第一ニ話:アリスの街案内


「それじゃあ、行きますか」

「よろしく」


 翌日の事。

 アリスに言われるまま、僕は街の案内をされる事になった。まあ、長く居ないつもりではあるもののホキュラの街を見て回りたいと言う気持ちはあったので、この際案内してもらおうかなと言った感じだ。

 それに、アリスもアリスでお礼のつもりらしいしね。別にあの時の質問に答えてくれるだけで良かったのに、あれだけでは納得行かない様子だった。


「まずはここですね」


 少し歩いた所で足を止めるアリス。

 アリスの向いている方を見ると、そこにはそこそこ大きな門が一つ設置されている。左右は城壁になっており、城壁の上にも乗れるようになっているようだ。現に上には何人かの兵士が見えるし。

 門の周辺にも同じような格好をした人たちが少なくとも10人以上は居るように見える。詰め所……で合っているかは分からないが、中で何かをしている人や、周囲を警戒している人、街を出入りしている人たちの対応をしている人等、様々。


「もう知っていると思うけど、ネージュと私が入ってきた場所はここですね」

「それはまあ」


 後は身分証がない私が街に入るために、一時的な滞在証明書を発行してもらった場所でもある。あの時対応してくれた兵士とかは居るのかな? まあ、異動でもない限りは普通は居るよね。


「ここは西門です」

「西門?」

「はい。ホキュラの街は見ての通り城壁で囲まれています。門が1ヶ所だけって言うのも不便ですし、ここには東西南北の合計四つの門が設置されています」

「四つ……」

「北門、南門、東門、西門と言うように呼ばれていますね。ここは西門ですので、反対側は東門です」

「なるほど」


 改めて説明すると、このホキュラの街はアリスも言っていると思うけど周囲が城壁で囲われていて、門以外の場所から出るのは難しい。その反対も然りだ。

 そこそこ高いしね……ただまあ、空を飛べる魔法とかがあったら余裕で越えられちゃうけど、一応24時間体制で兵士たちが見回りしているので、そんな事をすれば兵士が動くと思う。


 でだ。

 四方八方が壁になっているので、出られる場所と言うのが門だけ。1ヶ所だけでは、反対の方角とか別の方角に行きたい人とかにとっては、ぐるっと回るしかないので不便であると言う事で、門が四つ設置されているそうだ。

 因みに一番出入りの多い門は北門だそうだ。まあ、北門は完全に国境側なので、そりゃ、結構来るよなって話。


 その次に多いのが西門。つまり今居るこの門である。

 理由は簡単で、精霊の森側に出られる門だからだ。森に行って帰ってきたりと、出入りが激しく、そのほとんどがこの街に居る冒険者だとか、流れてきた冒険者だとかで、要するに冒険者の利用が非常に多いとの事。


「北門には負けますけど、結構な数の人たちが出入りしてますよ。ほとんどが冒険者ですけどね」

「やっぱり精霊の森?」

「ですね」


 精霊の森、人気だな……。

 正直な所、そんな冒険者たちとティタたちが巡り合ったらどうなってしまうのか、そこは不安である。魔物と思われて攻撃してしまうのか……。


 ティタが負けるとは思えないけどね。

 それに、霊体化されたら冒険者側に勝ち目はなくなるし。あの状態はデメリットも大きいけど、それ相応かそれ以上のメリットもあるからな。


 まず、あらゆるものをすり抜けるって言うのはもうチートだよね。あれ、霊体化した精霊だけではなく、別の誰から触れようとしてもすり抜ける訳だからね。

 とは言ってもそもそも、霊体化したら精霊以外には見えなくなるので触るも何もないのだが。


「次に行きましょうか」

「了解」


 しばらく門を見た後、再びアリスに案内されるまま街の中を歩いて行く。所々に階段があったり、家と家でロープのようなものを繋げて、そこに衣類をぶら下げている光景も見える。洗濯物を乾かしているのかな?

 街の中にある道路と言うか道は大体がしっかりと整備されているようで、ぼこぼこ道のような感じにはなっていない。


 ベランダのような所から下を見ている人も居るし、家の中から出る人も居れば入る人も見られ、生活感がある。異世界でも、やっぱり暮らしとかは変わらないんだなと思う。


「念の為、言っておきます」

「?」


 歩きながら言ってくるアリスに僕は首を傾げる。


「ホキュラの街は治安は良い方なのは間違いないのですが、それでも危ない場所は幾つか存在します。兵士たちが夜も一応見回りをしてくれていますが、それでもやっぱり届かない所は届きませんからね」

「危ない場所、ね。例えばあそことか?」


 そう言って建物と建物の間にある小さな薄暗い道を見る。裏路地みたいな? いやまあ、分からないけど……如何にも場所な気がするよねあれ。


「この辺は居住区なので、兵士の目も厳しくなっているので大丈夫だと思いますが、あのような感じの道の先とかは危ない場所だったりとかありますね。ああ言う場所は要注意です」

「そっかー」


 確かに今も、兵士たちが見回りをしているのか辺りを警戒しながら回っている様子が伺える。これ、門番以外の兵士は何人居るのだろうか? この街も広そうに見えるし、かなりの数が居そうだなあ。


 流石に数千は居ないか? 分からないけど。


「まあ、ネージュは強いのは分かりますので、大丈夫だとは思いますが……念の為です。それに、昨日も言ったようにハーフエルフはかなり珍しいので、下手すると人攫いとかに狙われる可能背もありますので注意してください」

「人攫い、か」


 ……。

 人攫いと言う被害は、結構色んな街で起きているようで大体の対象が10代の少女で、時々少年。正直、ロリコンかよと思うくらい年齢層の低い女の子が狙われやすいみたいだ。


 このホキュラの街でも数は少ないけど、何件か起きてしまっているそうだ。ただ現状分かっている範囲では、被害のあった子供たちは親の元に戻れているようだ。何でも、領主がその辺りに力を入れているみたいで。


 しかしながら、それでも戻れてない人や行方不明の子も少ないながらも居るみたい。


 日本ではあまり考えられないな。まあ、行方不明とか誘拐と言った事件なら、何件か発生してしまっているけどね……。


 やはりここは異世界。そして地球よりも命が軽い世界。様々な悪意や魔物と言った敵対謎生命体が存在する世界。油断は……出来ないな。




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