第一四話:人攫いに遭ったようです②
「なっ!?」
「遅いよ。えい」
「ぐあっ!?」
拳に風を纏わせて、一瞬の隙を狙い叩き込む。風の威力も合わさってかなり重い一撃になっているはず。現に男はその場で倒れたし。
襲われていた馬車に遭遇した時と同じ攻撃だけどね。意外とこの手に風を纏わせて殴るって、強いし扱いやすいんだよね。ただ見ての通り完全に近接攻撃なので、近付かないと意味がないんだけど。
『凄いね! そこまで風を扱えるなんて。風の大精霊であるこのシルフでも驚きだよ!』
『まあ、ねっ』
「ぐはっ!?」
迫りくる人攫いとその用心棒? を次々と風で殴り飛ばす。
個人的にも、風は使いやすいと感じていたし、結構な頻度で風属性を使っていたのもあって、大分自在に操れるようになったと思う。他の属性もティタたちのお陰もあって、普通に扱えるし自在に使えるのだが、それでもやはり風がしっくりとくるし、扱いやすいのだ。
もちろん、他の属性を疎かにするつもりはない。折角全属性が使えるのだから、バランスよく使い分けて行きたい所である。
それに単属性特化は強い時は強いが、相性の悪い相手だと苦戦を強いられる可能性が高い。一極化のデメリットだよねこれ。ゲームでも同じ事だ。
まあ、精霊たちはティタを除いて自身の司る属性しか使えないけど……過去に苦戦した時とかあるのかなあ?
「暴風っ」
「「うわあああ!?」」
一旦距離を開け、今度は吹き荒れる暴風をイメージして魔法を発動させる。
すると、僕の周囲にはとてつもなく強い風が吹き荒れる。その強風は一瞬にして近くに居た者たちを吹き飛ばし、落下させると同時に地面に叩きつける。高さや速度とかにもよるけど、かなり痛いはず。
さて、今何をしているのかと言えば人攫いの犯人と、その犯人の用心棒? みたいな奴らと戦っている。何故そうなったのか……。
想定外な事が起きたからだ。
僕と捕まっていた子たちで、一旦建物出て、こっちに向かってきている奴らとは別方面から逃げ出そうかと思ったんだけど、ここで想定外の事が起きたのだ。
「まさか兵士もグルだったとは……」
この周辺を見回りをしにきた兵士に声をかけたのが間違いだった。そいつらもグルで、僕らの事を見た瞬間行動を起こした訳だ。周囲に居た兵士も集まり、足止めされてしまった。その間に、人攫いも到着。
流石に兵士までグルだったとは思わなかった。治安が良いとアリスは言っていたけど、それでもやはり居るんだなあって改めて思ったよ。
「何故、抜けられているんだ!?」
「ちゃんと縛ったはずだぞ」
「縛り付けが弱かったんじゃねえのか。まあいい、取り敢えずとっ捕まえないと」
お決まり? な台詞を言って、男たちは僕らを再び捕まえようと動き出したのだ。そんな訳で今に至る。
因みに僕を狙った理由は、整った容姿をしているからだった。完全に見た目は幼女なので、まあ、狙いやすいと思ったんだろうね。いや、実際気を失ってあそこに入れられていたけど。
特に僕がハーフエルフだからと言う訳ではなさそうだった。と言っても、何度も言うように僕は精霊だけどね。それもかなり特殊な……異世界人で中身は男と言うね。
それはさておき。
「な、何なんだこのガキ!?」
あまりにもあっさりと屈強そうな男たちを倒したり、猛攻を避けたりとかしているからか、さっきまでの余裕そうに、何処か気持ち悪げな表情を見せていた顔は驚愕に染まっている。
残りの人数は5人くらいか。で、後ろの方に控えている男が恐らく主犯かな? そっちもそっちで驚きの顔を見せている様子。
そりゃあそうか。だって、こんな幼女な見た目なのに物ともせずに何人も倒しているのだから。多分、僕が別の人間としてこの光景を見ていたら、同じように驚くな。
「舐めるなあああ!」
「おい馬鹿! やめろ!!」
今までは捕まえようとする動きをしていたが、ついに男の一人が携えていた剣を抜き、僕に斬りかかって来る。これ本気で殺そうとしてきているよね?
と言うか思ったより早いな。やはり、それなりの戦闘経験を積んでいるようだ。
「岩壁」
「!?」
素早く土属性の魔法を発動させる。地面から岩で出来た壁が伸び、男の攻撃を受け止める。岩壁とぶつかった剣は刀身部分がばっきりと折れ、宙をくるくると舞い、そのまま地面に突き刺さった。
「風」
「がはっ!?」
その光景を呆けて見ていた男に容赦なく風の拳を叩き込めば、他の男と同じようにその場に崩れ落ちた。これで残り4人。
「す、凄いですわ……」
何もこの光景を見ているのは犯人とかこの男たちだけではない。後方に控えていた捕まった少女たちも、それを見て驚いた顔をしていた。
特に貴族っぽい子は何か尊敬しているような感じでこっちを見ていた。まあ、他の子も他の子で同じ感じで見ていたんだけど、貴族っぽい子からの視線が何故か熱いんだよね。……気の所為かな?
「こいつ、複数属性持ちか?!」
「風と今のは土か? ちっ……厄介だな」
いえ、本当は六属性全部使えます……とは言わない。
「どうするの? まだやるなら相手するけど」
正直面倒なので、早く終わって欲しい。
後ろの子たちも、本当の兵士さんの所とかに連れて行かないといけないし。そう思いながらもこちらをじっと見て来る男と主犯っぽい男を見る。
「ボルス、やれるか?」
「分からん……正直、このガキの底が分からねえよ」
「まじかよ」
「何なんだあの女は……」
4人の中でも何か一番強そう? な男……ボルスと言うみたいだ。あっちはこそこそ喋っているけど、丸聞こえなんだよね。風の魔法によってね。
『いやあ凄いね。そう言えば全属性使えるんだったっけ?』
『一応、はね』
と言うかまだ居たのか、風の大精霊のシルフさんや。
『アクアたちの事は呼び捨てなんでしょ? ボクの事も同じように呼んで欲しいな!』
『聞こえてた?』
『と言うより、念話だし丸聞こえだよ!』
『あ……』
『まだ居たのかって、ちょっと酷いと思う! ぶーぶー!』
『悪かったって……えっと、シルフ』
『よろしい!』
……。
何だろう? シルフって何か一番癖の強い大精霊なんじゃなかろうか。いやまだノームさんとイグニさんが居るけど、イグニさんについては確かに男っぽい喋りをするから癖が強いと言えば強いか?
ノームさんはまだ会った事すらないので分からないけど、それでも、シルフを超えるとは思えないのだが。
さて、お相手さんはどう動くんだろうね? 面倒なのは避けたいけど、それでもやるなら相手するぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます