第〇六話:冒険者組合①


「ここですここ」

「ここ?」


 アリスさんの後をついて行き、しばらく進んだ所で足を止める。

 目の前にあるのは、周りの家と同じで煉瓦のようなものを元に作られた二階建てに、結構大きな建物だった。入り口を思しき所は、木で出来た二つドアになっている。

 ただドアの真ん中には鉄? で出来た棒みたいなものがくっ付いていると言うか、嵌め込まれている感じ? うーん、何て言えば良いのかな?


 そんなドアは、片方だけが開いている状態で、何人かの人々が出入りしているのが見える。片方だけでも、二人くらいは入れそうな広さがある。


「冒険者組合……ホキュラ支部?」

「その通りです。このホキュラにある冒険者組合の建物ですよ」


 これが……。

 と言うか、何で冒険者組合? 確かに冒険者登録をすれば身分証になる、冒険者証明書がもらえるらしいけど。もしかして、僕のを作ろうと言う事?


 んー確かに、この世界で稼ぐ方法も考える必要があるけどさ。ティタからもらったお金だって、当然無限ではないから使えばなくなるし、自分で稼ぐ方法は必要だけど。

 でもさ。認めたくはないけど、こんな幼女の姿だし、突っぱねられたりしないだろうか? ハーフエルフって事を言えば、問題ないのかな。


 でもかなりレアと言うか、珍しいと言うか……絶対目立つよね。アリスさんが何とかしてくれるのなら良いけど、そこの所どうするんだろうか。それとも、特に年齢制限とかは無いのかな。


「ようこそ、冒険者組合へ! って、アリスさんじゃないですか。戻って来たんですか?」


 そのまま冒険者組合の建物の中に入ると、僕らに気付いた職員なのかな? そんな女性が声をかけて来る。そして、アリスさんを見ると、知り合いなのか、結構砕けた感じになった。


 アリスさんはAランク冒険者だし、顔は広いのかもしれない。


「こんにちは、ルアさん。まあ、そんな所ですよ。別に急ぎの依頼でもなければ期限もないですからね、これ」

「まあ、それはそうですよね。何せあの精霊の森の調査ですもんね。所で、そちらの可愛らしい女の子はどちら様で? は! まさか、アリスさんのお子さん!?」


 ざわわっ!


 ルアさんと言う女性の人が、そう言うと会話が聞こえた他の人たちが何かざわめきだす。いや何!? と言うか、アリスさんの子供じゃないからね!?


「ち、違いますよ! 私まだ16歳! 子供なんて居ませんって」

「ですが、何処かアリスさんの面影があるように見えますが……」

「それは私も思いましたが、子供じゃないですよ」

「そうなの? てっきり、ついにアリスさんが好きな人とくっついたのかと」

「仮にくっついたとしても、子供が出来るの早すぎじゃないですか……」

「あ……確かに」

「全くもう……」


 アリスさんのその答えを聞いたからか、さっきまで騒がしかった周りの人たちが静かになる。いや何、君たち何なの……アリスさんのファンとかなの? あの、アイドルの親衛隊みたいな人なの?


 ……落ち着け僕。


「それで、その子は一体……」

「ちょっと縁がありまして。ネージュ、言っても大丈夫ですかね?」

「?」

「(ハーフエルフって言う事ですよ。あの時も言いましたが、本当の珍しいのでハーフエルフと言ってしまえばたちまち目立ってしまいます。ルアさんは信用できる方なので大丈夫だと思いますが、ネージュの意思を尊重します)」


 僕にだけ聞こえるくらいの声で、アリスさんが説明してくれる。

 そうだった。ハーフエルフだっていう認識になっているんだった……エルフと人の混血で産まれる種族で、非常に珍しいとの事だ。人でもあるし、エルフでもある。

 ハーフエルフの扱いについては、まあ、それぞれで違うけど基本的にはエルフとしても、人との間で産まれた子ではあるけど、エルフの血が混じっているのは間違いないって事で、エルフとして扱う人も居るみたい。


 一部、ハーフエルフについては冷たい人らも居るようだが……驚いたのは、そっちの方が少数派だって言う事だ。


 だって、アリスさんが説明してくれたけど、エルフって基本人との交流を一部は避けているし、大体は同じエルフ同士で集落とかで暮らすみたいだし。

 なので、人や、人との混血に対しては冷たいのかと思ったんだけどそういう訳ではないみたいだ。一部のエルフは集落なんかに閉じ籠らずに、外へ出てはあっちこっち回っている人も居るようなのだ。


 なんでも、確かにエルフ同士で暮らしてはいるけど、本人の意思を尊重しているそうだ。まあ、それが長老とか里の長とかに子だったらどうかは分からないらしいけど。

 アリスさんも、実際、エルフとは何回も会った事あるらしくて、どのエルフも普通に接してくれていたようだ。エルフの集落にも入れてもらった事があると言ってた。


 ほえーって思いつつ、その時はアリスさんの説明を聞いていたんだけど。


 話が逸れたが、アリスさんは自分の事をどうするか悩んでいる感じ。ハーフエルフと公言すれば、物珍しい目で見られるだろうし、結構な注目を浴びる可能性が高い。


 それは確かにちょっと嫌ではあるけど、変に隠して子ども扱いされるのも何か嫌だしなあ。


「うーん……注目を集めるのもあれだけど、子ども扱いされるのも嫌だなあ」


 どうするか。

 ハーフエルフだと言ってしまえば、少なくともこの街では子ども扱いされる可能性は低くなる。その代わり、珍しいと言う事で視線に晒されるだろうけど。


 ハーフエルフも、血の割合にもよるけど人間と比べると長寿だそうだ。しかも、老いる速度も純粋なエルフには負けるが、ゆっくりになると言う。更に言うとエルフの血の方が濃くなると、成長も一定年齢でストップするとの事。

 なので、見た目にそぐわない年齢である可能性もあるというか、そういうパターンがほとんどだそうだ。ただ知っての通り、エルフと人の混血は非常に珍しく、ほとんど見ないので何とも言えない所ではあるらしいが。


 さてどうするか。

 周りを見ると、何故か僕に視線が集中している。さっきか感じていたのはこの視線たちか……そんな見られても困る。


 Aランク冒険者のアリスさんと一緒に居たからって言うのもあるのかなあ。

 まあ、それはともかく……ここは、はっきりと言ってしまった方が良いかな? ただそもそもの話、ハーフエルフでもないんだけど。


 ……精霊だし。


 それを言うのは流石にしないけど、子ども扱いされるのが嫌ならこのままハーフエルフを装った方が都合が良いかな?


 うーむ。



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