第二二話:再出発
「何度も言うようだけど、黒いモヤについては気を付けてくださいね」
「それはまあ、うん。警戒しておくつもりだから……多分大丈夫」
多分。
正体だって分からないし、発生条件も不明。唯一分かっている事は侵食されると正気を失うと言う事だけだ。とは言え、これについてもまだ確定と言う訳ではないんだけどね。
何せ、事例がまだ二つしかないから判断できないのだ。黒いモヤに何かある可能性は高いが、原因とは言い切れない。その黒いモヤと何らかの要因がくっ付いて暴走した可能性も考えられる。
「ん。ネージュは私が守る」
「あはは、心強いよ」
少し前に僕はフォンセと精霊契約を交わした。
契約をした影響なのか、闇の魔法についてはかなり強くなっていたし、何か消費する魔力も減ったような気がする。そして中で感じるフォンセの気配。契約をしたからフォンセの力や、魔力が僕の中に入ってきているのが分かる。
「フォンセも精霊ですし、もしかすると影響を受ける可能性だってありますので、気を付けてくださいね」
「ん。分かっている」
「ふふ、それなら良いですが。二人とも昨晩はお楽しみでしたね」
「いや、何でそんな変な表現するのさ!?」
「ん。ネージュと魔力を合わせるためにやったに過ぎない」
「ふふふ……そうですか? 二人とも何というか……いえ、何でもありません」
その意味深な笑い方されたら気になるだろうが!
言い訳と言うか弁明したいんだけど、昨日の夜はそんな変な事をしていた訳ではない。フォンセの魔力に慣れるために、手を繋いで魔力を受け取ったり、反対にフォンセが僕の魔力に慣れるために魔力を渡したり、そう言う事を契約した日から毎日やっていた訳だ。
やはり他人の魔力と言うのは、自分の魔力とは微妙に違うので、その魔力が入って来ると違和感と言うか、何て言うのかな? 変な感じがするのだ。
まあ、慣れていないって言う事かな。で、この症状を改善するには互いの魔力に慣れると言う方法しかないのでお互いで魔力のやり取りを続けると良いらしいのだ。
そんな訳で断じて変な事をしたと言う訳ではない。
いやまあ、それは確かに魔力を受け取ると……こう、何かくすぐったいと言うか何というか変な声が出る事はある。僕だけではなくフォンセも同じだ。
「まあ、ともかく……再出発と言う事になりますかね」
「そうなるね」
思ったよりすぐに精霊の森に戻って来たので、外に行ったと言う感じはあまりない。とは言え、外でアリスと出会って、ホキュラの街を案内してもらい、人攫いに遭ったり……今更だけどこれ結構濃い経験しているよね。
「何かあったら転移ですぐに戻って来てくださいね。今回、フォンセとネージュは精霊契約をしているのでネージュもフォンセとほぼ同じ転移が使えるはずですし」
「うーん……転移は使えるけど、僕の場合あまり安定しないんだよね。と言うかティタも知っているよね」
「知っていますよ。なので、折角フォンセと一緒に行動するのですから、色々と教えてもらってくださいって事です。万が一に備えておくのは大事ですよ」
そう言ってにこりと笑い、僕の頭を撫でるティタ。
「撫でて喜ぶほど子供じゃないよ?」
「ふふ。でも嫌じゃないんですよね?」
「……まあね」
相手が誰かにもよるけどティタたちについては撫でられるのは嫌じゃない。暖かいと言うか……何か僕があの時に色々と吐き出した後から、みんな優しくなった気がするんだよね。
もちろん、その前も優しかったけれど、そうではなく、何か……何て言うのかな? 子供見たいな扱いをされるのが増えた気がする。中身25歳の成人なのに……。
「むぅ。私も撫でる」
「フォンセ!?」
何時までも撫で続けるティタを見て不満そうな顔をして乱入して来るのは、すぐ隣に居たフォンセだった。ティタも譲る気は無さそうで、二人に同時に撫でられると言う事態になってしまった。髪が乱れる!?
……。
地球に戻りたい気持ちに変わりはないけど、ティタたちも大切な家族になりつつある。これ、いざ地球に戻る時とか僕はちゃんとお別れできるのだろうか?
