第一一話:アリスのお礼
「まずは改めて、助けてくれてありがとうございます」
アリスが取っている宿の部屋に通された僕は、まず開口一番に頭を下げてお礼をされる。別に気にしなくて良いのに、とは思うけど、ここは素直にお礼を受け取っておく。それが礼儀っていうものだ。
ただ、魔物にやられてピンチとかならともかく空腹でピンチというのは予想外ではあったけど。
「何かお礼をしたいのですが……うーん」
「別にいらないよ」
「いえ、そういう訳には行きませんよ」
お礼が欲しくて助けた訳でもないし……本当に気にしてないのだが、アリスを見た感じだと変えるつもりはなさそうだな。
「これでも私はAランクなので余裕がありますし。そうですね……何か欲しい物とかありますか? 素材でも何でも良いですが」
そう聞いて来るアリス。
欲しい物と言っても、今の所何もないんだよなあ。お金は今の所はあるし、それを選ぶのは何か嫌だよね。他にも食料とかだって、ぶっちゃけ僕は精霊だから、取らなくても別に生きていける。
ただ知っての通り、精霊になっているけど元の僕は人間なので、味わいたいとかそういう欲求はちゃんとあるので、適度に食べるつもりではある。
もし、精霊に味覚も何もなかったら……ちょっと辛かったかもしれないが。いや、ちょっと所ではないかもしれないな。
「特にないんだけどなあ」
「そうなんですか? それだと困っちゃいますね」
と言われても。
今一番欲しいのは、やはり地球に戻る方法ではあるけど、いきなり地球に戻る方法を知ってるかなんて聞けないし……そもそも、地球って何処だよって話になる。
ただ、僕が森を出てきた理由というのは自分でも情報とかを集めたいという事と、この世界について実際この目で見て、知りたいというのもある。
ティタたちも居るし、あそこは本当に居心地が良かった。何時でも帰ってきて良いって言われたのは、少し嬉しかったな。地球に帰りたい気持ちは変わらないけど、この世界での僕の居場所と言うか家というか……そんな感じ。
「うーん……あ、それなら。……アリスは、異世界っていう存在を信じる?」
「え……?」
僕の突然の質問にアリスは、呆けた顔をする。うん……分かるよ。誰だっていきなりこんな突拍子もないと言うか、異世界なんて言われたらそんな顔になる。僕も多分なる。
「すみません。ちょっと驚きました。……それにしても、異世界ですか」
「いきなり変なこと聞いてごめん。ちょっと気になってね」
地球とは言わず、異世界と言えば良いかなと思って聞いてみたのだが。
うん、自分でも変な事を聞いているとは思っている。この世界の人からしたら普通はこの世界の事しか知らないはずだろうし。ただまあ……異世界の存在を信じている人とかも居るかもしれないけど。
「質問の意図は分かりませんが……こことは異なる世界があるという事を信じているか、ですよね? 私はあると思ってますよ」
「それは何故?」
「魔物の存在ですかね。……魔物は未だに謎が多い敵対生命体ですし、あれこそ別の世界から来た生命体だと思っています。だって、かなり昔から居るとされているのに未だに分かってない事が多いって、何か変じゃないですか?」
「それは確かに」
ティタたちからも聞いているけど、魔物は相当昔から存在している。本当に何時から居るのか、それは精霊でも分からないと言っていた。
もしかすると、一番初めの精霊たちなら知っているかもしれないけど、精霊だって命が無限にある訳ではない。今の大精霊や精霊王だって、数え切れない程の代を重ねてきた子孫である。
記憶を引き継ぐという事もないため、昔の事は今の精霊たちでは分からない。ティタたちが嘘をついている可能性も確かに考えられなくはない。
でも実際、皆と一緒に過ごしていた僕からすると、ティタたちが嘘をついているようには見えない。本当に知らない感じだったしね。
「まあ、これはあくまで私はそう思っているだけですけどね。もしかしたら魔物は元からこの世界に居たかもしれませんし……色々とありますが、私としては異世界はあると思っていますよ」
「なるほど」
何時から居たのかが分からない魔物。
確かに、異世界の生命体であれば、謎が多いのも納得出来る。まあ、なんで動物とか虫のような見た目なのかは、分からないけど。
「後はそうですね……あ、これは本当に古い情報と言うか、神話とかそういった類のものになるのですが、その昔この世界がピンチになった時、勇者と呼ばれる存在が異界よりやって来たっていう言い伝えがありますね。その異界っていうのが、もしかすると異世界かもしれないと言われてたりします。本当の所は分からないですけどね」
「勇者……」
そう言えば最初、この世界に来た時というかアクアに会った時……いや、正確にはティタたちに僕が異世界から来たって事を打ち明けた時に、言い伝えとかでは聞いた事あるって言っていた気がする。
今更だけど、その言い伝えについては聞いてなかったな……今アリスが言った事って、もしかしてそれの事なのだろうか?
「はい。勇者と呼ばれる存在は、並外れた力を持っていたようで、その力で魔物を退けたとされていますね」
「へぇ……」
勇者ね。
そういう存在も居るのね……いや、アリスが言うにはこれは言い伝えとかそういった類のものだから、本当なのかどうかは分からないらしいけど。
でも、異界から来られし勇者、か。
一応、覚えておこうか……異界っていうのが何処なのかは分からなけど、文字だけ見ればここではない世界。言い伝えとは言え、それが本当ならもしかしたら地球にも帰れるのではないか?
……とは言え、現実はそう甘くは無さそうだけどね。
「それにしても、いきなりの質問だったので驚きましたね。それを聞いたって事は、ネージュも異世界を信じている感じでしょうか?」
「まあ、ね」
と言うより、異世界人です……とは言えない。
「答えてくれてありがとう、アリス。変な事聞いてごめん」
「いえいえ」
別に気にしてないといった表情でそう返してくるアリス。
「それだけですか? もっと色々聞いてくれも良いんですよ?」
「うーん」
そうは言われても、聞きたい事は聞けたし、後は何を聞けって話だ。ティタたちに色々と教えてもらっていた訳なので、特に困るようなことは今の所ないしな。
「ないかなあ。答えてくれただけでも嬉しかったし。それでチャラってことで」
「ええ!? あの程度だけでは、気が収まりませんよ」
「いやそう言われも……」
「あ、そうだ! それならこの街を案内するのはどうでしょうか」
「ホキュラの街を?」
「はい。ここに居て長いですし、案内くらいは出来ます。と言うより、それくらいはさせて欲しいです」
うーむ。
確かにこの街に来たのは初めてなので、分からない所とか多いけど……いや、でも、この街に図書館みたいなのがあるかもしれないし、案内してもらおうかな?
まあ、図書館的なのが無かったらその時はその時という事で。
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