第〇八話:冒険者登録①


「そう言えば敢えて、聞かなかったのですが」

「?」


 冒険者組合にて、登録を行うためにカウンターの前に行くと、アリスさんが何かを言いたそうに、僕を見た。何だろうか? 精霊って言うのがバレた? ……まさかね。


「その頭に乗っている物って、ティアラですよね? しかもかなり良い素材が使われているように見えます」

「あーこれ」


 そっちか。

 僕自身もこんなティアラを頭に乗せているのに誰も何も聞いてこなかったから、不思議には思っていた。間違いなく、僕が見たら疑問に思うし。

 頭に乗っている金色のティアラを手に取り、目の前に持ってくる。汚れ一つなく、ぴかぴかで綺麗な金色のアクセサリというかティアラだ。別に特別な形をしている訳でもなく、写真とかで見るようなティアラ。


 これは僕がこの世界に来た時からずっと持っている物だ。重力の概念を無視していて、いくら激しく動いても頭を振っても、全く落ちないという謎仕様。

 自分で取ろうとすれば、あっさりとこんな感じに取れるのだが、他人には取れない。僕が取って、その辺に置いたりしても少し離れると勝手に頭の上に戻って来るし、置いた物を他人が取ろうとしても戻って来る。

 これはティタたちに協力してもらって、確認済みである。このティアラが何なのか……それは分からないけど、僕以外には絶対に持てないような感じになっているっぽい。


 なんなんだろうね、これ。


 で、話が逸れたが、アリスさんはやっぱりこれについて気になっていたようだ。普通は誰も気になるよね……でもまあ、冒険者には暗黙のルールがあるから気になっていても聞かなかっただけかもしれない。


「詮索するのはご法度なのですが……もしかして、何処かの国の王族とかだったりしますか?」

「いや、それはない」

「え」


 即答した僕に対して、呆気にとられるアリスさん。

 確かに精霊王とか大精霊と一緒に居たけど、この世界に国の王族としてなんて、生を受けていない。そもそも、僕地球から気付いたらこの世界に来ていたんだからさ……。しかも森の中って言う。


「これはただのアクセサリ。ただ誰からもらったかは覚えてないけど」


 それらしい事を言って誤魔化しておく。

 本当は、この世界に来て、最初からずっと持っていたと言うか、頭に乗せていた物だけど、別世界の人って言うのは精霊と同じように隠しておきたいので、率直には言えない。


 仮に言った所で信じるかどうかは、アリスさん次第ではあるけどね。ややこしくなるのも嫌なので、適当に誤魔化しておく。僕自身もこのティアラについては分かってないし。


「そうなんですね……何かごめんなさい」

「何でアリスさんが謝るの?」

「いえ、詮索してはいけないって言うのもありますし、そのティアラを見ている時のネージュの表情が何処か寂しそうに見えたので……」

「え? そんな顔してた?」

「ちょっとだけ、ですけどね」


 まじか。

 別に寂しい事を考えていた訳じゃないのだが……それに、でっちあげの誤魔化すための理由だよ、これ。でもまあ、確かにティアラ云々は置いておき、地球に残してきた家族は気になっているけど。もしかして、無意識のうちに家族の事を考えていたか?


 ……あり得なくはないな。


「あのお二人さん、私の存在忘れてない?」

「あ」

「あって……ちょっとアリスさん、酷くないです?」


 そう言えばカウンターの前だったね、ここ。そしたら普通に、受付も居るはずだし完全に忘れていた。確かルアさんだっけ? アリスさんと結構仲が良さ気だったけど。


「ご、ごめんなさい。完全に忘れていました」

「それ余計傷つくんだけど……はあ、まあいいや。話し終わったのなら、冒険者登録しよっか」

「そ、そうですね」


 何処か呆れたような物言いをするルアさん。


「と言っても、登録なんて簡単に終わるけどね。えっと……ネージュさん? だっけ。この紙に必須項目だけでも良いので、記入お願いします。あ……文字は書けますか? 書けない場合は代行致しますが」


 受付嬢モードと言えばいいのかな? アリスさんと話していた時とは雰囲気がうって変わる。流石はプロと言うべきか……僕はその紙を受け取る。


「大丈夫です」


 文字については、どう言う訳か普通に読み書き出来ていたからね。とは言っても、もし分からなかった時とかはティタたちに聞いていたかもしれないが。


 受け取った紙を見ると、項目ごとに記入する欄がいくつかある感じだった。必須と赤字で書かれた場所は、ほんの数カ所くらい。


「名前……年齢、性別、種族」


 その辺りは必須項目と言った感じになっている。

 他には必須ではないけど、戦闘スタイルとか主に使用する魔法の属性や、メインで使っている武器等、そう言った細かな事も書けるようになっているようだった。


 名前はネージュ、年齢は地球の年齢をそのまま持ってきて25歳として、性別は……男と書きたかったが、今の姿で男って書いたら変に思われるだろうし、ここは不本意ながら今の性別を選んでおく。

 種族はどうするか……いや、もう一択しかないんだけどね。既に認知されてしまっているので、今更別の種族を書いても意味はない。なので、ハーフエルフと書いておく。


 ……本当は精霊だけど。更に言うとこの世界の住人じゃないけど。


 必須項目は一通り書き終えたが、魔法についてはどうするか……でも全属性を使えるからそれを書くのもなあ。また目立つとか嫌だし。

 もちろん、危険な時とか使わねばならない時とかは躊躇なく使用するつもりだ。手遅れになるのは嫌だからね……通常時とかは下手な事はしたくない。


 ふむ。

 必須項目ではないし、未記入で良いかな。ただ戦闘スタイルについては、魔法メインとだけは書いておく。


「はい」

「ありがとうございます。少々お待ちください」


 すっかり受付嬢モードなルアさん。さっきのアリスさんとのやり取りを見ていたから、微妙に違和感があるけど、それは仕方がないか。


「何というかあれだけ良いの?」

「冒険者登録は本当に簡単ですからね。特別な事はしませんし、さっきも言いましたが色々な人が居ますからね」

「ふーん」


 聞いていたから分かるけど。

 何か、凄いあっさり終わったような気がする。正確にはまだ終わってないけど、紙を確認していたものの、特に指摘もなかったし、そのまま裏に行っちゃったから。


 まあ、良いや。取り敢えず、ルアさんが戻って来るのを待つとするか。




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