第二〇話:精霊会議の後
「黒いモヤ、か」
地上で精霊たちと戯れながら、精霊会議とやらが終わるのを待っていた所、転移が使えるフォンセとティタが先に戻って来ていた。そこで二人に内容と言うか話した事を簡単に教えてもらっている所だ。
「ん。今の所、手掛かりはほぼない」
「風の精霊も火の精霊も、その黒いモヤにかかっていたんだよね?」
「そうなります。黒いモヤが何なのか……実際この目で見て確かめないと恐らく分からないでしょうね。どうもそのモヤに侵食されると正気を失うと言うか、何か操られたような感覚になるらしいですよ」
「それって、被害に遭った精霊から聞いた事?」
「ですね。風の精霊の方は無事ではありますが、そこそこ弱っているので今回聞いたのは火の精霊の方ですけどね。本来なら二人に聞きたい所ですが無理させる訳にも行きませんし」
「火の精霊は元気だったの?」
「いえ、最初は弱っていましたがイグニのお陰もあって今は元気になっていますよ。それに風の精霊よりも前に解放されましたからね。時間差もあると思います」
「そっか。……後、フォンセ、何か近くない?」
今の所は原因はその黒いモヤとだけしか言えないみたいだ。
でだ。さっきから凄い気になっていたのだが、何かフォンセがかなり近いんだよね。僕の片手の方をしっかり握っているし、何があったし……。別に嫌と言う訳ではないのだが、僕は男なので女の子にこんなくっ付かれる事に耐性がない。
え? 童貞? そうだよ、童貞だよ! 童貞で悪かったな!
……誰に言っているんだろうか。まあでも、あまり女性と関わる事はなかったのは事実だし、何も言えないのだが。初恋すらまだした事ないよ。
「ん。そんな事ないと思う」
「そ、そう?」
うん、離してくれなさそうだ。まあ、無理やり離そうと思えば離せるけど、それはちょっと抵抗があるし……別に嫌な感じはしないので、今はこのままで良いか。
「他の精霊とかは大丈夫そうなの?」
既に二つの属性の精霊が被害に遭っているし、他の精霊とかは大丈夫なのだろうか。水と土、それから闇と光の精霊がちょっと心配だなって。
「今の所はそう言うのは聞いていませんね。ですが……既に火と風の精霊が被害に遭っていますし、他の精霊にも影響を及ぼす可能性は高いですね……」
「だよね」
黒いモヤの正体が分からないとこっちとしても、対処方法とか考えられないよな。しかし、操られていると言う感覚、か……誰かが意図的にモヤを使っているのだろうか? 精霊を操るとか、碌なこと考えて無さそうだよなぁ。
他にも、この黒いモヤは大精霊にも影響があるのかって所も気になる。大精霊が暴走したらかなりやばいのでは……更に言えば精霊王であるティタが被害に遭ったら更に危険……だよね。
いや、ティタたちがそんな簡単に操られるとか正気を失うとは考えられないけどね? それでもやはり、不安は残る。
精霊と言えば、僕だって今は精霊だし僕自身が被害に遭う事だって十分考えられる。
「今回の事については私たちの方で、更に詳しく調べてみます」
「ん。私も自分の精霊が被害に遭わないように守らないと」
黒いモヤには要警戒……と言った感じで会議は一度終わったみたいだ。
でも何時、何処でその黒いモヤが出て来るかとかは分からないし、対応策を考えようにも無理な話だよなあ。取り敢えず、僕も警戒しておかないと。何はどうであれ精霊である以上、僕も例外ではない。
「ネージュも気を付けてくださいね」
「分かった。警戒しておくよ」
仮に僕が黒いモヤにやられたとしたら、どうなるのだろうか? やられるつもりはないけど……ほら、僕って一応全属性使える訳だし、想像がつかないな。ティタ……よりは相当弱いと思うけど。
「それにしても、フォンセったらネージュにべったりよね」
「ですね。ふふ」
何だその含みのあるような笑い方は……。
「ん。ネージュ好き」
「!?」
何を言い出しているんだ!?
