第3話

舞白さんに連れてこられ私はマンションの一室(舞白さんの家)に来ていた。

『楓ちゃん。ちょっと待っててね。鍵出すから』

『あ、はい』

舞白さんがカバンから鍵を探し始める。

(ここオートロックだ……)

その横で私はマンションの設備に興味を向けていた。

玄関へとつながるドアに鍵穴はなくカードで認識されるものだった。

それに外壁や街灯も綺麗な形や模様のものが多い。

流石社長というべきなのか。

ここは完全に高級住宅地なんだろう。

見渡すと同じような造りのマンションが何軒かある。

『あった!』

そう言って舞白さんがカバンの中から取り出したのはどこにでもありそうな持ち手が黒い鍵だった。

明らかに誰が見てもここの鍵でないとわかる。

『ま、舞白さん…その鍵、間違ってませんか……?』

『えっ?あ、ほんとだっ!えーと、じゃあ財布の中に…』

舞白さんは慌てて財布をカバンから出してカード状の鍵を出す。

鍵をドアにかざすとピピっと軽快な音を出し緑色の光が光った。

おそらく間違えたら赤なんだろう。

テレビはそうだった気がする。

『さぁ、入って』

『はい』

舞白さんがドアを押さえつつ中に入れてくれる。

(ここが、高級マンションの一室!)

興奮しているわけではないが胸の高まりは抑えきれない。

まさか自分がこんなところへ来れるとは。

人生何があるか分からない。

でも、一つ気になることがあった。

『舞白さん。少し何か匂いませんか?』

『そ、そんなことないはずだけど……楓ちゃんは敏感ね』

『そう……ですか?』

あまり自分ではそう思わないのだが舞白さんは匂いの正体がわからないのできっとそうなんだろう。

『か、楓ちゃん……す、少し待っててもらえる?すぐ戻るから』

『はぁ……?』

そう言い残して舞白さんは走ってリビングらしき部屋に向かいドタドタ音を立てながら部屋中を走り回っていた。

まるで部屋を急いで片付けているような……。

『きゃぁぁぁ!』

『えっ!?』

ドアの奥で舞白さんの悲鳴が聞こえた。

待っててと言われたがこのまま放っておくわけにもいかないので靴を脱いで舞白さんが向かったリビングに行く。

『いてて……か、楓ちゃん!?来ちゃダメって言ったのに〜!』

『す、すみません。大怪我してないか心配だったので…』

案の定舞白さんは床に転んでいた。

その原因は来たばかりの私でも火を見るよりも明らかで、

『舞白さんって家事で苦手なんですね』

『す、少しよ…』

(こ、これが少し…)

散らばったゴミ、洗濯してあるのかよく分からない衣類、洗われず積み重なった食器。

どれも家事のできていない証拠だった。

仕事ができても家事はあまり得意ではない人がいるのは知っているが、これは不得意というよりもただのめんどくさがり屋という方があっている気がする。

どうやら臭いの元は片付いていないものたちだろう。

『舞白さん。私も手伝うので一緒に片付けましょう』

『うぅ〜楓ちゃん。ありがとう』

舞白さんはさっき落としたのであろうゴミを拾い始める。

私は舞白さんのものらしき衣類を拾っては洗濯機へ入れを繰り返す。

『舞白さんって家事あんまりやらないんですか?』

『そうねぇ。会社に泊まり込みっていうのが多かったからっていうのが多分一番の理由でもあるけど、帰ってきた時も片付ける気にもなれなかったから…』

『そうなんですか。あ、舞白さん。この服破れてるんですけど…』

『ああ、捨てちゃって構わないわよ。そこの服も洗濯はしなくて良いから』

『えっ!?』

舞白さんが指した場所は一番服が山のように積んであって後回しにしていたところだ。

『スーツさえあれば仕事の時は良いし、休日も少ないから。今度の休みにでも買いにいきましょ♪』

『は、はぁ』

流石社長だ。

要らない服は捨てて買いに行けば済むと思ってる!

世の中みんなそうなのかな(偏見)。

・・・掃除を続けて2時間がたった・・・

『楓ちゃん。そろそろ時間も遅くなってきたことだしお風呂に入っちゃって。あと、今日は私のベッドで寝て良いからね。明日楓ちゃんのベッド届くと思うから』

『は、はい!ありがとうございます』

部屋も来た時よりかスッキリしたと思う。

衣類は処分するのは別でまとめたし、食器も全て棚の中だ。

ゴミもゴミ袋全て使ってやっと集まった。

舞白さんとも少し打ち解けたような気がする。

最初は社長ってことで驚いて、その次は生活力のなさに驚いて…。

でも、私のこともちゃんと考えてくれる優しい人だと思う。

『舞白さん』

『何?楓ちゃん』

『ありがとうございました。私のために色々準備してくれて。これからよろしくお願いします』

ペコリと頭を下げてお礼を伝えた後、浴室へ向かった。

誰もいなくなったリビングには舞白桃子の呟きだけが残った。

『ありがとうはこっちの台詞なんだけどな。楓ちゃんって本当にいい子ね』

今日から始まる二人の生活に胸躍るのは一人ではなく二人いるのを忘れないで、と舞白桃子は思っていた。

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次の冬になるその日まで ユリィ・フォニー @339lily

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