第一九話:無理は禁物
「っ!」
一瞬、足がもたつき、ふらっとする。何とか倒れずに踏みとどまったのだが……何だろうか。ちょっと体が重いと言うか、頭も痛い。目的の場所に向かうにつれてそれらがより顕著に出てくるようになった。
「大丈夫? ネージュ」
「大丈夫……ではないかも。何か目的の場所に近付くにつれて身体が重いと言うか……」
良く分からない。でも、今向かっている場所に近付いているのも確かだ。近付くにつれて悪化と言うか、酷くなっているような感じがする。何だろう?
「ん……なるほど。私の肩掴まって」
「え?」
「今もまだふらふらしてる。危ない」
そう言われてはっとなる。
さっきは何とか踏みとどまったのだが、ただ踏みとどまっただけに過ぎない。歩いている自分の足を見ると、確かにちょっとふらついているかもしれない。
「ネージュちゃん大丈夫?」
その様子を見ていたルミエールが今度は心配そうに近寄って来る。それが起点となり、イグニやアクア、ティタもまた足を止めては僕らの方に来てくれる。
「これは……ティタ」
「はい、恐らくそうだと思います」
「?」
僕の様子を少し観察した後、ティタたちはこの症状について何か知っているのか頷き合う。
「大丈夫よ。別に身体の異常ではないはずよ」
「はい。多分、ネージュの調子が悪いのはこの環境が原因かもしれません」
「環境?」
「はい。この場所は外よりも魔力が濃いんですよね」
「魔力が……濃い?」
「はい。魔力って言うのは二つあるのは知っていますよね。一つは私たちももう知っていると言うか誰もが持つ自身の魔力。もう一つは空気中に存在する魔力です」
「それは一応……」
とは言え、一般的に魔力と呼ばれるのは人それぞれが持つ魔力の方がほとんどだ。空気中の魔力は魔力とは基本は呼ばず、空気の一種って事で地球のように、空気と呼称するらしい。
「空気中の魔力が濃すぎると、一部の人とかには影響を与えてしまいます。ネージュの場合は魔力量も異様に多いですし、大丈夫かと思いましたがちょっと辛そうですね」
「うーん。やっぱり異世界人っていうのも影響しているのかしら? まあ、それはともかくネージュ、辛かったらフォンセに頼んで地上に転移してもらうけれど……」
「そうですね。無理させる訳にも行きませんし」
「まあ、無理は良くないな」
「だね!」
またティタたちに迷惑かけちゃったな。
皆、心配してくれている……本当に。でも、これ以上進むのは結構辛いかもしれない。目的の場所って言うのがかなり濃い場所らしいんだよね。だからそこに向かうにつれて症状が悪化しているのはそう言う事だ。
会議の内容は気になるけど……無理して進んでもまた迷惑かけそうだ。
「今回の会議の内容については後でネージュにも共有するわ。だから無理して進む必要はないわよ」
そう言ってフォンセの肩を掴みながら立っている僕の頭を優しく撫でてくれるアクア。やっぱり、アクアってお母さんっぽいよね? いや、口に出しては言わないけど。
「うん。……ごめん。これ以上進むとどうなるか分からないし、上に戻って待ってるね」
「分かりました。無理は身体に悪いですからね」
「ん。それなら転移させる」
「よろしくお願いします。フォンセ」
「ん」
そんな訳で僕はこれ以上進むのは無理と判断し、地上で待機する事にしたのだった。
◇◇◇
「ふう」
大分身体の調子も戻って来たのを感じ、一息つく。
精霊の森に地下があると言う事には驚いたけど……ただ僕にはちょっと辛い場所だった。いや最初は別に何ともなかったのだが、会議をする場所? そんな目的の場所に近付くにつれて、体調がひどくなったからなあ。
「ティタたちは平気そうだったけど」
まあ、彼女たちは大精霊だし、何度も行っているから慣れているとかだろうか。
それとも、精霊ではあるけどやはり僕は異世界の存在だから、あの環境には適応できないって事なのかな? そこは良く分からないけど……でもまあ、あのまま進んでいたら更に迷惑かけていただろうし。
フォンセの転移によって僕は今、見慣れた湖のある結界内に居る。
転移って言うのはまあ、その名前の通り瞬間移動? が出来る魔法である。これは闇属性に属する魔法で、更に細かくするとその中の空間魔法というものに分類される。
闇と一言で言っても様々な魔法がある訳だしね。姿を消す魔法とか、視界を妨害する魔法とか……そんな闇と言う大きなカテゴリーの中にある小分類と言った感じ。
僕も転移の魔法についてはフォンセに教えてもらったんだけど、全然最初とか全く使えなかったんだよね。恐らく一番苦戦した奴だと思う。転移自体のイメージはしやすいのだが、コントロールとかがちょっと難しいと言った感じ。
転移と言っても一瞬で目的地に飛ぶ、そう言葉で言う分には簡単なのだが、その転移先のどの位置のどの高さに転移するのかとか色々と座標っていえば良いのかな? そう言うのを考える必要がある。
当然行った事ない場所については、そんな位置とか、高さとか分かるはずもないので飛べないというね。まあ、他の人から教えてもらえば行けるっちゃ行けるらしいが。
転移だけをイメージするのではなく、転移先も明確にイメージする必要がある訳だ。それが中々難しいと言った感じ。思った通りに転移できなかったりしたからね。今でもたまに変な位置に転移しちゃう事があるので安定とは言い難い。
因みに転移の魔法はその転移元と転移先の距離も影響してくる。この距離は遠すぎると、その分魔力がごっそりと持っていかれる。近い所とか、目の前とかの短距離ならば大した消費にもならない。
近接戦闘時に避けるために短距離転移するって言うのも一つの戦術だよね。
まあ、そもそも魔法使いとかは近接戦闘なんて普通はしないだろうと思うけど。僕? 僕は……あ、確かに魔法メインなのに近接戦闘をしていたような気がする。
でもほら、予測外のアクシデントとか、そう言うのもあるし、魔法使いでも最低限近接で戦えるようにしておいた方が良いでしょ? そうすれば不測の事態にも対処できる……と思う。
「精霊の暴走、か」
何か嫌な予感がする。でも、それだけで何が起きるかまでは予想できない。
ただ、一つ言えるのは嫌な予感って言うのは、当たりやすいとよく言われている事。実際、僕も一つだけではあるけど嫌な予感が的中した事があった。
それはとある出勤日に出来事だが、何となく嫌な予感がし一つ早い電車に乗ったら、何時も乗っていた電車が脱線事故を起こしたのである。幸い死者はいなかったらしいけど、怪我した人は何人か居たらしい。
果たしてあれは偶然だったのか? それは分からないけど、こういった予感がした時はとりあえず、気に留めておくのが良いと僕は思っている。
「何も起きないと良いんだけど」
ともかく、僕に出来る事はないけど嫌な予感については気に留めつつ……何も起きなければ良いなと思うのだった。
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