残っていた侍女や子供老臣達を集めて兵士の基礎訓練をはじめたのだった。

モニカも散々しごかれた。


徹夜の命がけの訓練で多少は兵士の形になった侍女たちだった。


「ひどいやられようね。ひょっとしてギャオちゃんがやったの」

外の様子は悲惨だった。白い目でクリスはギャオちゃんを見た。


いや、お前だろう。


モニカは余程そう言いたかった。


ギャオちゃんも

「ピーーーーーー」

誤解だと必死に否定している。



「モニカ様。貴族の皆さまや近衛兵の皆様は?」

「夜にカロン砦の奪回に向かった」

「さようですか。私がお酒で酔っている間に皆様、やはり出陣されたのですね。さすがドグリブの勇者の方々ですわ」

感心してクリスが言った。


そのクリスの言葉に何故かモニカは疲れ切った表情をしていた。


「じゃあすぐに我々も追いかけた方が良いのではないですか」

「その前に魔導師部隊を作ったのだけど、シャラ様が見本を見せて頂けると」

「えっ見本ですか。あんまり攻撃魔術を使った覚えがないんですが、どなたが言われたのですか?」

「えっ、しゃ、いや、国王陛下がおっしゃらされんだ」

クリスの疑問に、思わずシャラザール様が言ったと言いそうになって、モニカは父が言ったことに代えた。本人にはシャラザールが憑依していることは内緒にしろとシャラザールが最後に念押ししていたのだ。



練習場では魔力の多いものを急遽50名女子供の中から選び出して訓練が始まっていた。

皆、的に向けてなんとか小さいファイアーボールを作って攻撃できるようになりつつあった。


「皆さん。殿下が見本を見せて頂きます」

教官と思しき女長官が全員に言う。

練習していた子供や女官がモニカを注目した。


モニカは元々女騎士だ。魔術はほとんど使ったことが無かったが、昨日の特訓でなんとかファイアーボールが出せるようになった。


「出でよ。火の玉」

皆よりも大きな火の玉が生成されてそれは標的に命中した。

爆発音がなって標的が消失する。


「おおおお」

皆拍手した。


「では、次はシャラ様に見せて頂きます」

女長官の言葉に皆興味津々でクリスを見詰めた。

何しろ秘密だがシャラザールが憑依しているのだ。すごいことをしてくれるだろう。


クリスは皆の視線が怖くなってきた。


「あのう、モニカ様。本当に陛下が私に見本を見せろとおっしゃったのですか?」

「そうだ。彼女なら素晴らしい見本を見せてくれるだろうと」

本当は本人がそう言ったのだが、意識がなかったのならば仕方があるまい。

モニカもどういうふうになるか興味があった。

シャラザールの見本ってどんな感じだと。


「でも、モニカ様。私、不吉な予感しかしないんですけど」

「大丈夫。シャラなら必ずできるよ」

モニカは太鼓判をおした。


「そうですか?」

クリスは的の前に立った。


「出でよ。火の玉」

クリスは言うが、小さな火の玉ができそうで消えていった。


皆唖然と見ていた。


「あれ、大した事無いよ」

子供の一人が言う。

「しィィィィィィィィ」

横の女官が慌てて子供の口を抑える。相手はシャラザールだ。怒ると今度こそどうなるか判らない。


「あれぇぇ。やっぱり出来ませんよ」

真っ赤になってクリスが言う。


「大丈夫。シャラなら出来るって」

シャラも大した事無いんだとモニカはほっとして思いながら言う。


クリスは気持ちを入れかえて、再度、的の前に立った。


「出でよ! 火の玉」

今度は巨大な火の玉が出来ようとしてその大きさに慌ててクリスは止めた。


「すげえ、めちゃくちゃ大きかった」

今度は子供が喜んで言った。


「モニカ様。ファイアーボールでなくても良いですか」

クリスが聞いた。

「なんか、ファイアーボールはやりにくくて」

「えっ、何でもいいと思うけど」

確かシャラザールも魔術の指定はしていなかったと。


クリスは真剣に構えた。


そして深呼吸をする。


クリスから緊張が消えた。


クリスは無詠唱で手に魔力を集める。


「えっ」

モニカはその魔力の大きさに驚いた。ひょっとしてこれは・・・


モニカが止めるまもなくクリスは巨大衝撃波を放っていた。


それは一瞬で練習場の的を破壊しつくし、城壁を破壊、そのまま遠くに見える魔の山を直撃した。


凄まじい爆発音がする。


皆衝撃で倒れていた。


爆炎が無くなった跡には魔の山は影も形も残っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る