第6話 テレーゼ王国皇太子本人の知らぬ間に勝手に帰るスケジュールがたてられていました
その朝のボフミエの執務室で、
「アメリア様。急遽私のテレーゼ訪問が決まったと伺ったのですが」
朝一番にこの国の最高指導者で筆頭魔導師のクリスがアメリアに聞いてきた。
「えっ?いつ決まったの。私のスケジュールも決まっていないのに」
アメリアは慌てた。
「朝一番に、事務官のイザベラから内務卿から訪問が決まったと言われたと報告を受けたんですが」
クリスの見せるスケジュール帳には一週間後に7日間の訪問スケジュールが入っていた。
「えっ、教育卿もそれに合わせて里帰りされるんですよね。そう聞きましたよ」
教育省の官僚が言う。
「えっ」
何で部下が自分も知らない自分のスケジュール聞いているのかアメリアには理解できなかった。
「教育卿。テレーゼから連絡です」
「えっ、テレーゼから」
「ちょっとアメリア。来週帰ることを決めたんですって。早く言いなさいよ」
いきなり画面に母のオリビア女王のドアップが映る。
「母上。いや、まだ、スケジュールがはっきりとは」
アメリアは焦って言った。
「何言っているのよ。キャロラインとシャーロットからは子供たちが一緒にお邪魔するそうだから宜しくと電話が入ってきたわよ」
「えっ、キャロラインおばさまとミハイル侯爵夫人から」
オーウェンとクリスの母からだ。アメリアはオーウェンの仕事の速さに驚いた。
何故本人に言わず、周りに根回しするかなと思わずにはいられなかったが……
「アメリア酷いじゃないか」
そこにジャンヌが怒鳴り込んできた。
「何でテレーゼに行くのにオーウェンは良くて私は駄目なんだ」
「えっ、ジャンヌまで。まだ決まったわけでは」
アメリアは慌てて言うが、
「あっ、オリビアおばさま。私も訪問させて頂いて宜しいですよね」
電話の相手を見てジャンヌが言う。
「えっ、でも、あなた、マーマレードの皇太子なんでしょ。そんなにたくさん国賓級に来てもらっても」
「大丈夫ですよ。筆頭魔導師に付いていく高々魔導師団長ですから。そもそも正式ではなくてお忍びで行くという事で良いのですが」
「ジャンヌ。あなたは今はマーマレードの皇太子なのです。もう少し立場をわきまえて話しなさい・・・・」
そこから母の叱責が始まった。
こうなると長いのだ。
そこは、マーマレードのエリザベスおばさまと同じで。こうなったら聞くしか無いのだ。
どのみちオーウェンはクリスとの間をジャンヌらに邪魔されないように先手を打ったつもりだろうが、ジャンヌらがそんなにあっさりと引き下がるとはアメリアは到底思えなかった。
そして、テレーゼ行きのスカイバードには嬉々としたジャンヌと優雅に座っているアレクと無理やり、オーウェンに頼み込んだヘルマンとの姿があった。
「何で貴様らがここにいる」
ブスッとしてオーウェンは聞いた。
もっとも護衛騎士のウィルやアルバートがいる時点でクリスとの二人きりは無理だったが………
「何言っているんだ。私達だけのけものにして」
「そうだ。テレーゼの女王陛下にも外務卿としてぜひともご挨拶したいし」
ジャンヌとアレクはオーウェンの白い目にもびくともしなかった。
一方のクリスは前の方で事務官のイザヘラらとワイワイやっているのがみえた。
「クリス様は女王様とはお会いされたことがあるんですよね」
イザベラが聞く。
「小さいときにですけど。アメリア様と一緒にマーマレードにいらっしゃった時にお会いさせていただきました」
「母がまだ皇太子のときよね」
アメリアが言う。
「その時は本当におしゃまな女の子で、母の膝の上に乗っていたわよね」
「えっ、そうでしたっけ」
クリスが戸惑う。
「そうそう、うちの母は怖いからオリビアおばさまのほうが好きとか言ってたぞ」
ジャンヌが言う。
「えっ、そんなこと言ってました?」
クリスが青くなる。
「まあ、うちの母は喜んでいたけれど。テレーゼでは皇太子として毅然としていたし、子供に好かれるなんて珍しかったから」
アメリアが言う。
「クリス様はすごいんですね。うちも侯爵家ですけれど他国の王族とはあまり交流がないんでけれど」
「それ言うならうちは公爵家だけれど一緒だよ」
イザベラやアルバートまで言う。
「まあ、ジャンヌお姉さまに連れ回されていましたし」
「クリスとこの母がオーウェンとこの母の侍女だったのが大きいんじゃないか」
ジャンヌが言う。
「まあ、それもあるけれど、マーマレードのミハイル家は別格だからな。初代夫人はシャラザールの隠し子という説もあるくらいだから」
オーウェンが言うが、シャラザールの名前が出されてアレクはビクッとする。
こんな時にシャラザールの名前を出すなよ。と言いそうになるが、クリスに憑依しているので聞かれるとまずいと思って黙っていた。
「ああ、だから領地の邸宅にシャラザールの紋章が入っていたんですか」
イザベラが聞く。
「まあ、そこはよくわからないけれど」
クリスは笑って誤魔化した。
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