第一五話:その後の事とシルフとの密会

※章名変更しました。






「ネージュ! 良かった無事で!」

「あ、アリス」


 色々と他の捕まっていた子と一緒に事情聴取を受け、それが終わったので兵士の詰め所から外に出ると、すぐ近くにアリスが待機しており、僕を見るや否や、駆け寄って来る。


「本当にごめんなさい。私がちゃんと見ていれば良かったのですが」

「いや、アリスは悪くないよ。はぐれた僕が悪い」


 手を繋いておくべきだったなと思うけど、もう後の祭りである。

 それに、アリスは悪くない。あんな中ではぐれた僕が悪いのだし。色々と対策と言うか出来た事はあったはずだしな。それに、あまり良くない言い方ではあるけど、攫われたお陰であの子たちを助けられた訳なんだし。


「でも……」

「はいそこまでっと。……言い方は良くないけど、攫われたお陰であの子たちを助けられた訳だしね」

「それはそうですけど……でも驚きました。強いと言う事は分かってましたけど、あの数を一人で相手するなんて」

「そうかな? そこまで強くなかったけど」


 男たちはどうなったのかと言えば、無事連行され、今は恐らく地下牢に入れられているはずだ。主犯っぽいというか、やはり後ろに控えていたのが主犯格だったみたいで、そいつも無事に捕まった。


 最後に残った用心棒の4人については怒り狂って襲って来るような事はなく、降参した。敵わないと判断したからだそうだ。

 主犯格の男については、その場から逃げようとしたのだが、騒ぎに駆け付けたアリスに取り押さえられたのだ。それからその後ろからもグルとかそういうのではなく、ちゃんとした兵士たちが続けて駆けつけてきたのである。


 それで僕らは軽く事情聴取を受けた。主犯格の男は容疑を否認していたのだが、その配下と言うか用心棒が正直に白状したので、言い逃れはもうできないだろう。

 僕については最初は少々疑いの目で見られてたけど、5人の被害者である女の子たちが全員揃って、証言してあっさり疑いは消え去った。しかも、そのうちの一人がやっぱり貴族の子だったみたいで、その影響もあったかな。


 普通幼女な僕を疑うって言うのはないと思うけど、ハーフエルフだって言う事が一部の人の耳に入っているようでそれもあって、少し疑われていた訳だ。最も、そんな強く疑われていたと言う訳ではないけどね。


「いえ、あの用心棒の男たちは元冒険者でCランクだったみたいです。更にその内ネージュが相手した5人はBランクだったみたいですよ」

「うわお」


 元冒険者とな。

 しかも、CとBって結構高いな……Bについては、アリスの一つ下な訳でしょ。Cランクも一人前と言われるランクで、実力もそれなりに備わっている者が多いらしいし。

 と言うかやっぱり最後に残っていた人は、やはりそんな感じだったか。雰囲気と言うかオーラと言うか何か強そうな感じはしていたんだよね。


「でも4人は降参したしなー」

「それでも、一人は倒したんですよね」

「それは確かにそうだけど、あの人急にキレて斬りかかってきただけだったし」


 とは言え、そんな5人の中の一人は剣を抜いてきて、本気かどうかは分からないけどキレて斬りかかってきた訳なのだが。あれでBランクだったのだろうか? まあ、それは良いか。もう彼らは冒険者ではなく、犯罪者なんだし。


「まあ、何かボスみたいな人? はその前にやめろ! って制止の声を上げていたけどね」


 そんな5人の中でも、更に更に雰囲気が違うと言うかこう、何て言うの? 如何にもボスと言うかリーダーみたいな男で戦い慣れているような感じの……確か、名前はボルスだったかな?

 あの人は、冷静だった。いや、キレて襲ってきた男を除いて、残りの4人のBランクだったと言う元冒険者たちも冷静だったけど。 


「なるほど。……色々と聞きたい事はありますけど、ネージュが無事で良かったです。本当に」

「うん。心配かけてごめん」


 それにしても、まだ出会って一日しか経過してないのに、そこまで心配してくれるのは何でなんだろうか? 少しそこが不思議だなって思う。


 まあでも、心配されて悪い気はしないけどさ。


 今更ではあるけど、そう言えば生き倒れと言う衝撃の出会いを果たした時、アリスは最初、ほんの一瞬だけ僕を驚愕した顔で見ていた気がする。いや、お腹空いて瀕死? な状態だったから正確には見れてないから僕の見間違いかもしれないけど。

 

 何か驚く事でもあったのかな?

 あ、でも、あんな所に僕みたいな幼女が居たらそれは驚くし、普通の反応かな? とは言え妙に引っかかる気がしないでもない。これは完全に僕の直感だけど。


 ……まあ、こんな事考えた所で何だと言う話だ。僕は頭の中で話を切り替え、アリスを見るのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「やあ!」

「うわああ!?」

「ちょ、そんな悲鳴みたいな声出されると傷つくんだけど!」


 人攫いに遭って街案内どころではなくなってしまったものの、それでも残った時間で何とか街を案内してくれたアリスにお礼を言って別れた僕は、街の外へ出て来ていた。理由はもうお察しの通り。

 突然声をかけられたら誰だって驚く……はず。え? 普通は驚くよね? って誰に聞いてんだ僕は。いきなり声をかけられたものだから、思わず悲鳴じみた声を出してしまった。


「いやいや、いきなり出てくる方が悪いでしょ……」

「えー? まあそれはさておき。改めてボクは風の大精霊のシルフだよ」

「えっと、知ってると思うけどネージュ」

「話はティタたちから聞いているよ! 色々と大変だったね。ボクもボクで、ティタたちからの連絡を受けて色々と探していたんだけど今の所は何もないかな」

「やっぱり?」

「まあ、そもそも異世界なんて想像できないしねぇ。ただ、昔に勇者と呼ばれる存在がこの世界にやって来たって言う伝承はあったんだけど」


 シルフもシルフで、ティタの連絡を受けて探してくれていたみたいだ。結構癖の強い大精霊だけど、そこは感謝しないといけないな。

 そんなシルフはティタと同じような緑髪に、緑色の瞳を持つ少女のような見た目だった。当然のように今の僕よりは身長が高い。フォンセと同じくらいかな?


 と言うか勇者? 勇者ってアリスの話でも出て来たよな……いや、アリスの話と言うかアリスが知っている昔の言い伝えのような物なのだが。


「勇者……確か異界より来た勇者だっけ?」

「そうそう! あれ、知ってたの?」

「知ってたと言うかたまたま知る機会があっただけだけどね」


 アリスに異世界を信じるか? みたいな質問をした時に返ってきた答えが、その異界より来た勇者っていう話だった。異界って言うのが何を指しているのかは分からないみたいだけど。


「そうなんだよね。古い言い伝えと言うか伝承だから。そこまで知っているならこれも知っているかな? 勇者は役目を終えた後、元の場所へ帰ったっていう話」

「え? あれ続きあったの?」

「その様子だと知らない感じかな?」


 それは初耳だ。

 アリスから聞いたのは異界から来た勇者が、この世界のピンチを救ったっていう事だけだったし。あの話に続きがあるのか……でもアリスは教えてくれなかったよね?


 いや……続きがある事自体を知らなかった可能性もあるか。ともかく、話を聞こうか。




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