第〇四話:冒険者の少女
「ありがとうございました。助かりました」
そう言ってお礼を言ってくるのは冒険者であるアリスさんだ。さっき、自己紹介をしてくれたのだが、何とこのアリスさんはAランクの冒険者だった。
それで、こちらも名乗らなくてはいけないと思い、ネージュという事を伝えた所だ。
冒険者っていうのにはランクがあるってアクアからは聞いている。
一番上がSSで、そこから順にSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランクとなっているらしい。らしいっていうのは、アクアから聞いただけなので、そう表現している。
もちろん、アクアが言っていた事が間違っているとか、嘘を言っているとかそういう訳ではなく、ほら、僕はこの世界の人じゃないので、ただ言われただけでは確信出来ない。
実際見てから、確信したいと言った所。
まあそれはさておき。
「良かった。味付けとかしていないからあれだったけど」
「いえいえ。レッドウルフのお肉は、味付けしなくても本来の味がありますから。それに、こんな道のど真ん中でそんな都合の良いものを求めるつもりもありません。まあ、味付けをすると更に美味しくなるのは確かですけど」
レッドウルフの肉は、アリスさんの言う通り素材そのものの味もあるので、味付けとかはしなくても食べられるのだ。とは言え、味付けした肉を食べた事がないので、なんとも言えないけど。
森の中でどう味付けしろって言う話である。それに、精霊なので食べなくても問題ない身体だし。まあ、木の実とか、そういうものを味付けに使う事は出来たかもしれないけどね。
「それで、何でアリスさんはこんな所で倒れていたんですか?」
「いえそれが……物凄く恥ずかしいのですが、森の中を調査するのに夢中になってしまって、早いうちにに切り上げるつもりが、気付いたら二日くらい森の中に居まして」
「ええ……」
ちょっとまって。
二日も森に居たの!? しかも何も食べずに? 精霊ならまだ分かるけど、どう見てもアリスさんは人間だよね? 飲まず食わずじゃ流石にやばいのでは。
「日帰りで戻るつもりだったので、荷物も軽めにしていました。食料とかも一回分だけしか持ってなかったんですよね。おまけに、精霊の森の中で少し迷ってしまいまして、やっと出られたかと思ったらさっきのザマです」
それは何というか……不幸と言うか、なんて言えば良いんだろうか。
「お恥ずかしい限りです……」
それにしても、精霊の森の調査か……森で何かあったのだろうか? まあ確かに、一時期、奥地の魔物が増加していたけど、ティタやアクアたちが間引いたはず。僕も参加していたし。
「何故精霊の森を調査していたのかと言えば、詳しくは言えませんが冒険者組合からの依頼でした」
「冒険者組合……」
「はい。知っての通り精霊の森は、この大陸の中でも一番謎が多い場所になってます。魔物が奥に行くに連れて強くなるっていう、特異性もありますしね。それらもあって、定期的に調査の依頼が出るんですよね」
「なるほど……って、そんな言っていいの?」
「このくらいなら問題ないですよ。普通に依頼として張り出されてますから」
「それならいいけど……」
結構詳しく言ってなかったか?
