第2話
昼下がりの喫茶店にて。
私が向かうとそこにはお父さんとお姉さんがいた。
『楓ちゃーん!こっち』
お姉さんが手を振って呼んでくる。
私は早足で二人の元へ向かう。
『お待たせしました。お父さん会社に行ったんじゃなかったの?』
『ああ。一度仕事をしてからここに来たんだよ。大事な話があると社長に聞いたからね』
『大事な話?』
『そ』
お姉さんがカバンから一つの封筒を取り出した。
『開けてみて』
お父さんが封筒を開け、中に入った資料を見る。
『こ、これは…!』
お父さんの目が丸くなる。
隣に座っているお姉さんが資料を取り、机の上に広げる。
『えーと…これは?』
『海外出張の資料。楓ちゃんのお父さんを行かせようと思って』
『えっ!?』
お父さんが海外出張!?
『お父さん。頑張ってね』
『おい!?俺の意見は!?』
『ないわ』
『ないでしょ』
私とお姉さんの二人が否定する。
『でもまず聞きたいことが。社長、何故私が海外出張なんですか?出張ならもっと適任がいるでしょうに』
『それがいないのよ。理由は三つあるわ。まず一つ。英語が話せる人。これはあなたも理解できるでしょ?そして二つ目。私が信頼できる人であること。そして三つ目。家族と離れても家系を支えられる人』
『ん?どういうことでしょう?』
お姉さんの言葉にお父さんの顔が曇る。
『海雄くん。あなた、楓ちゃんを家に一人にしてるそうじゃない。だから私はあなたが適任だと思ったの!』
『ふざけないでくださいっ!』
お父さんの怒声がカフェの中を響く。
『お、お父さん…』
『あ…すみません社長』
お父さんを座らせる。
『別にいいわ。私も今のは大人としていけなかったわ。それに、そう素直に言ってくれるところも私のお気に入りの意味でもあるしね』
お姉さんが紅茶を一杯飲む。
『それで…何故、あなたはそんなに海外出張を…楓ちゃんと離れるのを嫌がるの?』
『それは…この子の母が死んだ時、私は一緒にいられることができなかったからです』
『・・・続けてもらえる?』
『はい』
お父さんはこう言った。
ある雪の降る冬の日。
その日は私が生まれる日であった。
お父さんは仕事でお母さんの出産予定時刻ギリギリまで会社にいた。
幸いなことに前社長さんがお父さんの仕事をやってくれることになりお父さんは病院へ向かうため駅へ向かった。
だが、駅に向かっても病院行きの電車は時間通りには出発できなかった。
吹雪のせいで視界が悪化し、線路になった雪の撤去が行われていたからだ。
お父さんは神にも縋る思いで病院へ行こうとした。
結果タクシーを使い隣の駅まで行ってみたもののまだ電車は復興していなかった。
お父さんはまたタクシーに乗り病院へ向かった。
お父さんが着いたのは出産が始まると連絡があった3時間後のことだった。
お父さんが着いた時にはお母さんの息の根は止まっていた。
お医者さんが心肺停止のお母さんを必死に蘇生しようとしていた。
その隣でガスマスクをつけ息苦しそうにしている赤ちゃんが私だったという。
結果、お母さんは生き返ることなくこの世を去った。
私だけがお医者さんの手によって生かされた。
お父さんは私を抱いた時、涙が溢れたそうだ。
何故、お母さんが死んだのか。
何故、私が生きているのか。
何故、自分はこんなにも辛い思いをしなければならないのか。
それでも、お父さんは思ってくれた。
何故、私が生きているのかについて。
俺が生きるために楓は生まれてきたと。
『・・・話は終わりです』
『そうか。辛いことを思い出させてしまったようだ…。海外出張の件は無しにしよう。すまなかった。本当に』
お姉さんが資料を持って出ていこうとする。
『待ってくださいっ!』
『ん?』
それを止めたのは意外にもお父さんだった。
『待ってください社長。私は…私、風上は…この件…プロジェクトを成功させようと思います』
『お父さん…!』
『ほ、本当なの…?』
『はい。ですが、一つ条件があります』
『条件?』
お父さんが一度こちらを向いた。
『楓はまだ子供です。一人で生きていくのは困難だと思います。だからといって、外国に連れていく気はありません。そこでどうか…社長の自宅で預かってもらえないでしょか?』
『えっ!?』
ちょっとお父さん何言ってんの!?
私は別にいいけど…お姉さんが困るでしょ!?
『海雄くん。私のところに楓ちゃんを置いても後悔しない?』
『はい。むしろ可愛がってあげてください』
ダメだ。
最近の社会人の考えてることがわかんない(偏見)。
『わかったわ。それじゃあ、楓ちゃん。これからよろしくね』
『は、はぁ…?よろしくお願いします』
こうして私とお姉さん(名前は舞白桃花という)の同棲…じゃなくて!居候生活が幕を開けた。
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