第8話 新大陸から来た騎士は大使館を訪ねようとしました

「いたぞ」

「こっちだ」

兵士たちの声がする。


ダビッドはエドアルド・ドグリブ王子を連れて必死に逃げていた。


ホワイテア帝国の追手の追求は厳しく20人いた仲間も今は王子と二人だけだった。


王子らとホワイテア帝国に紛れ込んでボフミエ魔導国に援軍の依頼に大海を渡ろうとしたのだが、旧大陸との港町ビッグゲートに入ろうとした手前の山で検問に引っかかったのだ。


「あっ」

二人の目の前に忽然と林が切れて濁流が現れた。

思わずたたらを踏んで留まる。


「いたぞ」

兵士が現れて切り込んできた。

ダビッドはその剣を躱して剣で叩き切った。

王子ももう一人の兵を叩き切る。兵士は川に突っ込んで行った。


しかし、兵士たちは次々に現れて来る。


いつの間にか二人は濁流の川を背に囲まれていた。


「やむを得ん。ダビッド飛び込め」

「えっ、この川にですか」

「そうだそれしかあるまい」

「しかし」

ダビッドが躊躇する間に兵士が切り込んできた。


躱すとあっさりと川に落ちて濁流に飲み込まれる。

ダビッドは泳ぎが得意ではなかった。

それが躊躇を生んだのだが、状況は切迫詰まっていた。


「行けっ」

王子がダビッドを蹴落とした。


「ぎゃっ」

ダビッドは川に落とされていた。



しかし、その視界に切リつけられる王子が見えた。

「王子!」



自分の大声でダビッドは飛び起きた。


周りを見ると寝室だった。


「夢か」

ダビッドは頭を振って起き出した。

カーテンを開けると空は白けていた。朝になったようだ。


ここはテレーゼの王都ポルト。あれから3ヶ月が経っていた。

あの時は気付いたら老夫婦に看病されていた。ダビッドは河岸に倒れていたそうだ。

王子の行方を調べたが、判らなかった。あの状況だ。もう命はないだろう。

ダビッドは王子から言われていた事を思い出していた。いざという時は生き残った者が、例え一人でもボフミエ魔導国に援助を頼みに行けと。



2週間探しても王子の行方は判らなかったので、商船に潜り込んで何とか、このテレーゼまでやってきたのだ。


テレーゼからボフミエまでの旅銀が無かったので、何とか、働いて貯めようとした時に、筆頭魔導師がこの地に来ているのが判った。

ダビッドは信心深くは無かったが、これは神の思し召しだと思った。


早速王宮に行ったが、一介の旅人に会わせてもらえるわけもなかった。

近くにいた人が、親切にもボフミエの大使館があるからそこで頼めばどうだと教えてくれた。昨日はすでに遅くて大使館は閉まっていた。



聖女クリスは、軍事大国ノルディン帝国に今まさに侵略されそうになっていたモンゴロイド種族の陳王国の王女の必死の請願に出陣してくれて、ノルデイン帝国の大軍を殲滅したと聞いていた。モンゴロイドのインディオの頼みにも必ず応えてくれるはずだと、王子は自信を持って言っていた。


ダビッドはそこまで白人の国の者が面倒を見てくれるか疑問だった。しかし、王子の最後の遺言なのだ。当たって砕けるだけだと。いざとなればこの顔で聖女を誑し込めば良いとオーウェンが聞けば殺されそうな事を平気で考えていた。白人の女どもを騙すのはイチコロだった。

今も酒場の女の家に居候させてもらっていた。童顔のダビッドの顔は女心をくすぐるようで、宿に困ったことはなかった。


身なりを整えるとダビッドは女に黙って家を出た。

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