第13話「ニケの正体発覚… そして榊原家家族会議」

おおとり、今BERSバーズ特殊潜入部隊のたちばな三尉から連絡があった。ビンゴだ。そのお前が読んでいる報告書の少女がニケだと確定されたよ。」


 北条 智ほうじょう さとるは自分のデスクで、目の前に立つ部下の鳳 成治おおとり せいじに対して嬉しそうに告げた。ここは北条の執務しつむ室である。おおとりは北条に渡されたニケに関する報告書を読んでいた。読み進めるおおとり眉間みけんにしわがり、しわはだんだんと深いものになっていく。


「どうだ、おおとり… なかなか興味深い少女だろう? 我々のニケは…」


「はあ…」


 北条に問われたおおとりは、どこか上の空の様な表情をしていた。返事にも力がこもっていない。北条は今日の鳳 成治おおとり せいじの態度が、いつもの様な覇気はきや積極性をいている様に思われてならなかった。


おおとり、どうかしたのか? いつものお前らしくないぞ… 何か問題でもあるのか?」


「いえ、申しわけありません… 少し考えることがありまして…」


北条は驚いた表情でおおとりに対して言った。


「本当にお前らしくないな。困るぞ、この大事な時に。まあ、お前も人間だってことだろうが、しゃんとしろよ。いくら私が右腕と頼むお前でもそんなざまでは、この難しい作戦からはずさねばならんぞ。今のお前の醜態しゅうたいは、長年のよしみで見なかったことにしておく。」


おおとりわれに返ったように、あわてて北条に弁明する様に言った。


「失礼しました、課長。申し訳ありませんでした。今の課長のご質問に対する答えとしましては、私もこの少女がニケで間違いないと思います。ましてやBERSバーズ特殊潜入部隊の隊長であるたちばな三尉の報告で、事実として裏付けられたわけですから疑う余地は無いでしょう。」


北条は、このおおとりの返答に満足したようにうなずきながら言う。


「その通りだ。この少女…『榊原さかきばらくみ』をニケとして断定する。今後『作戦ニケ』については、この少女にターゲットをしぼって進めていく事とする。


 しかしたちばな三尉の報告してきたニケと同行していた老人…何者だろうな…? おかしな魔法のような術を使って、BERSバーズ特殊潜入部隊の隊員一人を手玉に取った挙句あげくつかまえたという事だったが…一緒に行動していた事から見てもニケの仲間と言ったところか。


 しかし、たとえ一体であったとしてもBERSバーズとらえる事など、十数人の警官隊がたばになってかかっても無理な話だ。しかも、そのBERSバーズが特殊潜入部隊の隊員だとなるとなおさらだ。それをたった一人の老人が行なったなどとは、いくらたちばな三尉の報告でも、にわかには信じられん。彼が持ち帰る戦闘の撮影記録をこの目で見るまではな。


 この老人に関しても、正体及びニケと関係も含めて早急に調査を進めるんだ、いいな。」


 また眉間のしわを深めるようにして、おおとりが答える。


「はっ、ただちに調査に入ります… ですが課長、我々はニケの正体を特定したわけですが、今後課長はニケをどうするおつもりなのですか?」


「ふ… 決まっている。ニケを確保するのだよ。そして彼女の秘密をあばくんだ。本当に空を飛べるのか、飛べるとしたら人間なのか… その秘密を解明して我が物に出来たら、我が国は軍事力で世界に対して圧倒的に有利な立場に立てるだろう。BERSバーズをもしのぐ大きな軍事力となり、世界の軍事バランスは一気に変わるぞ。もちろん、日本が世界最強の存在になるんだ。ニケの力を解明し、手に入れることが出来ればな。」


「それは上からの命令なのですか…? それとも、課長個人のお考えなのですか?」


 この男にしてはめずらしく興奮して饒舌じょうぜつに話す北条に、おおとりは確認せずにはいられなかった。


「いや… まだ報告していないし、これからも上司に報告する事など私は考えてはいない。こんな事は彼らの手に余るだろうからな。もっと有効なニケの使い方を考えていくさ… 私と君でな。ふふふ、そうなれば我々の今の地位などゴミの様な物だ。もっと上にのぼり詰めるまでは、せいぜい利用させてもらうがね。」


「課長の…いや、北条先輩の野望は相変わらずとどまることがないですね。」


鳳 成治おおとり せいじはかつての大学時代の尊敬する先輩に対するような親し気な口調で、北条 智ほうじょう さとるに言った。


「そこが私のいい所じゃなかったか… 違うかい?」


 北条も、自身が唯一信頼し可愛い後輩でもあるおおとりに対して、笑いながら気さくな口調で答えた。


「まあ、ニケこと『榊原さかきばらくみ』に関する調査をさらに掘り下げて行うんだ。不思議な老人に関しても同様にな。早急に私に報告を寄こすよう、担当各部署をかせるんだ。」