いやまあ、依頼内容までは話していないから大丈夫なのかな……それにしても、一番謎が多い場所か。でも確かにアクアも冒険者達がよく来るって言ってたな。
品質とかも良い素材とかが採取できるから、それらもあってそこそこの人が来るらしいし。
ただ、アリスさんも言っている通り、奥に行くにつれて希少な素材も出てくるが、魔物も強くなっていくっていうちょっと特殊な感じになっているんだよね。
特に奥地の魔物はかなり強い。
アクアが言うにはSランク冒険者で何とか相手できるくらいだったかな? アリスさんはAランクなので、奥地の魔物はちょっときついかもしれない。
まあ、もしかしたらかなり強いのかもしれないけど。
「精霊の森はこの大陸の三分の一を占めていますから、かなり広いんですよね。なので、調査にもかなりの時間がかかります。もちろん、全部見てこいとかいう無茶な依頼ではないですけどね。そんな依頼だったら断ってますし」
それは確かに。
大陸の三分の一を占めている面積を持つ森全部を調べろとか言われた、僕でも断る。僕も森全体を見た訳ではないからね……奥地と、結界のある場所付近が主な活動場所だったし。
「そんな訳で本当に助かりました」
「う、うん……良かったよ、本当に」
それでも、二日も森に居るって中々の無茶だよなあ……迷ったっていうのもあるし、準備不足な気がしないでもない。というか、食料とかももう少し持っておくべきだったのでは。
……いやまあ、今更言った所で意味ないんだけど。
「それで話が変わりますが、ネージュちゃんはこんな所で、何をしていたんですか? ここは道とは言え、魔物とかも良く出ますし危険ですよ。……私が言えた義理ではないですし、ネージュちゃんが居たから助かったのは事実ですが……」
ちゃん付け……はちょっと勘弁。
いや、こう見えても中身男だし、ちゃん付けとかちょっと気持ち悪い。……アリスさんの悪口を言っている訳ではなく、僕の個人的な問題である。
「ネージュで良いよ。ちゃんを付けられると変な感じ……」
「そうですか? 分かりました、それならネージュはここで何をしていたんですか?」
「特に何も。ただシュリア王国に向かっている所かな。後、心配しなくても僕こう見えて大人なので」
髪で隠れている耳をわざと見せる。
多分、このまま大人とか言っても信じられないだろうし、それならこの耳を見せれば人間じゃないっていうのは分かるはず。まあ、どういう種族になるかはわからないけど……。
「もしかして、ハーフエルフですか?」
「へ?」
ちょっと予想外の答えが帰ってきた。
ハーフエルフ……そういうのも居るのか。エルフが居るっていうのは聞いていたけど、それは聞いてないな。もしかしたら説明してくれていたけど、僕が覚えていないだけの可能性もあるが。
「まあ、そんな所。これでも二十歳は超えてる」
「年上……! ……うん、何かごめんなさい」
「大丈夫」
「それにしてもハーフエルフですか……」
「何かまずい?」
「あ、いえ、気に触ったのであれば謝ります。私が言いたいのはハーフエルフはかなり珍しいのです。基本、人との交流を避けているエルフが、人と結婚して子供を産むという事例は、全く無い訳ではないですけど、本当にレアなんですよ。私もハーフエルフを見たのは初めてです」
「え、そうなの?」
……ちょっとまずい事言ったかなあ。
でも、見た目通りの年齢ではないっていうのは伝えておきたかったし。かと言って、精霊と言うのも控えたい。というか精霊である事は言わない方が良いって言われたし。
「でも、なるほど。ハーフエルフならこの魔力も可笑しくないですね」
「ん?」
「いえ、先程からネージュからはかなりの魔力を感じていました。何かの間違いかと思いましたが、改めて見ても同じですし……これでも一応Aランクの冒険者なので、相手の力量くらいは予想できます」
「の割には、さっき、子供扱いしてたよね?」
「う……いえ、それはこんな見た目の可愛い女の子からそんな力を感じるなんて普通は、可笑しいと思いませんか?」
「……」
言っている事は分かるけど。じとーっと、アリスさんを見る。
「そんな目で見ないで下さい!?」
「だってねえ」
「すみません……本当に」
「まあ、別にそこまで気にしていないけど」
こんな見た目だし、僕だって最初会ったら子供だって思うよ。でも実際、この身体って何歳くらいになるのだろうか? 精霊という種族だし、人の年齢で測れるのかな。
まあ、それは気した所で意味ないけど。僕は僕であり、今はネージュだけど柊裕貴という地球人なのだから。最終的な目標は地球に帰る事だ。
……でもまあ、そもそもまず何の情報も手掛かりもない状態だから、それを探す所だけどね。
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