第一〇話:木漏れ日の家
「ふむ」
そう言えば、少し忘れかけていたが、アリスさんに会う前に助けたあの馬車、どうなったんだろうか。あの場所的に、目的地はこのホキュラの街の可能性があるよね。
仮にそうだとすると、僕の事を覚えている人が居たらすぐバレそうなのだが。
いやまあ、遭遇したのは今日だし、忘れる方が難しいか……冒険者登録は終えたし、一足先にこの街から出て行くべきか。
ただ僕の目的と言うのは、地球に帰る方法又は行き来が出来る方法を探す事だ。そんな方法が本当に存在するかは分からないが、存在しないと言う根拠もない。だから、少しの望みに賭けたい所だ。
一番の理想は元の身体に戻り、地球に帰る事。ただ、こちらもこちらで戻れるのかは分からない。地球に帰る方法と同様で、反対に戻れないと言う根拠もない訳だ。なのでこっちもこっちで、まだ信じておきたいかな。
「この街に、何かあるかなあ」
「どうかしましたか?」
「! アリスさん……何時の間に」
「ついさっきですよ。話も終わったので。それにまだ、ネージュにお礼を出来ていませんしね」
「別に良いのに」
「そういう訳にはいきません。……それで、少し気になったのですが」
「?」
「どうして、さん付けなのですか? ネージュの方が年上ですし、私だけ呼び捨てと言うのは不平等です」
「うーん……」
「私の事もどうかアリスって呼び捨てにしてください」
いやだから呼び捨てってあまり慣れないんだって……と言う訳にも行かず。ティタたちの方は何とか慣れたから良いけど……でも、うーむ。
「駄目ですか?」
「うっ」
そんな目で見ないでくれ。
「あ、アリス」
「はい」
何処か嬉しそうに反応するアリスさ……アリス。これはまた、慣れるしかないなあ……。
「所で、依頼とかは受けなくて良かったんですか?」
「今は良いかなって」
まあ、いずれこのお金もなくなるだろうし、その時の事も考えて依頼を少しする気はある。でも正直、魔物倒して素材売った方が僕としては楽なのだが。
依頼を長い間受けずに居ると、ペナルティのようなものもあるみたいだし、面倒だなあ。あ、でも、ランクダウンって言っても、一番下のランクだとどうなるんだろうか? それは聞くの忘れた。
「そうですか? それなら行きますか」
「アリスさ……アリスが取っている宿だっけ?」
「そうですよ。冒険者にも家がある人は居ると思いますが、そこまで多くないです。実家とかならあるでしょうけどね。まあ、冒険者と言うのは基本あっちこっち回るので、宿を利用する人が多いですね」
だろうねえ。
依頼によっては時間がかかるのもあるだろうし、当日中に終わると言うのは簡単なものくらいだろう。遠出した場合は、その場所に一番近い村やら街などに寄って普通は宿を取るだろうしね。
「ここは精霊の森とかが近いですし、活気も良いですので、この街に家を建ててる人は居ると思いますけどね」
このホキュラの街は、少し前にも言ったと思うけど国境沿いに位置するため、他国の冒険者とか旅人とかがやって来る事が多い。
そのため、そう言った人たちを含めた街の総人口はかなりのものになる。人が多ければ、活気も良くなるし、他国からの文化が入ってきたりなど、良い事は多い。
もちろん、反対のパターンもあるらしいが。
海沿いではないけど、それでも市場とかはそれなりに賑やかだそうだ。で、アリスも言っているが精霊の森が近くにあるからと言うのもそれに拍車をかけているみたいだ。
精霊の森は謎が多い。そして貴重なものとかが取れたり、珍しい魔物と遭遇したりなど様々で、更に段階的に魔物が強くなっていくと言う、不思議な場所で、戦闘の訓練とかにも使われるそうだ。
……まあ、そんな精霊の森で精霊たちと一緒に過ごしていたのが僕なのだが。
「っと着きましたね」
「ここ?」
「そうですよ。この街の中でも人気のある宿で、木漏れ日の家と言う場所ですね」
「へぇ」
アリスと色々と話している間に、僕たちは目的の宿へとたどり着く。まず、普通に見ても結構大きい感じで、建物も二階建てかな? 冒険者組合と良い勝負をしていると思う。
冒険者組合の建物もかなり大きかったし、それに並ぶくらいなのではないだろうか。いや、実際測ったりした訳じゃないから分からないけど。
何処か落ち着くような色合いの看板には『木漏れ日の家』と、さっきアリスの言った名前が書かれている。で、そこそこ出入りしている人が見えるかな。
「いらっしゃ……アリスさんじゃないですか! 今帰って来たんですか?」
「ついさっきと言った所でしょうか」
中に入るとこちらに真っ先に気付くのは、カウンターの所に立っている見た目15歳くらいの、栗色の髪をした女の子だった。
「そうなんですね。あ、これアリスさんの部屋の鍵になります」
「ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですからね。……所で、今回は珍しい方が居りますね?」
カウンター越しに僕の存在に気付いたのか、アリスの身体の脇からこちらを覗き込んでくる。
「何処かアリスさんの面影があるような……は! もしかして、アリスさんのお子……」
「いや違いますって!」
「えーそうなんですか?」
「えーって何ですか……はぁ」
うわー何かデジャヴの感じるやり取りだ。
ルアさんも言ってたけど、今の僕ってそんな、アリスの面影があるのかな? そこが凄く疑問なんだけど。髪色がまず違うし、目だって左と右で異なる色のオッドアイだよ?
凄い今更だけど、オッドアイって何か厨二感あるよなあ……。色も何かあれだし……金色に青って。いやまだ青なだけマシなのか? 赤とかだったら厨二感が増すし。
どうせなら、緑とかが良かったような気がしないでもない。
「ちょっと助けてもらいましたので、そのお礼にと言う感じですね」
「助けてもらった……アリスさんがですか?」
「そうなりますね。お恥ずかしながら……」
「ほぇー……」
アリスがそう説明すると、その子はまた僕を見てくる。興味深そうな、興味津々のような……まあ、そんな感じの表情である。
助けたと言っても、空腹で倒れていたアリスにレッドウルフの肉をあげただけなのだが。
「まあ、そんな訳で、お礼をしたいので部屋に来てもらおうと思ってます」
「なるほど!」
……。
まあ、そんなこんなで僕はアリスに連れて行かれるままに、奥の方へと入っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます