第一六話:勇者の話の続きと不穏な影


「なんでも、勇者が役目を終えた後、その時のある国の王族が元の場所へ帰したっていう話なんだって」

「元の場所に帰す……」

「そうそう! 勇者が何処から来たのかは分かっていないけど、異界より来たって言われているし別世界の可能性は高いよね! そんな勇者を元の場所、勇者の居た場所……別世界に帰したって事は……」

「世界を渡れる魔法か何かがある?」

「そうなるね。最もこれらは全部伝承だとか言い伝えだとか、そう言った類に入るから何処まで信用できるかは不明ではあるけどね」


 確かにそうだ。

 伝承とかそう言うのは何処まで信じて良いか分からない。昔の人が大げさに書いているだけなのか、誰かが捏造しているのか。その辺は分からないけど、信頼性はあまり高くないよねって話。


 仮にこの伝承が本当なのであれば、それは別の世界に送り返す事が出来る魔法のようなものが存在していると言う事になる。それを使えばもしかすると地球に帰れるかもしれない……が。


「でも伝承だけじゃなあ」


 やはり信憑性に欠けるよな。

 でもまあ……手掛かりになるかは今の所分からないが、新しい情報が手に入った事を喜ぶべきだろうか。と言うより、ティタから話を聞いたって言っていたけど、鍛錬している間も探してくれていたのかな?


「暴風地域で色々とやっていたのは事実だよっ! それに、別にボク自身が動かなくても風の精霊たちにお願いすればあっちこっちで情報を手に入れてくれるし」

「おー。流石は大精霊?」

「ふっふっふ! もっと褒めても良いんだよ?」


 褒めると言うか……でも、情報を集めてくれていた事に変わりはないのでお礼は言わないとな。


「うん。ありがとう、シルフ」

「このくらいどうって事ないさ!」


 さて。

 まずは手掛かり一つ目と言った所だろうか? いやこれが手掛かりになるかはさっきも言ったように現状分からないし、新たな情報を得られたって事で良いか。


「そう言えばシルフはなんでこの街に居たの?」


 ふと気になった事を聞いてみる。

 偶然なのか運が良かったのか、今回の人攫いに巻き込まれた時に丁度、この街にシルフが居たし。突然話しかけられた時は、警戒したけども。


 暴風地域とやらが何処にあるのかは分からないが、そこで鍛錬と言うか何かしていたらしいから、やはりその何かが終わって帰る途中だったのかな?


「んーとね……ティタにはまだ伝えてないんだけど、イグニの居る火山の事は知っているよね?」

「場所までは分からないけど、火山で火の精霊が暴走していたって言うのは聞いているかな」


 イグニさんと言うのは知っての通り、火の大精霊の名前である。

 念話で少しだけ会話した程度なのだが、そのイグニさんが今居る火山で火の精霊が暴走していたのだ。最近の連絡の時に既に暴走自体は沈静化出来たと言っていた。

 ただ、原因が不明な上、突然の事だったらしいので原因究明のため調査を行っているらしい。最近の連絡と言ってもそこそこ前になるけど、今はどうなのかは分からない。


「そうそう、それなんだよ」

「精霊の暴走、暴風……風。……もしかして」

「多分察した通りだと思うよ」


 暴風地域……鍛錬とは言っていたけど、暴風と言えば風。風と言えば風の精霊。そして火の精霊にも起きた事……それらが結びついて考えられるのは、風の精霊の暴走。


「幸いその場所は、海上で誰も近くに居なかったから良かったんだけどね。暴風を起こしていた原因が風の精霊だった訳だ。イグニの所と同じで暴走していたんだよね」

「その風の精霊は……」

「あ、安心して。その子は今はちゃんと正気を取り戻して、保護したから」

「そうなんだ。良かった」


 しかし……なんで鍛錬なんて言ったのだろうか。


「いやね? 本来は鍛錬のつもりだったんだけど、その時に偶然なのか分からないけど暴走した風の精霊を発見してね」

「なるほど、それで……」

「今は何とか落ち着いたし、ティタに報告しようかなって思って戻って来ていた所なんだ。そこで、また偶然なのかネージュを見つけた訳さ。精霊と同じ雰囲気を持っているし、不思議な感じもしたから一発で分かったよ」

「不思議な感じ、ね」


 何とも曖昧である。

 僕から精霊と同じ雰囲気を感じると言うのはまだ分かるけど、不思議な感じって何だ。皆がそう言っているけど、全く分からない。不思議な感じって具体的にどんな感じなのだろうか。


「んー何て言えば良いのかな? こう、この世界とは違う場所に住んでいたような、そんな感じかな? 言葉で表すのは少し難しい」

「確かに異世界人だけどねえ」


 良く分からないが直感的なものだろうか?

 異世界人って言うのは間違ってないし、僕はその異世界、つまり地球に戻ることが第一目標だ。世界が違えば纏う空気とかが違っても可笑しくないし。


「精霊の暴走が2つ。何か不穏だなあ」

「あーそれボクも思っているよ。何が起きているのか分からないね……今まで暴走なんてしてなかったのに」


 火の精霊も同じで、今まで暴走はしていなかったらしい。だけど今回唐突に事件は起きたのだ。そして風の精霊も暴走した……これは偶然だろうか?

 なんとなく……嫌な予感がする。光や闇、水と土の精霊たちは無事なんだろうか? 森を出る際のアクアとフォンセとルミエールは、別に何も起きてなさそうな感じだった気がする。


 土の大精霊のノームさんについては、分からないけどね。因みに土の精霊自体は精霊の森にも居る。まあ、精霊は各地に散らばっているようだから、何処にでも居ると言っても過言ではないようだ。


 実際この街にも、ちらほら精霊のようなものが見えるし。


「他にも共通点があるんだ。火の精霊の暴走の時とね」

「え?」

「暴走していた風の精霊は、何か黒いモヤのようなものがかかっていたんだよね」

「黒いモヤ……あれ、それって」

「そう! 暴走した火の精霊と同じ状態だったって事」


 火の精霊……暴走した精霊には黒いモヤみたいなものに侵食されていた、と聞いた事を思い出す。それと全く同じ状況……。


「関連性がある?」

「ありそうな気はするね。それらを踏まえてこれからティタの所に行くんだけど、ネージュも行く?」

「僕が行った所で何にもならないと思うけど……」

「いやほら、そこは情報共有って事で」

「既に森出てきちゃってるんだけどなあ」


 しかもつい先日である。そんなすぐ戻るってどうなのって思うけど、でも精霊の暴走……僕も今は精霊なので無関係とは言えないよなあ。


 うーむ。




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