もちろん本当の家族は大事だし大切だ。でも、こうしているうちにティタたちにも同じような気持ちが出てきているのも事実。
……。
一方通行ではない、行き来が出来る方法を探すしかないかな? 当然、地球に帰るっていう一方通行しか存在しないのであれば、けじめは付けておきたいけど。
「仲が良いわねえ。ネージュ、髪が面白い事になっているわよ」
「これは二人のせい」
そんな中、アクアがやって来る。髪の事を指摘されてもこれは、僕がやった訳ではないので困る。
「やっほー。ルミエールが来たぞ……って、あははは! ネージュちゃん髪が面白い事になっているよ!」
「あら、騒がしい子も来たようね」
アクアと全く同じ事を言われて笑われてしまう。僕がやった訳じゃないのに、解せぬ……。
「やあやあ、賑やかだね。ボクも混ぜてくれても良いんだよ?」
「お前が混ざったらさらに騒がしくなるだろうが!」
「えー! イグニ酷い!」
「酷いじゃないだろ……よ、ネージュ。騒がしくてすまんな」
「イグニも。うん、慣れているから大丈夫」
「まあそうだろうなあ……」
そう言いつつ苦笑いするイグニ。
何か大精霊が集結していないか? すぐ隣にはフォンセとイグニが居るし、他にもアクアとシルフ、ルミエールも居る。更に言えばティタも居る訳で、この場には精霊は精霊でもトップの精霊が居る状態。中々凄い事じゃないだろうか?
ノームさんは居ないけども。
「結局、ノームはどうだったんだ? あいつ」
「ノームとは一応連絡が取れましたよ。今回の内容についても共有しておきました」
「取り敢えず、ノームも気を付けると言っていたわね。後、ここに来れる目途が立ったから近いうちにに戻ってくるそうよ」
「お、そうなのか。そうなると久し振りに全員集結になるのか?」
「でも、ネージュはまた旅立つ予定だよね? 後、フォンセとも契約したから基本は一緒に行動するし、ここから居なくなっちゃうよね」
「そうなのか? 契約したって事は驚いたが、もう出発するのか?」
そう聞いてくるイグニにどう答えるべきか。
近いうちに出発する予定ではあるのだが……まだ会えていない土の大精霊であるノームさんが戻ってくるみたいだし、待っていた方が良いのかなあ?
「いやいや。フォンセは転移が使えるでしょう。何時でも戻って来れるわよ」
「あ、そうだったな!」
そう言えばそうだった。
僕の転移は安定しないけど、フォンセの転移については流石と言うべきか正確と言うか非常に安定している。そこまでフォンセの転移を経験した訳ではないけど、明らかに僕よりは何百枚も上である。
フォンセと居る時が多かったし、移動する時とかはフォンセの転移にお供させてもらっていた感じだ。転移が凄い便利……あの、地球で言う某国民的アニメのどこ〇もドアみたいな。
僕も早い所、安定して使えるようになりたいな。
余談ではあるけど、フォンセと僕以外にも転移を使える存在も居る。うん、もう普通に察せると思うけどティタである。ティタは精霊王であり、全ての精霊を統べている。そして全属性の魔法が扱える訳だ。
なので、転移なんて普通に使えると言う事だ。
ここで一つ疑問が出る。それは僕がティタと初めて会った時の事だ。
あの時、ティタは東屋のある小島に僕を連れて行く際に、空を飛んで移動していたけど、転移が使えるならそっちの方が良かったんじゃ? と思って聞いてみたのだが……。
『特に意味はありませんよ。強いて言うのであれば、湖を綺麗言ってくれたのでその景色を見せようかと思っただけですかね?』
いや何で疑問形。
と言うか、綺麗って言った時には既に居たのか……まあ、あれは何の嘘でもなく、本音だけどね。何と言うか幻想の世界に入ったようなそんな気分になれた。
「まあ、ノームが来た時は連絡するから、その時に帰ってくると良いわ。ネージュも、ノームと会いたいんでしょう?」
「まあね。シルフとイグニには今回会えたけど……」
これで大精霊の5人とは会えた訳だ。
残るは土の大精霊であるノームさん。どんな人かは分からないけど、話を聞いた感じでは結構マイペースっぽい? いや、それ言ったら大精霊全員がマイペースなんだけど。ティタもね。
残り一人なので、ここまで来たら会いたいなって思うのは普通だと思う。
「ネージュの渡したその杖もノームが作ってくれましたからね」
「え、そうなの?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないんだけど?」
「ティタには良くある事ね」
「だな」
アクアが言うとイグニが同意し、他の三人も頷く。
……ティタって精霊王なんだよね? 何かこう言う反応見ると、少し疑いたくなっちゃう……でも、その力は実際戦ってみて分かっているので、精霊王で間違いないと思うけどね。
何はともあれ……再出発と言う感じになるけど、地球に帰る方法を探しに行かないとね。そう、僕は改めて決意し直すのだった。
【あとがき】
ここまでお読みただきありがとうございました。
第二章はこれにて終わりとなります。
第三章については少々リアルが忙しくなってきているため、執筆は著しくない状況です。
空いた時間の中でも特に限られた時間内で書いているので第三章公開にはかなり時間が空くかも知れません。申し訳ありません。
これからも生暖かい目で見て下さると幸いです。
TS精霊幼女は元の世界に帰りたい ~気付いたら精霊(幼女)として異世界に放り出されてたけど、精霊の力を使いつつ元の世界を目指します~ 月夜るな @GRS790
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