第〇五話:ホキュラの街


「ここが私が今滞在している街で、ホキュラの街です」

「ホキュラの街……」


 アリスさんとの衝撃的な出会いがあったが、まあそれは置いとくとして、僕はアリスさんに案内されるままに一つの街へとやって来ていた。


「シュリア王国の入り口、国境沿いの街と言った感じですね。精霊の森方面の」

「ここが……」


 目的地であるシュリア王国。その国の入り口にある街、ホキュラ。

 あの後、色々と話をしてお礼をしたいという事で、宿を取っているこの街に案内された感じだ。まあ、僕も僕でまず目的地としては、シュリア王国だったので、拒む理由もなかったからこうやって案内されるままに来た訳だ。


 それでこのホキュラの街は、結構広い感じ。

 煉瓦を基本とした建物が多く立ち並び、街を守るように、高い壁のようなものが街を囲んでいた。城壁って言うんだっけこれ……。

 一階~三階建ての建物が目立つと言うか、それ以上高い建物は見当たらない。行き交う人々もかなり多く、国境沿いの街だからなのかな?

 後、街の中の道は結構綺麗な感じだ。石だか何だか見ただけでは分からないけど、歩きやすくなっているし馬車も動きやすくなっている。


「人が多くて驚きましたか? ここは国境沿いにある街っていう事もあって隣国からの訪問者も居ますし、精霊の森も近いので、冒険者が多いです」

「精霊の森が近いと人って多いの?」

「何て言えば良いか……精霊の森は、奥に行くに連れて魔物が強くなったり、希少な物が採取出来たりしますよね? それもあって、結構色んな冒険者が行ったりするんですよ」

「ふむ?」


 それはもう知っていけどさ。

 もっと詳しく聞くと、魔物の強さが段階的になっているから、戦闘経験を積むための練習にも使えたり、採取できる物にも色んなのがあるから、そういった物たちの見極めも出来るそうだ。

 精霊の森は確かに、素材とかが豊富だが、当然毒性のあるものや、有害な物、植物に化けている魔物等、危険な物も多い。


 確かに色んな方面での練習とかにうってつけなのかもしれない。


「まあ、そう言った理由もありますが、精霊の森には謎が多いからっていうのがやはり一番の理由かもしれません」

「謎……」

「未だに謎多き場所ですし、誰も踏破出来ていませんからね。中間より先になると、急激に魔物が強くなるので中々先に行けないのが現状です」


 どの辺りの中間を言っているかは分からないが、さっきも言った通り、奥地の魔物は凶暴で強いのは確かだ。でも中間くらいの魔物はそこまで強くないと思うのだが。


 ……いや、これはあくまで僕の感覚だからあれか。


「この大陸と言えば、精霊の森と言われるくらいですし……他の大陸からもそこそこの冒険者が来たりします」


 あ、そう言えばこの世界って確か5つの大陸からなるんだったっけ? まだ、発見されてない大陸とかが存在している可能性もあるので、全てとは言えないけど、人が住み、国が出来ている大陸はここを含めて5つ。

 他の大陸からも来るっていうのは結構、凄いと言うか何というか……精霊の森ってそんな場所だったの? 全然教えてもらっていないけど。


 いや、ティタたちはあそこで暮らしている訳だし、外がどう思っていてもそれが当たり前だって思っているから、特別教える必要はないと思っていたのかもしれない。


 ……そんな僕も、精霊の森でそこそこ長く過ごしていたから、当たり前だって思っている節はあるけど。


「長話が過ぎましたね。何かごめんなさい」

「それは別に……色々と分かったし」

「それなら良かったです」


 ティタたちにも色々と教えてもらってはいたけど、全てを知った訳じゃないしね。アリスさんの話も、僕が知らない事を知れたので、そこは良いと思っている。


 しかし、やっぱり地球とは全く世界観が違うなあって思う。異世界なんだから当たり前……と言われたらそうとしか言えないんだけどさ。

 命も地球と比べると軽く、治安も良い所はあるけれど基本的に街以外の場所は悪いと思って良い。魔物っていう敵対生命体も居るし、盗賊とかそういった連中も居るらしいし。


 街の中も人の目を盗んで犯罪を起こす事例が、少なからずあるらしいから何処も安全とは言い切れない。地球の少なくとも日本では考えられない。

 ……日本も割とあちこちで事件が起きているけどさ。


「早速、宿……と言いたい所ですが、まずはネージュの身分証を作っちゃいますか」

「え?」

「ないと、不便でしょうし。毎回、お金を払って一時的な滞在証明書を発行するのも面倒じゃないですか?」

「まあ、確かに……」


 これから先、手掛かりを探すためにも、色々と街とか村に行くだろうし、確かに毎回発行するのは手間かもしれない。それを考えると確かに身分証はあった方が……良いのかな。

 この街に入る時、そう言えばアクアに街に入るには身分証が必要って聞いていた事を思い出したけど、当然僕はそんなものは持っていない訳だ。

 それでこの街の場合は銀貨二枚だったので、それを支払って一時的な滞在証明書を発行してもらった。何か物珍しそうな目で門番さんとか、周りの人に見られてたけど、アリスさんを見たら、何故か納得と言ってた表情をしてたんだよね。

 これアリスさんの子供だか、妹だかに見られてない? その事をアリスさんに伝えたらこんな返答が帰ってきた。


『まあ、誰も普通はそう思いますよね……実際はネージュの方が歳上なのに。それに私はまだ16歳ですから、子供っていうのは流石に納得できませんね。とは言え、今はそう思ってもらった方が都合が良いのじゃないでしょうか』


 まあ確かに。実年齢を言った所で、どれくらいの人が信じるのか……一々それを説明するのも確かに、面倒な気がする。少し納得行かない所もあるけど、今はこのままで良いか。


 それにしても……16歳、か。

 地球で言ったら高校一年生くらいの年齢だ。その年で、Aランク冒険者っていうのは結構、凄いのでは? いや、冒険者のランク制度については詳しく知らないけど。


「どうかしましたか?」


 街に入る特の事を思い返していたら、アリスさんが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。


「いや、何でもないよ」

「そうですか? それじゃ行きますか」

「了解」


 と言うか、何処で身分証発行するの? 行先をまず聞いてないのだが……まあ、ついて行けば分かるか。そんなこんなで、僕はアリスさんの後をついて行くのだった。




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