それ、友達とかそういう意味で好きって事だよね? それなら嬉しい事ではあるけど。仲が悪いとか嫌われるとか、そう言ったものと比べると良い方である事に間違いはない。
「ふふ。ネージュ、顔赤いですよ」
「え?」
「フォンセも直球ねぇ」
ティタにそんな事を指摘されると、段々と確かに顔が赤くなっていると感じられるようになってくる。
……いや、こんな真顔でド直球で、しかも近い距離で言われたら僕じゃなくても赤くなると思うんだけど? フォンセもどうしたんだろうか、本当に。
「むぅ。鈍感」
「えぇ?」
何故かフォンセに怒られ? てしまった。鈍感って言われても、何の事か分からないのだが……あれ、僕なんか忘れてる? もし忘れていたら確かに僕が悪いし、フォンセが怒るのも無理ない。
でもなあ……思い当たる節がないんだよね。
「こうしないと分からない?」
「ふえ?!」
今何された? 一瞬だけフォンセが物凄い近い位置に来ていた気がする。
そしてこの頬に残る僅かな暖かさ……僕は呆けたまま自分の頬に手を当てて、フォンセの方を見る。若干顔を赤くしながら僕と目を合わせているが、何時も通りのフォンセだ。
「あら、大胆ね」
今、僕は頬にキスされた?
最初はいきなりの事で何があったのか分からず、困惑して思考が停止していたが……段々とさっきフォンセにされた事を理解する。今僕は彼女にキスをされたと言う事だ。唇ではなく頬に、だ。
……それを理解すると、折角落ち着いたのにまた顔が赤くなっていくのが分かる。身体の体温の何か上がっているような気がする。
何故?
フォンセは何で僕にそんな事をしたのだろうか? いやそれは確かにフォンセと居た時間が他の皆よりも多かったのは事実で、僕もフォンセの事は嫌いではない。これはティタやアクアたちにも言える事だ。
「……」
何か色々とごちゃごちゃしてきた。
フォンセの事は嫌いではない……嫌いではないのだ。嫌いではなく好き。好きなのは確かだし、それは他の皆と同じ……ってさっきと同じような事言ってどうするんだよ。
「ネージュ」
「は、はい!?」
真面目な声は聞こえ、これは怒らせてしまったかな? と思ったら変な声が出てしまった。
「夜、ここで待っているから一人で来て欲しい」
「ここ?」
「ん」
今居るこの場所を指してフォンセは僕にそう言う。
ここは湖の中心にある小島であり、ティタに最初連れて来られた場所でもある。そして、アクアやルミエール……そしてフォンセとも出会った場所。
思い出の場所と言っても多分過言じゃないかな? ここでしばらくの間過ごしては、ティタたちに色々と教えてもらっていた訳だ。ティタたちには感謝してもしきれない。
この異世界に僕を連れて来た犯人に対しては怒りがないとは言えない。だけど、怒りと同時にティタたちに出会わせてくれた事についてはありがとう、と言いたい。
それでもやはり、天秤にかけたら怒りの方が強いけどな。まだ元の身体で連れて来られた方が、怒りは少なかったかもしれない。でも、そこで思うのは、仮に元の世界の身体でこの世界に来てた場合、ティタたちは同じように接してくれたのだろうか? という事。
そもそもティタたちとも会えなかったかもしれない。
だってティタは精霊であると言う事に気付いた上で、僕をここに連れて来てくれた訳だしね。元の身体だと人間なので、まず、ティタたちを認識出来なかったかもしれないし、魔法と言う力も使えなかったかもしれない。
話が逸れた。
「分かった。どのくらいに来たら良いかな?」
「ん。夜なら何時でも大丈夫。深夜になればなるほどそれは良し。でも朝はNG」
「あははは。フォンセは闇の大精霊だもんね。分かった。夜にここに来るよ」
「ん」
何処か満足げに笑うフォンセ。
ここで夜に二人で会って何をするのかは分からないけど……行けば分かるよね。僕はこれでも社会人だし、約束については守る。と言うか守るのが普通だしね。
でもなんとなく、分かっている。
さっきまでのフォンセの様子やティタたちの反応。……なるほど、鈍感と言われても仕方がないか。もちろん、これが正しいかは分からないので断言は出来ないが……。
ともかく、夜。夜にフォンセと会えば全て分かるだろう。僕はそう思い、頭を切り替えるのだった。
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