20.突撃

 昼休み終了間近な時間になって、やっとアリサが教室に戻ってきた。

 疲れた表情のアリサは、私の机で話している私とサラには目もくれず、まっすぐに自分の机に向かっていく。


「未結、今だよ! 声、かけなよ!」


 小声で私を小突くサラ。

 ニコニコ笑顔な彼女に、思わず少女漫画のワンシーンのようだな、なんて見当違いなことを考えてしまう。

 実際は、そういう要素はまったくないのだけど。


「いや、アリサすごく疲れた顔してるし、今はいいかな」

「えー、善は急げって言うじゃん」

「でも」


 うーっと、サラがうなり声を上げたかと思えば、素早く彼女は立ち上がった。


「わかった、サラがやる」

「え」

「アリサ!」

「ちょっと!?」


 止める暇さえ与えられず、サラがアリサに駆け寄る。

 残された私は、中途半端に立ち上がって、サラへと手を伸ばしていた。


「なに、サラ。ちょっと疲れたしもう昼休み終わるから後にしてくれない?」

「うんうんあのね、未結が話したいことあるから放課後残ってほしいって!」

「話……?」


 アリサが、私が話したいこと、で思い当たるであろう節なんて一つしかない。

 静かな視線が私に投げられる。

 一瞬そらしかけたけれども、その瞳が戸惑うように揺れていることに気がついて、そらせなくなる。

 だってそらしたらまるで、あなたに私は傷つけられました、と言うような、そんな言葉を態度で投げてしまうように思ったから。


「わかった」


 かすかに強張った表情でアリサがうなずく。

 それと同時にチャイムが鳴った。

 各々席に移動していく音声が鼓膜を揺らしてはじめて、私たちはお互いに視線をそらした。

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