「分かりました。ただちに…」


 おおとりが妙に浮かない顔をしながら、北条に頭を下げて部屋を出て行った。北条はデスクを離れ、窓を開けて青空をながめながらつぶやいた。


「ニケ… いや、榊原さかきばらくみよ… 待っていろよ、必ずお前を私のモノにしてやるぞ…」





       ******************** 


         


いっぽう、榊原さかきばら家では家族会議が開かれていた。


 会議に参加している者は、榊原 竜太郎さかきばら りょうたろう、アテナ、くみ、大陰陽師おんみょうじである安倍賢生あべのけんせいの4人であった。


「そう… そんな恐ろしい目にったの… くみ、それにお義父とう様も。」


アテナの問いかけに娘のくみが答える。


「うん、そうなの…ママ。でも、あいつらの口ぶりでは目当ては私みたいだった… ねえ、お祖父じいちゃん…?」


祖父である賢生けんせいが皆に対して答えた。


「確かにそうじゃった。あれはくみをねらっておった、間違いないじゃろう。」


それまで黙っていた竜太郎りょうたろうが口を開いた。


「しかし、父さん… くみはおおやけには普通の中学三年生の少女だよ。くみがニケである事を知っているのは、ここにいる我々四人だけだ。それが何で…?」


賢生けんせいが息子の問いに答えるように言う。


「わしも考えたんじゃがな… 先日のお前の操縦していたジェット旅客機の事件…公的な発表では事故という事になっておるようじゃが、あれが原因ではないかの。」


「私もそう思います、お義父とうさま。あの時、滑走路でくみの姿を監視カメラか何かで撮影されたのじゃないかしら… それを調べた機関がくみを襲ったのでは…?」


アテナがくみを見つめながら言った。


「それが正解だな、きっと。滑走路を含めた飛行場にはいたる所に監視カメラがセットされている。事故やテロなどの事件を防ぐためにも、証拠として残すためにもね。それで撮影された動画や画像は、関係各所に公式に提出されるんだ。それらを解析して、くみを調べ上げたに違いない。」


 竜太郎りょうたろうが皆に対して、国際線の機長を職業とする空港関係者としての立場からの意見を述べた。じつに説得力のある説明だったので、皆がうなずいて同意を示している。


「そんなあ… 私の動画や写真が勝手に撮られてたなんて…ひどいわ。プライバシーの侵害よ!」


くみが怒りながら大声を上げた。無理もない話である。


「とにかく、バレてしまったものは仕方が無いわい。しかし、竜太郎りょうたろうの話の通りじゃとすると、くみを調べておる組織が公的な機関という事になるわい。わしは陰陽師おんみょうじとして、この国を実際に動かしておる政財界の大物連中と懇意こんいにしておるでな。その者達には恩をたくさん売ってあるのじゃよ。連中に頼んで手を打ってもらうとしようかの。はるか上からの命令は、キャリア組の役人連中にはかなりき目があるはずじゃぞ。連中はビビってしまってわしらに二度と手を出せなくなるじゃろう。裏からのルートを逆に利用してやるのじゃよ、ほっほっほ…」


 賢生けんせいが楽しそうに笑って話すので、沈み込んでいた皆の気持ちも明るくなった。


「それがいい、父さん。そうしてもらえれば、くみも私達家族みんなも助かるよ。」


竜太郎りょうたろうはすっかりその気になっている。


「さすがは、私のお祖父じいちゃんね。やっぱり、安倍賢生あべの けんせい|はただ者じゃないわね。」


くみがおどけて言ったのを、アテナがたしなめた。


「こら、くみ。お祖父じいさまは、あなたや私達みんなの事を考えて下さっているのよ、茶化ちゃかさないの!」


言われた当の本人である賢生けんせいが、取りなすように間に入った。


「まあまあ、アテナさん… くみも悪気がある訳じゃないんじゃろうから。なあ、くみや。」


くみは可愛い舌をペロッとのぞかせて、


「もちろんよ、ママ。私はお祖父じいちゃんを、すっごく尊敬してるんだから。ねえ、お祖父じいちゃん。ダ・イ・ス・キよ! チュッ!」


祖父の賢生に投げキッスをした。


「ほっほっほ、お前は憎めん娘じゃのう。」


 賢生けんせいは大笑いをし、アテナは肩をすくめて両てのひらを上に向けるお手上げのポーズをする。竜太郎はくみの方を見て、賢生けんせいとアテナ二人の反応の両方を一度に行なっていた。


やっと、この家族にいつも通りの明るい笑いが戻った。




**************************




『次回予告』

安倍賢生あべの けんせいの裏からの策謀さくぼうで上からの圧力がかかり『作戦ニケ』は中止となる。

自分の現在の力に限界を感じた北条 智ほうじょう さとるたしてニケをあきらめるのか?


次回ニケ 第14話「北条 智… 誤算と新たなる野望」

にご期待下さい。

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