第一三話:人攫いに遭ったようです①


「んぐ……」


 目が覚めるとそこは薄暗い部屋の中だった。まだ頭が少しくらくらする……何が起きた?


「んむ……ん」


 言葉にならない呻き声だけが口から出る。どうやら口に何か詰められているようだった。あれ、これもしかして僕早速人攫い被害者になった?


 ……ぎしぎし。


 手とか足を動かそうとしても、どうも縄か何かでしっかり縛られているようで動かせない。ただただ軋む音だけが聞こえるくらいだ。


「……」


 いや、こんな目に合っているのに冷静で居られる自分に驚きを隠せない。よく見たら僕以外にも、何人か居るようで、皆不安そうにこちらを見ていた。

 見た目から察するに10代くらいの少女だろうか? 皆、それなりに可愛いと言うか容姿が整っているように見えるので、そういう類の子を狙ったのは容易に想像つく。


 しかし、一人だけなんかオーラと言うか雰囲気が違う子がいるな……金髪碧眼で着ている服も何処か高級そうに見える。もしかして、貴族……?

 で、やっぱり予想通り、縄で縛られているようだ。他の子も僕と同じようにそんな縄で縛られていて、猿轡もされているようだった。


 はあ……早速、人攫いに合うって僕って運が悪い? いや、運が悪かったらあの場で精霊王とか精霊と会える訳ない……よね? あれもあれでっ結構偶然だったみたいだし。


 しかし、何時やられた? アリスに街の案内をしてもらっていた最中だよね多分。


「……ん」


 あ、思い出したわ。

 大通りに出たら急に人通りが増えて、気付いたらアリスをはぐれたんだった。そんな中、ちょっと僕も油断してしまったのか、口に何か変なのを当てられてそのまま気を失った……はず。


 この世界にもクロロホルム的な何かがあるんだろうか?

 いや、そんな下らない事を考えるのは一旦やめよう。まずはここから出るのが先決……見える範囲ではこの部屋に居るのは僕を除いて5人くらいか?


「……ん!」


 風の刃。

 魔法は問題なく発動し、自分を縛っている縄を切り裂く。魔法を使わせないための対策としての猿轡なのかは分からないが、これだけじゃ不十分だよ。無詠唱で使える人にとっては、ね。


「「んんん!?」」


 僕が魔法を使った事に驚いたのか、僕の方を見る少女たち。よせやい、そんな見られたら照れるだろうが……って何言ってんだよ。


「助けるから静かに、ね」

「(コクコク)」


 なるべく怖がらせないように笑顔を作って僕が言うと、女の子たちは静かに頷く。ただ、何か顔が赤い子も居るのが気になる。熱とかあったら大変だし、早い方が良いな。

 猿轡を外してあげ、彼女たちを縛っている縄も切り裂く。僕がさっき言ったからか、皆、動くようになった体を見ているけど、声は出さないで居てくれる。


「風さんお願い」


 馬車を見かけた時と同じように、風を発生させ辺りへ飛ばす。この部屋の周辺には……今の所は誰も居ないかな?


「聞きたい事があるんだけど……他に捕まってる子とかは居る?」


 5人の女の子たちに僕は質問を投げかける。

 仮に他の場所に居た場合、人質とかにとられると面倒になる。その時は他の子も助けてから行動をするしかない訳で……まあでも、この子たちが知っていれば、だけど。


「えっと、申し訳ありません。分かりません。皆、気を失った状態で連れて来られましたので……」

「いや謝る必要はないよ。まあ、そうだよね」


 僕も同じようにしてここに連れて来られていたようだし。質問に答えてくれたのは、さっきも見た一人だけオーラのようなものが違う子だった。少し汚れてしまっている物の、それでも身なりが良い事は分かる。話し方も丁寧で何処か気品があるし。


 ……やはり貴族か? 貴族にまで手を出すって、攫った犯人は余程自信があるのだろうか? まあ、それはともかく。


「さて、どうするか」


 風だけでは全てを把握する事は流石に出来ない。周囲に気配はないから、近くには誰も居ないと言う事ではあるのだが……。


『やあ、困っているようだね!』

「……誰?」


 どうするかを考えていると、聞き覚えのない女性の声が脳内に響く。……これ念話か。


『……誰?』


 念話だと言う事は分かったので、こちらも念話で返す。念話はされると、電話のように相手に返す事が出来るんだよね。何て言うのか……不思議だよね。相手が分からないのに何となくで返せるって。


『おお! 聞いてはいたけど流石だね。念話はまあ普通に使えるよね』

『聞いてはいた?』


 ……つまり誰かから僕の事を聞いていたと言う事か。うーん?


『異世界人で、精霊になっちゃって、性別まで変わっちゃって大変だって言う事まで聞いているよ!』


 その事を知っているのはティタたちだけのはずだし、つまりこの声の主は……。


『! ……もしかして、大精霊さん?』

『正解! 僕の名前はシルフ! 名前は聞いているよね?』

『風の大精霊……』


 ……風の大精霊シルフ。

 風を司る大精霊で、まだ会えていない三人の大精霊の内の一人だ。まさか、こんな所で会えるとは思わなかったけど……ここに居るって事は、精霊の森に帰る途中とかだったのかな? 


『困っているとと言うか……うーんと』


 ここを抜け出す分には問題はないけど、他にも居たら厄介と言うか面倒になりかねないので、行動をちょっと抑えている所だ。


『まあ、状況は理解しているよ! ネージュ! 今精霊たちにも協力してもらって確認したけど、そこの子だけみたいだよ。後そこは平屋の小屋のような場所で、辺りには人影はない』

『何時の間に……ありがとうございます、シルフさん』

『ふっふっふ! 何たって風の大精霊だからね! 任せてよっ!』


 ……何だろう。聞いていた通り、ちょっと変わっているみたいだ。でも、助けてくれたし良い人……良い精霊なのだろうか。


『まあ、ともかく、今のうちに抜け出すのが良いよ。今入った情報だと、こっちに向かってきている怪しい人たちも数名ほどいるから、多分犯人じゃないかな?』

『数名、か』


 自分を含めて6人。いくら子供で女の子と言っても一人や二人では無理だよね。いや、僕の場合は男だけど! そこは譲れない。


 ともかく、面倒な奴らが戻って来るそうなのでここを抜け出す事にするのだった。




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