第一七話:早過ぎる帰還と本音
「あ、シルフ。お帰り」
「やあ、フォンセ。ただいま」
「あら、シルフも戻ってきたのね」
「まあね。と言うか、ボク
「よぉ! 久しぶりだな、シルフ」
「イグニじゃん……そっちも戻って来たんだ」
「まあな。……それより、そっちのちっこいのはネージュか?」
つい最近出てきたばかりの精霊の森の中にある結界の中に、僕はシルフと一緒に戻って来ていた。フォンセやアクアの声に加えて、聞き覚えのある声が響く。
「あ、どうも。えっとイグニさん」
「おう! と言うか、ネージュ。オレの名前は呼び捨てで良いぞ! と言うか、既に他の大精霊は呼び捨てにしているんだろ?」
「えっと……い、イグニ」
「おうよ! まあなんだ。色々と聞いている。ネージュも大変だな……この前はこっちに来れなくてすまんな。事情は知っていると思うがちょっとばかし、トラブルがあってな」
「あ、うん。それは分かっているよ」
火山での火の精霊の暴走に対応していたのだから仕方がない。
イグニさん……イグニは他の大精霊と比べて頭半分くらい身長が高く、燃え盛るような赤い髪を肩まで伸ばしている女性だ。瞳の色は正に紅蓮と言うべきか。
「改めて、オレの名前はイグニ。火の大精霊だ。よろしくな、ネージュ」
「こちらこそ」
僕とイグニはお互い手を握り握手する。
「ネージュ」
「ん? フォンセじゃないか。久しぶりだな。相変わらずちっこいな!」
「ん。髪が乱れる」
そろりと僕の近くまでやって来ていたフォンセに気付いたイグニは、彼女の頭をわしゃわしゃする。そのせいで、若干フォンセの髪の毛が乱れてしまっていた。
確かにフォンセの身長は僕よりは少し高いけれど、他の大精霊と比べるとかなり小柄である。シルフもフォンセと同じくらいだけど、フォンセよりは若干高いっぽい?
精霊の身長って何で決まるんだろうか? 人間みたいに伸びたりするのかね? でも、何となく伸びないような気がするよね。いや、根拠とかないけどさ。
「そう言えば、ネージュは話を聞いた感じでは外に出て行ったんじゃなかったのか?」
「帰って来てくれたのは嬉しいけど、気になる」
「あーうん。そうなんだけど、ちょっと街でシルフに会ってね」
僕はシルフの方を見ながら、イグニとフォンセに事情を話す。街で人攫いにあった事と、その際にシルフに助けてもらったと言うかサポートしてもらったと言うか……一応助けてもらったで良いかな?
「なるほどな。よし、その人攫いとやらには火の制裁を加えてやろう。何処に居るんだ?」
「ネージュを攫うなんて許せない。一生悪夢を見せてやる」
「って!? 二人とも!? 大丈夫だって。もう解決したから!」
何か凄い怒りのオーラを出し始めたイグニとフォンセを慌てて宥める。そのままにしておいたら、本当にやりに行きそうだったし。と言うかそんな怒るほど?
「異世界とは言え、同じ仲間で精霊だ。助け合うのは当然だろ?」
「ん」
「う、うーん。気持ちは嬉しいけど、もう解決したから大丈夫だよ。今頃は地下牢に入っているはずだから」
主犯格は置いておくとしても、最後に残っていた4人の用心棒については、その場で降参したし別に被害を受けていないしな。でもまさか、最初の街でしかも治安がそこそこ良い場所で人攫いに遭うって……やはり運が悪いのだろうか。
……でも運が悪かったらシルフとは会えてなかったような気がする。なら、不幸体質なのだろうか? うーむ……まあそれは今は置いておこう。
「ん。ネージュが言うなら」
「まあ、そうだな」
そこで二人とも怒りを抑えてくれたみたいで、さっきまで出していたオーラは消え去っていた。でも、そこまで心配と言うか気にしてくれたのはちょっぴり嬉しいかも。
「ふふ」
自然と笑いが出てしまう。
「ん? どうしたんだ? 何か笑っているが」
「いやちょっとね。イグニもフォンセも気にしてくれてありがとう」
「お、おう? 気にすんな」
「ん。気にしないで」
実際イグニと対面するのはこれが初めてだが、良い人……精霊そうだ。アクアが言っていた事を信じてない訳ではないけど、やっぱりほら、異世界っていう異分子の存在だからさ、僕は。だから良く思ってない可能性もあったし、不安だったんだけどね。
「仲が良さそうで何よりね、ふふ。出て行ったばかりな気はするけれど、お帰りなさい、ネージュ。事情は聞こえていたから理解したわ。……人攫いにあったようね? ふふ、ふふ……私が居たら水の中に閉じ込めてやるのに」
「ちょ!? アクアも落ち着いて」
「落ち着いているわよ。ネージュがそう言うんだからこれから私がどうするって事はしないわよ」
アクアまで……でも何か嬉しいかもしれない。
地球が僕の故郷ではあるけれど、ここは第二の故郷と言っても良いかもしれない。まあ、色々と教えてもらったりしながらそこそこ長い間過ごしていたのだから、そう思っても不思議じゃないよね。居心地が良いし。
……でも。
地球には本当の家族が居る。もちろん、アクアたちも家族のように思っている。でもやっぱり僕の居場所と言うのは地球なんだよね。でも……。
「……」
自分の今の姿を見る。
この白くて小さな手に、長い銀色の髪。今は確認できないけど、金色と青色のオッドアイ。僕は地球の僕ではなくなってしまっているのも変わりようがない事実だ。
元の身体に戻れる可能性もゼロではないものの、低いのは僕も分かっている。でもやっぱりゼロではないなら諦めたくはないよね。本当にゼロとなったのであれば潔く認められる……と思うけど。
でも。
例え元の身体に戻れなくても、僕は地球に戻って家族の無事を確認したい。その後はどうするのか? 僕であると言う事を信じて欲しいけど、無理だろうか。
まあ、そもそも仮に地球に戻れたとしてもその方法は一方通行なのかそうではないのか、によっても変わって来るか。
「ぎゅー」
「?! フォンセ?」
あーだこーだ考えていると、誰かに抱きつかれたような感覚に襲われる。慌てて見ると、フォンセが僕の事を後ろから抱きしめるような形でくっ付いていた。
何時も抱いていたクマのぬいぐるみについてはアクアに預けたみたいだ。
「ん。何か辛そうな顔していたから。やっぱり、処す?」
暖かい。
訳も分からず、こんな世界に飛ばされた。普通なら泣き叫んでも可笑しくないけど、僕は一応これでも成人して社会人としても何年か働いていたから冷静で居られたけど……。
「フォンセ……大丈夫。後処さなくて良いからね?」
「そう?」
何処か不満げに返すフォンセに苦笑いする。
「ちょっとね。元の世界の事について考えていただけだよ」
嘘は言っていない。
「ネージュ……」
僕の返した言葉に、今度はアクアも反応する。
んー? 僕そんなに辛そうな顔していたのだろうか……案外自分では分からないものだよね。でも”辛い”か。それはそれで合っているかもしれない。
突然異世界に飛ばされて何の説明もなく、幼女にされて放り出されたんだから。
「ネージュ、泣いている」
「え?」
フォンセの言葉ではっとなり、手を目に当てると、触れた部分が少し濡れていた。あれ? 可笑しいな……泣くほど辛い事なんて考えてないのに。でも涙は止まらない。
「無理するな。そういう時はな、思いっきり泣く方が良いぞ」
ぽんぽんと頭を軽く撫でるように叩いてくるのはイグニ。それによって、流れる涙に拍車がかかる。何とか抑えていたのだが、その抑えは全然意味をなさず、止めようとしても止まらない。
「……」
止まれ、止まれ、止まってくれ……そう心の中で叫んでも効果は無い。
「ん。大丈夫。泣いて良いよ」
今までの中でも、特に優しいフォンセの声に遂に我慢の限界を迎える。そのまま僕はフォンセの方に振り返っては、その胸の中で泣きじゃくり始めたのだった。
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